• トップ
  • 記事一覧
  • おいしいが未来を育む  土からはじまる食と農の新しい選択肢「Next Green Revolution」
SHOW CASE

おいしいが未来を育む  土からはじまる食と農の新しい選択肢「Next Green Revolution」


この記事に該当する目標
2 飢餓をゼロに 9 産業と技術革新の基盤をつくろう 13 気候変動に具体的な対策を
おいしいが未来を育む  土からはじまる食と農の新しい選択肢「Next Green Revolution」

気候変動や農業資材の高騰によって、野菜の味や価格が大きく揺れ動く時代。私たちの食卓は、地球規模の変化と無縁ではいられません。そんな今、食と農をめぐる課題に「土」から取り組む新しい運動が始まりました。その名は「Next Green Revolution(ネクストグリーンレボリューション)」。つくる人と食べる人をつなぎ、おいしさと地球環境のどちらも守る仕組みとは?

食を取り巻く現状から見える危機

近年、「野菜の味が薄くなった」「旬なのに高くて手が出しにくい」といった声をよく耳にします。その背景には、地球温暖化や土壌の劣化といった環境問題があるのです。異常気象の頻発、農業資材の高騰、そして土の栄養力の低下。これらが収量や品質の不安定さを招き、農業経営にも消費者の食生活にも影響を及ぼしています。

かつて、「緑の革命(Green Revolution)」と呼ばれる農業の技術革新が起こりました。それは、1940年代後半から1960年代にかけてのこと。高収量品種の開発や化学肥料・農薬の導入が進められ、発展途上国を中心に深刻な食糧不足を救ったとされています。

しかしその一方で、化学資材への依存や土壌の疲弊といった副作用が長期的に蓄積され、環境面・持続性の観点では多くの課題も残しました。

いま、同じ轍を踏まないためにも、「環境にも人にもやさしい農業=持続可能な農業」への転換が求められています。
そうした時代の要請に応えるかたちで、2021年に創業した農業ベンチャー・株式会社BGが立ち上げたのが、「Next Green Revolution(ネクストグリーンレボリューション)」です。

「土」を起点に、食と農のあり方を現代にふさわしいかたちへとアップデートする、新たな運動が始まっています。

なぜ「土」なのか? 農業の本質に立ち返る

前述の「緑の革命」によって、農業の生産性は大きく向上しました。しかしその反面、化学肥料や農薬への依存が進み、土壌の力は徐々に失われていくことに。高温や干ばつといった気候変動への耐性も弱まっており、農業の基盤そのものが揺らいでいるのが現状です。

そして、現在、日本の農地の99%以上が、化学肥料や農薬を用いた従来型の農業である「慣行農業」に分類されており、多くの土壌では有機物や微生物が不足しています。

こうした「土の衰え」に早くから着目してきたのが、BGの開発チームでした。”収穫量”、”おいしさ”、”環境への配慮のすべてを諦めない”、”トレードオフのない農業を数十年に渡り実践してきた”全国の農家を訪ね歩くなかで、持続可能かつおいしい野菜づくりの共通点として浮かび上がってきたのが、「土の多様性と健全性」だったのです。

そして、BGはもうひとつの本質的な課題として、「食べ手とつくり手の分断」にも注目しています。現在のフードシステムでは、消費者が農家の取り組みや想いに触れる機会が少なく、限られた情報の中で野菜を選ばざるを得ません。その結果、いくら良い土づくりをしても正当に評価されにくく、農家が環境に配慮した農法を続けにくい構造ができあがっていたのです。

だからこそ、BGは「土」からすべてを見直すことを選びました。土のちからを取り戻し、つくり手と食べ手の関係をもう一度つなぎ直すこと。それが持続可能な食の未来への第一歩だと考えたのです。

“おいしい”を軸にした2つの事業展開

「Next Green Revolution」が掲げるのは、“おいしさ”を味覚だけでなく、環境や健康を含めた価値としてとらえる新しい視点です。その実現に向けて、「食べる革命」と「つくる革命」という2つの事業が展開されています。

◆1. 食べる革命|Next Green Vegetables

「Next Green Vegetables(ネクストグリーンベジタブル)」は、日本初の“おいしい理由”が見える野菜ブランド。一般的な野菜が見た目や価格で選ばれるのに対し、この野菜は「土」に注目しています。

その根拠となるのが、BG独自の評価指標「Agri LCA+(アグリ エルシーエープラス)」。
これは「LCA=Life Cycle Assessment(ライフサイクルアセスメント)」という国際的な環境評価手法をもとに、農業全体を多面的に分析し、「おいしさ」や「環境負荷」を可視化するものです。

Agri LCA+では、以下の3つの観点から野菜を評価します:

① 土の生態系(微生物や有機物の多様性)
② 地球環境への影響(温室効果ガスの排出など)
③ 野菜と微生物の住環境(栽培環境の健全性)

こうして選ばれた野菜は、大手小売店や百貨店でのポップアップ販売を経て、2025年秋には正式にローンチ予定。都内を中心に全国の小売店へ展開が進む予定です。
「土を選ぶことが、野菜を選ぶこと」、そんな新しい選択基準が、食の常識を変えようとしています。

◆2. つくる革命|Next Green Method

一方、「つくる革命」は農家に向けた農法改革。持続可能かつ高品質な農業を実現するためのソリューションが、「Next Green Method(ネクストグリーンメソッド)」です。

このメソッドは次の3つの要素から成り立っています:

① Soil Solution(ソイルソリューション)
有機物とミネラルを発酵させた独自資材「Soil Next」により、土壌の保水性や栄養保持力を高め、肥料使用量の大幅削減を実現します。
② Agri LCA+
土壌や農業活動を数値化・可視化し、農家が自らの環境貢献を理解・伝達できるようにします。
③ Next Green Credit(ネクストグリーンクレジット)
良質な土づくりによる環境価値をクレジット化し、企業に販売することで、農家の収益を支える仕組みです。

これらのメソッドで、環境配慮・収益性・リスク耐性を同時に実現する農業が可能に。現在は北海道をモデルに、全国への展開が進められています。

おいしさを価値化する

「Next Green Method」の柱のひとつにもなっている「Next Green Credit」は、おいしい野菜を育む土がもたらす環境価値を、目に見える形で社会に届ける仕組みです。

土壌の健全性を高める農法は、単においしさや収穫量を上げるだけでなく、大気中の二酸化炭素の吸収、生物多様性の保全、水の浄化など、地球環境にも多くの恩恵をもたらします。
こうした目に見えない価値を可視化し、「クレジット(credit)=環境価値を証明する単位」として企業などに販売するのが「Next Green Credit」です。

企業はこのクレジットを購入することで、環境貢献の一環として自社の脱炭素経営に活用でき、農家側も収入源の多様化やモチベーション向上につながります。

食の未来を支えるのは、こうした「おいしさの裏側にある環境貢献」を、正当に評価し、価値として流通させる新たなエコシステムなのです。

土からはじまる、持続可能な未来へ

「Next Green Credit」によって、おいしい野菜づくりと環境保全が経済的にもつながる新しい循環が生まれつつあります。これは農業のあり方を変えるだけでなく、私たち一人ひとりの選ぶ力を育てていく可能性を秘めています。
株式会社BGが掲げる「Next Green Revolution」は、食と農の未来に対するひとつの提案です。

その核にあるのは、“おいしさ”を単なる味の評価にとどめず、環境や健康、つくり手の努力まで含めた「価値」としてとらえる視点。この考え方は、気候危機の時代において、食を選ぶ私たちの感覚をもアップデートしてくれるかもしれません。

おいしさの裏側にある「土」や「農家の想い」に目を向けること。それが、未来の地球にも、わたしたちの食卓にも、やさしさを残す選択になっていくはずです。

「Next Green Revolution」ウェブサイト


執筆 / フリーライター 小見山友子