「これからの時代に求められるオフィス」とは?Honda×Steelcase 座談会から理想のオフィスを考える
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コロナ禍を経てリモートワークが浸透する中、一部の国内企業でもアイデア創出に向けた社内コミュニケーションの活発化が重要視されています。多くの企業で社員が出社したくなるオフィス作りとして、多様化する働き方に寄り添う快適な環境の導入や人との交流を作り出す空間の創出など、新たなオフィスへの価値・創造が注目を集めています。
このような働き方に寄り添う快適な環境を提案する企業として、日本でも数多くの導入実績があるのが、オフィス家具メーカーのSteelcase。ハイブリッドワークや出社回帰といったマクロな動きを受け、オフィスを単なる「働く場所」ではなく「活気ある都市や街」のように捉える視点から、「Community Based Design(コミュニティーベースドデザイン)」を新たに提唱しています。
そんなSteelcaseが8月6日、総合モビリティカンパニーのHondaと、「これからの時代に求められるオフィス」をテーマに座談会を行いました。
「つくる責任、つかう責任」を果たしながら、人々がより豊かで充実した働き方を実現できるよう支援する


座談会の前に、まず登壇したのは日本スチールケース株式会社 セールスディレクターのRobert Lau(ロバート ラウ) 氏。Steelcaseが目指すのは、「Helping the World Work Better」だと語ります。世界各国に44の拠点を展開するSteelcaseは、オフィス家具メーカーとしては最大規模であり、100年以上の歴史を誇るオフィス家具のグローバルリーダーとして、世界の働き方を研究し、製品開発を行っています。
Steelcaseの目指す「Helping the World Work Better」は、「人々を支援する」ことが原点。人々がより豊かで充実した働き方を実現できるよう支援することを使命としています。その中で、グローバルカンパニーとしての責務を果たすため、「世界のすべての人と地球環境にとってより良い社会の実現」にも真摯に取り組んでいます。
Steelcaseの扱う製品のうち、サステナブルな指標を表す「BIFMA LEVEL認証」を取得している製品の数は2025年現在281製品。「カーボンニュートラル」も5年前の2020年8月にはすでに達成。2030年までに排出するよりも多くの二酸化炭素を除去する「カーボンネガティブ」、2050年までに「ネットゼロ」、バリューチェーン全体で炭素排出量を90%削減することを目標としています。


例えばSteelcaseの代表的な製品である「Karman」(カーマン)は、人間工学的サポート力を持たせた高機能張り地としなやかに屈曲するフレーム一体化した高機能チェア。環境負荷軽減のため、持続可能かつ必要最小限の部品で設計し、重さは13kgと、業界で最も軽量なワークチェアの一つとなっています。製品材料を減らすことで、エンボディドカーボン(内包炭素)の脱炭素化を実現。人にも環境にも優しい製品作りを叶えています。
イノベーションを生み出すための多様なスペースを設けたHondaの本社仮移転オフィス


続いて登壇したのは、今回Hondaの本社仮移転オフィスのプロジェクトを担当した本田技研工業株式会社の小山翔太氏。


Hondaは今年5月、Steelcaseとともに、企業文化である「MM思想」や「ワイガヤ」を体現するオフィスを新設しました。「MM思想」は、「人間のためのスペースは最大に、機械のためのスペースは最小限にして、クルマのスペース効率を高めようとする、Hondaのクルマづくりの基本的な考え方(Man-Maximum、Mecha-Minimum、マン・マキシマム/メカ・ミニマム)」、「ワイガヤ」は、「夢」や「仕事のあるべき姿」などについて、役割を超え、個人が徹底的にお互いの意見をぶつけ合い、成果を出すことを意味します。小山氏は新オフィスについて、「組織を超えたコミュニケーションでイノベーションを生み出す働き方、未来に向けた働き方をトライアルする場として計画した」と言います。


新オフィスはホームベースと言われる各自のデスクを起点に、自由に利用できるちょっとしたフリースペースから大小さまざまな会議室、カフェスペースなど多数のスペースを設け、用途に合わせて利用できる豊かな空間に。新たに設けられたカーテンだけで仕切ることができるAgile Spaceでは、視線を遮ることはできつつも会話を聞くことはできるため、これまでわからなかった他部署の課題や取り組みに互いに気付くことができるという新たな体験もあると言います。


また、カフェスペースを4つと多く設けたのには、フロア間の移動など、偶発的な出会いを増やすという目的があるそう。リモートワークの従業員も増え、人と直接顔を合わせることが以前より減った今だからこそ、顔を合わせたコミュニケーションを生み出すための工夫が凝らされています。
「働きがいも経済成長も」働く環境を整えることはオフィスへの投資ではなく“人への投資”
Steelcase、Hondaの2社により行われた座談会のテーマは、「これからの時代に求められるオフィス」。
まず、「これまでの働き方やオフィス家具について感じていた課題」について問われると、Hondaの小山氏は、以前のオフィスは縦に積み重なるフロア構成のオフィスだったことから、フロアスペースそのものの狭さや、会議室の数が不足していたこと、人の移動が少なく篭りがちになっていたことなどを挙げました。これに対しSteelcaseのRobert氏は、「会議室が足りない問題は世の中的にもすごく多い。」とし、新オフィスではどうかと質問。小山氏は、「新オフィスでも依然として会議室が足りないというシーンはどうしても発生してしまうが、カーテンで仕切れる場所や、予約なしでオープンに利用できるちょっとしたスペースというのが増えて、それをうまく活用することで従業員の満足度は上がっている」と答えました。


続いて話題が「これからの働き方におけるオフィスの在り方の変化について」へ移ると、Robert氏は、「そもそもオフィスにかける費用というのはコストではなく投資、さらに言えばオフィスへの投資ではなくて人への投資」だとコメント。オフィスの設備に費用をかけている、と考えるのではなく、働きやすい環境を作ることでよりパフォーマンスが上がるという点を重視し、モノではなく人に投資していると考える。これに小山氏も「Hondaの『MM思想』もそれに親和性があり、人への投資だと考えてオフィス作りをしている」と答えていました。


Hondaの新オフィスでは、集中することもできるし、コラボレーションもできる、前を見れば画面があり、仕切りを介しても両隣の人の表情も見れるFocus desk (おにぎり型)というワークステーションを導入。これも新たなコミュニケーション、イノベーションを生み出すための工夫の一つです。こうした設備を重視させることで、これまでにはない新たな価値を生み出すことができます。
最後に、「今後オフィス環境を通して実現したいこと」を聞かれると小山氏は、「これからも、オフィスの利用データを分析しながらオフィス空間を整備して従業員のパフォーマンスをあげていきたい」とコメント。Hondaでは、「Honda Future WorkStyle」という活動があり、各部門から選抜された従業員たちがアンバサダーとなり、皆でどんなオフィスにしたいかを考えるという取り組みも行われているそうです。


Robert氏は、「今はこんな風にオフィス設計をしている会社はまだ少ないけれど、これからこういう(コミュニケーションを中心に考えた)オフィス作り、そしてAIを活用したオフィス作りもどんどん増えていくと思う。」とAIについても少し触れ、「ニーズを理解してこれからの働き方に合うワークスペースを作って、そしてそこに合う家具を作っていきたい」と、今後に向けた思いも語りました。
今、環境に配慮したものづくりはもはや当たり前になりつつあります。そして、リモートワークも当たり前となったこの時代、出社したくなるオフィスであること、顔を合わせなくても仕事はできるけれど、そこであえて顔を合わせる機会をつくることには大きな意味があります。「どんな環境づくりをするか」、これが今後、企業の未来を大きく変えていくことになるかもしれません。
フリーライター Yuki Katagiri






