万博が、未知の課題を知り新たなパートナーとの共創のきっかけになれば――「ベストプラクティスデー」受賞者へのインタビュー
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大阪・夢洲で開催中の「EXPO 2025 大阪・関西万博」では、パビリオン展示だけでなく、いろいろなイベントが開催されています。先日に行われた「ベストプラクティスデー」では、世界の重要な課題を解決する良質なプロジェクトとして選出された「ペストプラクティス」受賞者らが、取り組みのプレゼンし、受賞者同士で交流しました。
そんな「ベストプラクティスデー」に参加した、SaathiのKristin Kagetsuさん、株式会社テクリコの杉山崇さんのお2人に、それぞれ万博やSDGsへの想い、プロジェクトの将来的なビジョンなどについてお話していただきました。
自分が学んで来た分野と、新しい分野を組み合わせることをしてきました
Kristin Kagetsuさんは、竹やバナナの葉など環境への影響が低い素材で作った女性用の生理用品の普及に努めているプロジェクトSaathiのCEOを務めています。


――本日のプレゼンでは、来場者やオンライン視聴の皆さんにどのようなことを意識して伝えましたか。
Kristin 発表では、国連サミットで示されているSDGsのゴールを意識してお伝えしていきました。私たちの取り組みも、SDGsについてはかなり意識して展開していますので、そこは念頭に置いていました。
――他の参加者のプレゼンや万博展示などで気になったものはありましたか。
Kristin 今日、ご一緒した方の中ではパイナップルの繊維で皮革のような製品をつくるプロジェクトが非常に興味深かったです。パビリオンもいくつか拝見させていただいたのですが、日本館はとても興味深かったです。バイオリアクターの展示は特に面白かったですね。いろいろなプロセスや処理を経て、さまざまなメカニズムをもって新しいものを作る技術というのが、興味深かったです。
――万博に参加することで、どのような影響を期待されていますか。
Kristin まずは、認知度をグローバルに広げ、高めていくことです。そして、プレゼンの中でもお伝えしたように、パートナーシップを結べるような存在を見つけられたらと思っています。健康と環境、その両方の課題を包括的に解決していきたいと考えていますし、多くの場合でそのどちらかを個別に見てらっしゃる場合が多いと思います。私たちは、その両方に取り組んでいきたいですし、メッセージをもっともっと広げていきたいですね。
――先ほど、フューチャーライフヴィレッジのブースでSaathiの生理用ナプキンを拝見させていただきました。男性なので普段は触れる機会がなかったのですが、化学繊維のものよりも肌触りが良いと感じました。
Kristin 実際に触れていただいて、ありがとうございます。やはり文字や言葉だけで説明するだけでは伝わり切らない部分があり、経験していただかなければわかっていただけないところはあるんです。触れていただいて、本当にやわらかい肌触りなんだなと知っていただく方法は、私たちがいつも苦慮しているところです。やはり口コミや、使ってくださった方がおっしゃっている評価を耳にしていただいて、試していただけるところはありますね。


――生理用品が行きわたらないことで、女性の健康だけでなく、学ぶ機会や働く機会にも悪影響があるということも、私を含め男性には理解が追い付いていないかも知れないと感じました。男性にも理解を深めて欲しいところですよね。
Kristin まさにその通りだと私も思います。私たちのウェブサイトでも、女性だけでなくそのパートナーとなる男性の方やご兄弟の方に、女性がどんな経験をしているのか、女性を支援するために男性の方々にもできることがあり、私たちが提供しているような製品があるんですよ、ということを伝えていきたいと思っています。
――私たちのマガジンではSDGsに興味を持った読者がたくさんいますが、行動をしたくても何から始めればよいかわからないという人も少なくありません。そういう方々に向けて、何かアドバイスはありますか。
Kristin 実は私たちもSDGsについては当初、あまり知らなかったんです。あとから学んでいったことでした。まずは、自分たちが社会にどんな貢献ができるのかを考えることが重要です。私の個人的なバックグラウンドをお話しすると、学んで来たのはエンジニアリングや工学系でした。多くの女性が生理用品を使うことができない、手に入れることができない現状があることを知り、製品づくりに取り掛かった時に、私たちが作る製品が環境に問題を起こすようなものではあってはならないと考えました。
それで、竹やバナナの繊維を原料とする製品づくりをしていくことになったんです。自分が学んで来た分野と、新しい分野を組み合わせることをしたわけです。
――自分にできることを見極め、そこに新しいことを組み合わせてプロジェクトを進めていったんですね。Saathiでは今後、どのようなビジョンを描いていらっしゃいますか。
Kristin 以前、生理用品を100万パッド配りたいと考え始めたときは、本当に大きく野心的なゴールだと思っていました。何年もかかると考えていましたし、実際に何年もかかったんですが、達成することができました。現在は配布360万パッドに達しています。次の目標の1000万パッド配布は、まだ道半ばですが、できるだけ多くの女性と女児に、生理用品を配りたいと強く思っています。
生理用品を使えないことで、感染症などの健康問題だけでなく、学校や職場に行けないなど学習や労働の機会を失ってしまう、生きるための大切なものが失われてしまっているという現実がありますので、その課題解決に尽力していきたいと考えています。
ネットワークが広がっていくにはコラボレーションが必要
株式会社テクリコは、MR技術を使ったリハビリ支援システム「リハまる」によるヘルスケア支援プロジェクトを行っており、杉山崇さんが代表取締役を務めています。


――本日のプレゼンにはどのような想いで臨まれ、終えてみてどのようなお気持ちでいらっしゃいますか。
杉山 私どもは大阪の企業ですので、万博という場が世界の人々へ発信できる大きな機会になればと思っていました。普段はIT業界や医療業界に腰を据えていますので、その業界の話題はよく聞くのですが、万博ともなると本当にさまざまな取り組みをされている方がいらっしゃいます。今日、ご一緒させていただいた方々も、私たちが知らないところにこのような課題があるのかと、知る機会になりました。やっぱりそれぞれの国や地域にニーズがあって、自然発生的に生まれたものがイノベーションを起こしていくのだなと感じましたね。
――万博を楽しむにあたって、何か準備しておくとよいことなどはありますか。
杉山 私自身もまだまだですが、それぞれの国の特徴や事情がありますので、そのバックグラウンドのようなところを事前に知識として勉強していくと、万博はより楽しめるのではないかと思います。
――大阪ヘルスケアパビリオンでは、テクリコの新サービス「リハまるGo」も出展されています。どのようなところに注目していただきたいですか。
杉山 私たちは、IT業界から医療分野に飛び込んでいきました。もともとはゲームなどを作っていて、エンターテインメント性や楽しみながらできるという部分は、すごく重要視しています。今回の展示でも、本当にみなさんに楽しんでいただいていて「すごく面白かったです」とたくさんお声をいただいています。おかげさまで行列ができてしまって、受付もパンクしてしまうような状況が続いてしまっているのですが、そういう”楽しさ”を大切にしているところは、ご覧いただく価値になっているのではないかと自負しています。
――リハビリと聞くと、苦痛で大変というイメージがどうしても先行してしまいますが、楽しみながらできるというのが非常に魅力的ですね。
杉山 そうなんですよ。純粋に、楽しくて、面白いんです。多くのみなさんがなんとなく恐れている認知症やそのほかの課題にもしっかりフォーカスして、家庭向きに予防に使えるようなソリューションをご提案しているので、より身近に感じていただけるのではないかと考えています。


――SDGsにつながる取り組みに参加してみたいと思っていても、何から始めたらよいか分からないという人が少なくないのですが、どのようなことから始めればよいと思われますか。
杉山 私の場合は、知人が脳卒中になったことがきっかけでした。IT畑でずっとやってきて医療については門外漢でしたし、医療というすごい業界で、ゲームのようなものやITの最先端技術が受け入れていただけるのかという不安はありました。でも逆に知らないからこそ、知らぬが仏じゃないですけど、怖いもの知らずの気持ちで行きました。そうすると医学界の先生方も、新しいものに触れる機会がなかったので、すごく喜んでいただけたんです。結果オーライでしたね。なので、あまり不安とかの先行イメージで辞めてしまわずに、一度行ってみることがいいんじゃないかと思います。
私は最初、医療のシンポジウムに出て、その時に登壇されていた先生に「私たちはこんなことをやっていて…どう思いますか」とご意見を頂いていったんです。そこから、面白いことをやっているね、と興味を持ってくださった先生方につながっていきました。やはり、独自の取り組みだけでは限界があります。ネットワークが広がっていく時にはコラボレーションなどがないと、なかなかイノベーションは起きません。そういった意味で、万博は、いろいろなことを感じ取ってもらえる環境になっています。
自分の中に何か気付いたことがあるならば、そこに近い人のところにどんどん飛び込んでいくことが大事なのではないでしょうか。
――万博を経て、これからプロジェクトの姿をどのように描いていらっしゃいますか。
杉山 ひとつは海外展開、世界展開に向けて取り組んでいくということですね。現在はリハビリテーションという形で病院などに導入していただいていますが、家庭の中で自然に楽しんでいただくことで、それが予防につながったり、治療につながったりするような世界を、私たちは作ろうとしています。それが広がっていくように目指していきたいです。
「EXPO 2025 大阪・関西万博」は10月13日(月)まで開催され、フューチャーライフヴィレッジの「ベストプラクティス」以外にもさまざまなSDGsへの取り組みがパビリオンやイベントなどで紹介されています。ぜひチェックしてみてくださいね。






