東京駅『宵路灯籠』の取り組み。縁日の賑わいを現代に再生し、持続可能な街へ
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東京駅、その周辺は常に多くの人々が行き交う日本の心臓部です。東京駅八重洲エリアで、かつての「縁日」が持っていたような賑わいを現代に蘇らせ、人と人、街と街を結びつける試みが行われています。
今年で4回目となる「宵路灯籠(よいみちとうろう)」は、まさにSDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」を体現するイベントです。本記事では、この取り組みがなぜ今重要なのか、その背景と未来への可能性を取材しました。
2025年8月29日から9月7日までの10日間、JR東京駅グランルーフガーデンで開催される「宵路灯籠2025」。主催する一般社団法人東京ステーションシティ運営協議会によると、このイベントは「江戸の夕涼みと人を繋ぐ縁日のカルチャー・風景の復活」をテーマに2022年から始まりました。単なる夏のイルミネーションイベントではなく、東京駅という東西の文化が交差する場所で、人々が集い交流する夏の文化を創造し、未来へ続く風景を作りたいという強い思いが背景にあります。


今年のテーマは「八重洲花火」。会場には伝統的な花火のデザインが施された約100基の灯籠が並び、
グランルーフの大屋根には全長40mのプロジェクションマッピングでダイナミックな花火が打ち上がります。これは、昔ながらの文化を大切にしながらも、現代の技術と融合させることで、新しい世代にも魅力が伝わる工夫と言えるでしょう。
この取り組みの特筆すべき点は、エリア全体を巻き込んだ「面」での展開です。会場向かいの東京ミッドタウン八重洲と連携し、手持ち提灯を無料で貸し出し、八重洲の街を散策する「やえす提灯あるき」を実施。参加者が提灯を手に思い思いに街を歩き回り、来場者は一つの会場に留まることなく、八重洲エリア全体の新たな魅力を発見するきっかけを得られます。
さらに今年は、初日に地元の子どもたちが参加する「やえす提灯行列」が初めて行われました。子どもたちが提灯を手に街を練り歩く光景は、幻想的な夏の思い出となるだけでなく、次世代へ地域の文化をつなぐ機会を育むことになるはずです。
本イベントを企画した、一般社団法人東京ステーションシティ運営協議会の杉﨑さまにお話をお聞きしました。
「この『宵路灯籠』は、単なる夏のイベントではありません。私たちは、東京駅という日本の玄関口で、かつての縁日のように人々が自然と集い、交流できる場を創出したいと考えています。地域の皆様、特に未来を担う子どもたちが、提灯の灯りを通して自分たちの街・八重洲に新たな魅力を発見し、愛着を深めてくれることこそが私たちの願いです。文化を継承し、地域のつながりを育むことで、誰もが誇りを持ち、住み続けたいと思える持続可能な街づくりに貢献できると考えています。」
「宵路灯籠」の取り組みを取材して見えてきたのは、これが単なるイベントではなく、大規模ターミナル駅が持つべき新たな役割を模索する先進的な挑戦であるという点です。東京駅は日々、数え切れない人々が「通過」する場所です。しかし、このイベントは、駅を「通過点」から、人々が「滞在」し、文化に触れ、交流する「目的地」へと変革させようとしています。これは、都市の機能が効率性ばかりを追求する中で希薄になりがちな、人間的な温かみやコミュニティの再構築を目指す動きに他なりません。
また、伝統文化の継承方法にも注目すべきです。プロジェクションマッピングのような最新技術を取り入れることで、若い世代や海外からの観光客にも親しみやすい形で日本の夏文化を提示しています。これは、文化を静的に保存するのではなく、時代に合わせて形を変えながら未来へつないでいく「動的な文化継承」の好例と言えるでしょう。


「宵路灯籠」は、東京駅という大都市の中心で、かつての縁日が持っていたような人と人とのつながりと地域の賑わいを取り戻そうとする、意義深い取り組みです。幻想的な光に包まれながら夏の夕涼みを楽しむ体験は、私たちに、効率や便利さだけではない、街の豊かさとは何かを問いかけてくれます。このイベントは、文化の継承と地域連携を通じて、誰もが住み続けたいと思える持続可能なまちづくりに貢献しています。ぜひ一度足を運び、未来へつながる光を体感してみてはいかがでしょうか。






