戸田建設が手掛ける「浮体式洋上風力発電」とは 前編 日本初の取り組みがもたらすSDGs実現の未来
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当WEBメディアと連携し、パーソナリティの新内眞衣さんとともに未来の地球をより良くするための17の持続可能な開発目標からなるSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。9月7日の放送では戸田建設株式会社(東京・中央区、大谷清介社長)が手掛ける「浮体式洋上風力発電」に注目した。SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」につながる取り組みを2週にわたって深堀りする。
大きく分けて2種類ある「洋上風力発電」
「浮体式洋上風力発電」の大規模発電所が、まもなく国内で初めて運転を開始しようとしている。「浮体式」とは海底に基礎部を固定せず風車自体を海に浮かべる方式で、この夏にはテレビCMでも紹介され、興味を持った人もいるかもしれない。日本初の取り組みとなる同事業を手掛けるのが戸田建設。今回はカーボンニュートラル社会の早期実現へとつながる世界最先端の技術を学ぶべく、新内さんが戸田建設九州支店・洋上風力プロジェクト部部長の野又政宏さんに話を聞いた。


新内 「よろしくお願いします」
野又 「戸田建設の野又です。よろしくお願いします」
新内 「九州支店ということは、普段は東京にはいらっしゃらないということなんですか」
野又 「そうですね。東京には会議などで月に1回来るぐらいです。普段は福岡の支店、もしくは五島の現場におります」
新内 「そうなんですね。では今日、東京にいらっしゃった感じですか」
野又 「そうですね。4時前に着きました」
新内 「あっ、ぎりぎり(笑)」
野又 「はい(笑)」
新内 「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」
まず新内さんが尋ねたのが、そもそも「洋上風力発電」とは…という疑問。「ざっくり概要から伺ってもよろしいでしょうか」と切り出した。


野又 「洋上風力発電には、大きく分けて2種類あります。比較的水深が浅い所に設置する『着床式』と水深が深い所に設置する『浮体式』というものです」
新内 「ほぉ」
野又 「『着床式』は海の中に基礎を造って固定されているのに対して、『浮体式』は海の上に浮かべた状態で設置するものです」
新内 「浮かべているってことは、どうやって電気を送るんですか」
野又 「ケーブルも浮いた状態でつながって、ある程度の距離をいったら、下…海底に這わせるような形ですね」
新内 「陸にある風力発電と何が違うのでしょう」
野又 「基本的に、風車って呼ばれる羽がついた部分とその下の筒、タワーと呼ばれる部分は陸上も同じなんですね。それに対して、洋上の浮体式になると、それを浮かべるための浮体、浮かべるものが、必要になるというところがまず違います」
新内 「はい」
野又 「あと、陸上のものは固定されて動かないですけど、浮体式はどうしても動いてしまうんです、浮いているものなので。それを、いかに動かないように設計して発電するかっていうところが、ちょっと難しいところです」
新内 「倒れたりはしないんですか」
野又 「陸上に比べて、確かに動きます。ただ、風が吹いている時にあっちに行ったり、こっちに行ったりするとうまく発電ができないので、そこをいかにコントロールして、ピタッと止めるかっていうのが風車メーカーだったり、浮体をつくる設計だったりの技術なんです」
新内 「洋上でやるメリットは?」
野又 「まず、陸上に比べて設置できる場所が広いということ。それと、陸上に比べて洋上の方が風が強い」
新内 「あ、やっぱり強いんですね」
野又 「はい。風車は風で全然、発電能力が変わってくるんです。平均風速が1メートル違うと、もうかなり大きな違いが出ますね」
新内 「えっ!そんなに違うんですね」
■プロジェクトの歴史をたどる
戸田建設が手掛ける「五島洋上ウィンドファーム」があるのが、長崎県五島市崎山沖の周辺海域。ここに何基もの巨大な風車が設置されている。


新内 「五島には今のこところ何基ぐらいあるのでしょうか」
野又 「五島の『浮体式洋上風力』でいうと、われわれは今、8基のプロジェクトでやっています。それより前…13年ぐらい前になるんですけど、環境省の補助事業で1基建てたものがあって、全部で9基あります」
新内 「今、13年前からっておっしゃっていましたが、この『浮体式洋上風力発電』のプロジェクトは、13年前からやられているということですか」
野又 「洋上風力発電のプロジェクト自体は2007年からです」
新内 「結構、前!」
野又 「当時、京都大学の先生と共同で開発を始めて、その時は模型実験からでした。そこからスケールを大きくして水槽実験だったり、海上での実験だったりをやっていって、2012年に環境省の補助事業で『小規模試験機』って当時言っていた100kwの浮体式洋上風力の風車を設置したというのが、日本初の洋上風力の発電設備っていう形になります」
新内 「13年前に初めての機械が建ったっていうことですけども、事業としてだんだん大きくなっているということですか」
野又 「そうですね。当時の商用ベースと言われている2MWクラスの浮体式の洋上風力発電設備を五島の海に浮かべています」
新内 「2012年当時の100kwから2MWって、相当大きくなっていると思うんですけども」
野又 「そうですね」
まず2007年に1/100スケールの模型実験で始まったプロジェクトは、徐々に規模を大きくして2012年に1/2スケールの小規模試験機による100kWの設備に。さらに「はえんかぜ」と名付けられた2MWの実証機の設置に成功したのが2013年10月のことで、実証機は2015年に「五島ウィンドファーム」のある現在の崎山沖へ移設された。野又さんは「1/2から次の2MWまでを1年でやったということです」と説明。そのスピード感に新内さんは「すごいですね!」と目を丸くした。
新内 「五島でやろうとなったきっかけはあるんですか」
野又 「まず浮体式の洋上風力発電というのは国内ではまだ、その時どこもやっていない状態で、われわれがやっている『スパー型の浮体』というのは、ある程度の水深が必要になるんです」
風車を浮かべるための浮体施設にはいくつか形があり、箱や短い円柱を組み合わせたものや、この「スパー型」と呼ばれる円筒形の細長いものなどがある。


野又 「さらには風が吹く場所。やはり、初めてのことなのであまり遠い海には設置したくないということもありました。あとは、風力発電なので系統連系といって海底ケーブルを陸上の送電線と結ぶ必要がある。そういった条件をいろいろ加味して、一番の適地が(当時の実証機を設置した)五島の椛島沖だったんです」
■「浮体式」のメカニズム
新内 「五島の沖から、どこかに行っちゃうことはないんですか」
野又 「(笑)」
新内 「何か海に乗って(笑)。そういうことを防ぐメカニズムが、そもそもあるんだろうなって思って」
野又 「浮体式にもいろいろ種類があって、もちろん浮かべるのは一緒なんですけど、例えば箱型のものだったり、ちっちゃい円柱状のものを組み合わせて浮かべるやつがあったりします。われわれがやっているのは『スパー型』と呼ばれる、細長い円筒形の筒が浮かんで、その上に風車が乗っているというものになります。当然、そのまま海に浮かべているので波を受けたり、風を受けたりしたら流される。それを防ぐにはいろいろな方式があるんですけど、係留といって、3本のチェーンでつないでその場に留めています。『スパー』って円筒形で、中は空洞になっていて、今回の2MWクラスだったら全長で176メートルくらいあるんです」
新内 「大きい!」
野又 「そのうちの76メートルぐらいは水の中にあります。その中の空洞部分にバラストと呼ばれる重りと水を入れて、要は重心をどんどん下に下げてあげる。そうすると、倒れない」
新内 「へ~」
野又 「釣りの棒ウキのように、下に重りが付いていたら、風を受けても、波を受けても、ゆらゆらするけど倒れない構造にしています」
新内 「なるほど! 五島だと台風の影響とかもあると思うんですけど、それも大丈夫?」
野又 「100kwを初めて設置した時に、当時設計で想定していたよりもものすごく大きな台風が来て、それでも大丈夫だったんですよ」
新内 「ほぉ~、すごい!」
野又 「ただし、それを経験して設計値を見直して、知見を積み重ねながら、設計する時に波の高さだったり、風の強さだったりっていうものの設計値を設けてつくっています」
新内 「なるほど」
■環境にも配慮
新内 「洋上に浮かべておくとなると、環境面への影響はないんですか」
野又 「水質の環境、例えば魚だったり、海生生物だったり、そういったものへの影響も併せて、いろんなものを調査しています。その結果、大きな環境影響を与えるような結果にはならなかったということが分かっています」
新内 「洋上風力をすることによって、何か効果とかも出てきたんですか」
野又 「海の中にものを浮かべているので、そこに魚が集まる『集魚効果』というのがあって、その映像を地元の方に見せた時に、一番漁業者の関心が高かったっていうところはありますね」
新内 「集魚効果って、どういったものなんですか」
野又 「釣りをする方は多分よく分かると思うんですけど、水の中に構造物がポツンとあると、そこに影ができたり、ちょっとした流れの変化とかができたりするんですね。そういうところに魚がつくんです。それと同じ効果です。さらには浮体式、例えば2MWだと76メートルぐらい水の中に入っているっていう話を先ほどさせていただきましたが、そこには藻とか海生生物がいっぱいついている。さらに魚が集まるような状況ができているっていうところですね」
新内 「へ~。そうだったんですね」
野又 「はい。漁師さんたちも『魚が寄るんだから環境的に問題ないよね』って」
新内 「説得力が!」
野又 「はい、分かりやすく説得力があったっていうことですね」
新内 「本当に、地元の人たちの理解も深めてから運用していくに至ったっていう感じなんですね」
野又 「そうですね。まず環境省の実証事業でやった1基があって、それでいろいろな評価をして、いろいろなところを見てもらって、地元の人にも見てもらって、そこから理解がどんどん深まっていったっていうところですかね」
そうした実証実験、事業を進め、いよいよ稼働が近づいているのが先述した「五島洋上ウィンドファーム」だ。
野又 「こちらはまさに今やっている事業で、2019年に施行された『再エネ海域利用法』(再生可能エネルギー発電設備の整備に. 係る海域の利用の促進に関する法律)というものに基づいて公募占用計画というのを出すのですけど、それで認定を受けた第1号の案件です」
新内 「第1号ってことは日本初の試みってことですか」
野又 「そうですね。浮体式のウィンドファームとしては日本初の事業になります」
新内 「これがもうできたってことは、これから運用されていく、開始されていくんですか」
野又 「やっと先月工事が終わって、8基が海に浮かんでおり、そこに海底ケーブルをつなげるところまでをやっと…」
新内 「(拍手)できたてほやほやですね!」
野又 「はい」
新内 「いつ頃から稼働が開始されるんですか」
野又 「運転開始は来年の1月を予定しています」
新内 「おっ! まもなくですね」
野又 「はい。今は設置し終わって、これから順調に発電するための試運転、調整とかをやっていく状況になっています」
新内 「なるほど。これからもまだまだやることがたくさんありそうですけど…」
野又 「そうですね、でも、まぁ今までのことを考えれば、これからはちょっとゆっくりできるかなと思っています」
新内 「あーっ(笑)。おめでとうございます!」
さまざまな困難もありながら、課題を解消しながら乗り越えて、いよいよ稼働の時が迫る戸田建設の「「浮体式洋上風力発電」。今回は、その基本や歴史、現状などを聞いた。次週は、さらにこのプロジェクトを深掘り。SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」にもつながる「地域とのかかわり」などにフォーカスする。
(後編につづく)

