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2025大阪・関西万博シグネチャーイベント「EARTH MART FORUM」が、食の未来に種を蒔く


この記事に該当する目標
12 つくる責任つかう責任 13 気候変動に具体的な対策を 14 海の豊かさを守ろう 15 陸の豊かさも守ろう
2025大阪・関西万博シグネチャーイベント「EARTH MART FORUM」が、食の未来に種を蒔く

10月10・11日、大阪湾をクルーズする客船「飛鳥Ⅱ」に国内外から集ったのは、250人の食の探究者たち。“食を通して いのちを考える”大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「EARTH MART」の集大成としてフォーラムが開催されました。料理人、生産者、研究者、経営者などが立場やジャンルを超えてリアルに交流し、繰り広げた多くの対話。持続可能な食の未来を輝かせるためには? いくつもの新しい種が生まれました。

10月10日、正午。食の探究者たちがランチを楽しむ中、「飛鳥Ⅱ」は静かに出航しました。

ビュッフェを彩ったのは、「食の未来を輝かせる25人」に選出された料理人のレシピや生産者の食材を使った一品の数々。
「リージョナルフィッシュ」の「22世紀のふぐ刺し」に、「北三陸ファクトリー」の「UNI BUTTER SPREAD」。「ESqUISSE(エスキス)」エグゼクティブ シェフのリオネル・ベカさんによる「見守る海 牡蛎水寒天ゼリー」などなど。

食の社会課題と向き合い、継続可能な未来を見つめた多くの提案は、美味しさを通して200人の舌に、心に響き、1泊2日の船旅は和やかに幕を開けました。

「食の未来を輝かせる25人」を選出

「食の未来は今日、ここから始まります」。
総合プロデューサー・小山薫堂さんがフォーラムの開会を宣言。「対話が生む新しいうねりが『EARTH MART』のレガシーになることを祈っています」と言葉を繋ぎました。

続いて、「EARTH MART」とグローバルビジネス誌「Forbes JAPAN」が選出した「食の未来を輝かせる25人」表彰式へ。グローバルに活躍する起業家や生産者、研究者、料理人が、その活動と共に一人ずつ紹介されました。

14時15分からはメインイベント「食の未来会議」がスタート。先の25人が2人1組となり、4つの会場×3部構成で計12のトークセッションを繰り広げました。

トークセッションによる「食の未来会議」

第1部で私が拝聴したのは、「Oishii Farm」共同創業者兼CEOの古賀大貴さん×「北三陸ファクトリー」代表の下荢坪之典(したうつぼゆきのり)さんの対話。

アメリカで創業した「Oishii Farm」は、植物工場ながら、蜂による自然受粉でイチゴの安定量産に成功。名だたるレストランの評価を得ています。
藻場を保全しながらウニの養殖を実現した「北三陸ファクトリー」は、オーストラリアに進出し、アジアへの輸出も。

「お金持ちしか生野菜が食べられなくなる」「2048年には寿司がなくなる」という危機的未来を、日本のイノベーションで変えていく。今までの農業や漁業の延長線ではない、新しいサスティナブルなカタチが語られました。

最後に2人は「食の未来を輝かせるヒントになるキーワード」をフリップで披露。古賀さんは「野菜は今世紀最大のチャンス」、下荢坪さんは「サスシー(サスティナブルシーフード)」という造語をしたためました。

第2部は、農学博士・川崎寛也さん×フードジャーナリスト・仲山今日子さんのトークセッションへ。「日本料理を世界にいかに伝えるか?」をテーマに、白熱した議論が展開されました。

印象的だったのは、川崎先生のフリップに書いた言葉。「日本料理の『無』に着目せよ」。我が国の食文化が培った無数の見えないものが、日本料理の価値を作っている──。料理を伝えることの本質を示唆しているようでした。

第3部は、食農の倫理学者・南山大学の太田和彦准教授×新潟の名宿「里山十帖」料理長・桑木野恵子さんによる、「未来の『食の豊かさ』とは? 里山から、“いただきます”の意味を問い直す」を拝聴。

山の幸を自ら調達し、旬の料理を仕立てる桑木野さんの言葉には説得力がありました。「人が入らないと山は荒れる」。料理人として、食の未来に必要なのは「山で遊ぶ」ことと説き、自然と共存しながら昔ながらの食文化を紡いでいきたいと力強く語りました。

「食の未来を問うには、今の食の成り立ちを知ることが大事」と力説したのは、太田先生。かつて人間は食べることを調達から始めていましたが、現代はその心配をしなくてもいい。「私たちの日々の食卓は、かつての誰かの食の未来」というフリップの言葉が、参加者に響きます。

古来の食文化を繋ぐ人、新しい農のカタチに挑む人、海の環境の再生に努める人。食の探究者たちはそれぞれに信じる道があり、必ずしも向かう方向は同じではありません。けれど共通しているのは、「何もしなければ、食の未来は輝かない」ということ。参加者の心の中に能動という種をまく。そんな有意義なトークセッションでした。

新時代の若き才能によるスペシャルディナー&日本酒の宴

17時、11階のプールサイドには5つの蔵のブースが並びました。500以上の酒蔵を訪ねた中田英寿さんが選んだ日本酒は、秋田「新政」、三重「而今(じこん)」、栃木「仙禽(せんきん)」、熊本「産土(うぶすな)」、京都「日日」。参加者は蔵元との対話も愉しみ、サンセットと共にアペリティフを味わいました。

そして19時、スペシャルディナーの会場へ。コースを仕立てたのは、35歳以下を対象にした料理人コンペティション「RED U-35」のグランプリ受賞者6名。「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」落合 務シェフが監修を務めました。

「茄子 米麹」は、ナスの持ち味を率直に引き出しながら、麹による複雑味を帯びた快作。
鮮魚と発酵野菜で奥行きのある旨みを創出した「発酵唐辛子と鮮魚の蒸しスープ」。
コロナ禍の不安と未来への希望をジビエと野草で表現した、「芽吹」という名の一皿。

イノベーティブ、中国料理、日本料理などジャンルの違う若き料理人が手掛けた7品には、それぞれの未来への想いが宿っていました。

食後は観月会と題したアフターパーティへ。11階のプールサイドで日本酒を片手に語らうひと時が、多くの交流を生みました。

蒔かれた種が、未来の食の花を咲かせる

「今回のフォーラムは、船での開催に意義がありました。日本の食を語る時、北前船や菱廻船の存在は欠かせません。また、『飛鳥』のコンセプトは「つなぐ、ちから」です。さて、最後のセッションを始めましょう」。

翌朝11時。小山薫堂さんの挨拶で始まったクロージングイベントは、シナリオのない“化学反応型カンファレンス”となりました。「言い足りないことがあれば、ぜひ!」と促すと、会場のそこここで参加者が手を挙げます。

「3000あった醤油蔵は、この30年で800軒に。後継者問題や人手不足の課題も認識してほしい!」とは、「食の未来を輝かせる25人」に選ばれた「麹屋三左衛門」の29代目。

「Chefs for the Blue」を率いるジャーナリストの佐々木ひろこさんは、「魚介の養殖は、海の生態系を壊さない配慮が必要」と強く訴え、持続可能な水産業の在り方を問いました。

リアルに繋がったからこそ、想いをぶつけ合える。そこにある壁を互いに認識できる。そして、美味しいという感動を共有したことで、対話はぶつかり合っても未来へと向かう。「この船旅で新しい種を手にした実感がある方は?」という小山さんの問いかけに、会場の大半の参加者が挙手し、フォーラムは盛会のうちに幕を閉じました。