【再春館製薬所の未来戦略】自然と社会をつなぐドモホルンリンクル50年のSDGsストーリー
この記事に該当する目標




再春館製薬所をご存じでしょうか。同社が展開する主力スキンケアブランドといえば、「ドモホルンリンクル」。このブランドが2024年に誕生50周年を迎えました。長年にわたり愛されてきた理由は、製品の品質の高さだけでなく、SDGsの理念に通じる“自然との共生”や“東洋医学の視点”を土台とするブランド哲学に、多くの人々が共感してきたからです。
その核となるのが、漢方発想にもとづく「自己回復力」。肌が本来持つ力を引き出すことを目指し、使う人の心身のレジリエンスに寄り添う製品として設計されています。「自然とつながり、人とつながる明日を」という理念のもと、同社は漢方の精神を製薬・化粧品ビジネスの中で一貫して体現してきました。本稿では、再春館製薬所がこれまで取り組んできた環境・社会への活動を、SDGsの視点から改めて紹介します。
水資源の循環:阿蘇の伏流水を未来へつなぐ


再春館製薬所は、2016年熊本地震で震度7を記録した熊本県益城町にあります。ここ益城町・阿蘇地域は、世界最大級のカルデラがつくる“天然の巨大ろ過装置”ともいえる水の宝庫です。雨水が数十年かけて磨かれた清らかな伏流水は、ドモホルンリンクルの原点であり、地下200メートルから汲み上げられるミネラル豊かな天然水は、すべての製品の基盤となっています。


取材で訪れた熊本阿蘇の白川水源では、ブランドの原点ともいえる「水」の重要性を実感します。


本社敷地では、雨水を地中に戻す「涵養(かんよう)」活動を続け、年間約20万トンもの水を還元しています。自然に戻すサイクルの仕組みを確立し、“使用した水の2倍を自然へ返す”取り組みを実践しています。また、生薬を煎じたあとに残る「煎じカス」を堆肥化して敷地内の畑にまいて野菜を栽培し、その野菜を使ったメニューが社員食堂で供されています。


さらに2024年からは、地下水を守るために公益財団法人くまもと地下水財団への5年間の寄付を開始しました。SDGs 6の目標である持続可能な水循環の確保に貢献しつつ、地域の貴重な水資源を次世代へつなぐ活動を強化しています。
素材調達が示す「アップサイクル型ものづくり」


ドモホルンリンクルに使われる唐津ツバキ油、パーム油、山鹿有機シルクパウダー、発酵マルチプルコラーゲンは、「無駄を価値へと再生する」という再春館製薬所のアップサイクル哲学を象徴する素材です。単なる美容効果にとどまらず、地域社会の活性化や環境保全にもつながる“循環型の原料”として活用されています。
再春館が掲げる思想は「天人合一」──自然の恵みを活かし、また自然へ返すという東洋医学の精神と科学の融合です。その思想は素材探索にも明確に息づきます。


唐津ツバキ油:離島に自生する椿を地域資源として産地化し、持続的な産業と雇用を創出。
パーム油:熱帯林と野生動物を守るため、環境・労働に配慮したRSPO認証油のみを採用。
“資源を無駄にしない循環型”の調達による原料探索には、「自然と共生し続けるため、享受した恵は自然に還し、自然に負荷をかけない社会であるべき」という企業姿勢が息づいています。さらに副産物・規格外品・余剰資源を新たな価値へと再生する“アップサイクル素材”を積極的に採用し、社会課題の解決につながる原料調達(SDGs12, 15)を推進しています。


その根底にあるのは、「人間も自然の一部である」という漢方の考え方です。自然への感謝を忘れず、頂いた恵みを大切に使いたいという考えのもと、工場屋上には2001年から13年の月日をかけて、建物の屋根や敷地内にソーラーパネルを設置しました。敷地内で使用する年間電気料(電力自給率)100%を達成しており、年間3,356トンのCO2削減を実現しています(2022年1月末時点)。
持続可能な物流への転換(モーダルシフト)によりCO₂排出量78%削減


再春館製薬所は、国内物流における環境負荷低減を目指し、佐川急便・日本貨物鉄道などとの4社協業によって、モーダルシフトを実現しています。鉄道コンテナ輸送を活用し、CO₂排出量78%削減を実現し、第26回「物流環境大賞」*1を受賞しました。この取り組みは、SDGs『13:気候変動に具体的な対策を』に貢献する、実践的かつ戦略的な環境アクションです。
*1近年物流分野においても環境との調和がますます重要となっている現状から、物流部門において優れた環境保全活動や環境啓発活動、あるいは先進的な技術開発・活用などを行うことにより、環境負荷低減の面から物流業の発展に貢献された事業者等を表彰するもの。
未来に向けた循環と責任。東洋/漢方の知恵とSDGsの融合


再春館製薬所は、2032年の創業100周年に向けて 「ポジティブエイジカンパニー宣言」 を掲げました。この宣言には、お客様、社員、地域社会、そして地球そのものまでを“ともに歩む仲間(ステークホルダー)”と位置づけ、誰もがより良く歳を重ねていける未来をつくるという決意が込められています。
その中心にあるのが、漢方の発想にもとづく「自己回復力」。「レジリエンス」という呼び方でスキンケアトレンドの一つとしても注目されています。 “人間は自然の一部である”という価値観は、SDGsの本質である「持続可能性」と強く響き合います。
ドモホルンリンクルが肌の回復力に寄り添うように、企業活動全体もまた、自然環境や地域社会の“回復と循環”を支える方向に深く根を張っています。だからこそ再春館製薬所のSDGsの取り組みは、外側から貼りつけた目標ではなく、企業の哲学そのものから自然に流れ出てきたものだといえます。
【まとめ】「自然への恩返し」を続けるブランドのこれからの50年へ


再春館製薬所の歩みは、SDGsを“やるべき目標”として掲げたものではなく、企業の理念・歴史・ものづくりの思想そのものが自然に結びついてきた軌跡です。環境への配慮、水資源を守る取り組み、物流や素材の循環改革、そして人々の健康寿命を支える製品づくり──。これら一つひとつは独立した活動ではなく、すべてが「自然とともに、より良く生きる」という揺るぎない軸でつながっています。
50年にわたるブランドの歴史は、“自然の恵みをいただいた分だけ、自然に返していく”
という静かな決意の積み重ねでした。自然の循環を守りつつ、漢方の知恵で人と自然の回復力を高める企業。その姿は、単なるスキンケアブランドや製薬会社の枠を超え、地球と社会に誠実であろうとする“循環型カンパニー”として、社会・地球への責任を果たす強い意志を示しています。
執筆/脇谷美佳子





