未来へ循環する万博体験──カナダパビリオンが示した“再生”のレガシー
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©カナダパビリオン
2025年10月、184日間にわたり開催された大阪・関西万博がついに閉幕しました。各国が未来像を大胆な造形や演出で競うなか、カナダパビリオンは目を奪う派手さより、その体験の深さで印象を残すパビリオンでした。万博会場内の活気あふれる「いのちに力を与える」ゾーンに位置するカナダパビリオン。そのテーマは「Regeneration(再生)」。展示空間で提示された価値観は、会期終了後もさまざまな形で広がり続けています。
“終わったあと”から始まる建築と空間デザイン


カナダパビリオンの建築は、最初から“終わったあとの使い方”が前提にされていたようです。 モジュール式の構造は解体しやすく、部材の約75%が再利用されるよう設計されていました。再利用される材料には、外壁、窓、モジュール式床、モジュール式基礎、階段、簡易キッチン部品、照明、その他の建築資材が含まれています。
パビリオン内部は、氷河から水、そして芽吹きへと移り変わる自然のサイクルをたどる構成されており、来場者は 歩くだけでカナダらしい価値観や風景観が体験できるつくり。この空間構成には、先住民文化の自然観やカナダ特有の環境教育に基づくストーリーが反映されていて、来場者は過去と現在が境目なく融合された、時空を超えた体験により“循環”を身体的に理解できるよう意図されていたと考えられます。
カナダらしさを日本の日常へ──名取市・刈谷市で広がる再生


カナダパビリオンの象徴ともいえる赤い「CANADA」サインは閉幕後、震災を経てカナダと縁を持つ宮城県名取市へ移設されました。また、カナダの湖畔文化に根付く赤い椅子「Muskokaチェア」は、カナダ・ミシサガ市と姉妹都市であり、2005年の愛知万博で使用されたメイプルリーフのモニュメントが移設された歴史のある愛知県刈谷市のミシサガパークへ移設されました。現在では、公園の風景にも自然に馴染み、地域のシンボルとして機能しています。


また、会期を終えて残った食材や食品についてはハーベストジャパンへ寄付されました。カナダパビリオンは展示物だけでなく“食”までも循環させる姿勢が一貫しており、レガシーであるRegenerationを最後まで貫いた取り組みとなりました。そのほかにも、展示物の移設やリユースの検討が各地で進められています。
“感謝”と文化の継続──未来へつながるレガシー
巨大建築をそのまま残すのではなく、展示物・文化・食・関係性を、それぞれ必要とする場所へ受け渡していくこと。カナダパビリオンが示したのは、万博を“終わり”ではなく“新しい循環の始点”として捉える視点でした。そして、 万博の終わりは、カナダの“再生”が各地で始まる合図だったのかもしれません。
自然・多様性・文化の継承をテーマにしてきたカナダらしいアプローチは、単なる展示ではなく、次の場所へ引き継がれることによって「その地域や暮らしの中で続いていく“未来の実装”」へと形を変えています。
レガシーとは残すことではなく、続けること、つなげること、そして次の誰かが受け取れる形にすること。その考え方こそ、いま求められるサステナビリティの姿なのではないでしょうか。





