宮崎・日南市の焼酎試飲交流会を通して見えた、これからの焼酎文化の姿
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2026年2月18日に、東京・外苑前で開催された「日南市が全国に誇る焼酎 試飲交流会」が開催されました。宮崎県日南市から5つの蔵元が一堂に会し、単にお酒を味わうだけでなく、地域の宝をいかに未来へつなぐかという、地域創生のあり方を肌で感じる機会となりました。
ただ日南の焼酎を広めたいのではない、焼酎がある暮らしや文化そのものを知って、楽しんでほしい――。おいしい焼酎を味わいながら、そんな蔵元の方々のひとしずくに込められた想いを感じ取ることができた時間となりました。
暮らしに馴染む「20度」の焼酎
一般的な焼酎はアルコール度数25度が主流ですが、日南で造られる焼酎の多くは20度。これは、密造酒対策で戦後に20度以下の酒の酒税を低くされたことが由来となっているそうです。酒税が安くなったことで、品質の高い20度以下の酒が普及。結果として、密造酒が作られなくなっていきました。その後、多くの地域では度数を25度に戻す中、日南をはじめとした宮崎では20度のまま造られ続けています。
甘藷(さつまいも)と米こうじを原料に、日南の海に抱かれた地で土蔵を守り続ける古澤醸造の『八重桜』や、九州の小京都・飫肥(おび)で江戸時代末期から地元の定番酒として親しまれる松の露酒造の『松の露』『匠蔵』、伝承の大甕で仕込まれた京屋酒造の『甕雫』など、日南で造られる焼酎は20度が主流です。


その理由のひとつともいわれているのが、「だれやみ」文化です。「だれ」とは「疲れ」のこと、「やみ」とは「やめる」「癒す」という意味で、一日の疲れをいやす晩酌文化を、この地域では「だれやみ」というそうです。ゆっくりと時間をかけて、疲れをいやすように焼酎を楽しむ文化が根付いているからこそ、度数を高めない焼酎づくりが続けられたとされています。また、宮崎はスナックが多く、「飲みに行こう」と言えば、居酒屋ではなくスナック。そんなお酒をみんなで楽しむ文化が、焼酎づくりを支えています。
「焼酎は自分のペースで自由に割って飲むもの。その日の自分に合わせて濃さを変えられるのが最大の魅力」という作り手の言葉通り、無理なく、自分の生活や体調に合わせて楽しむ飲み方は、健やかな暮らしを支える生活の知恵でもあります。会場では、弓を引きながら焼酎を楽しむ日南独自の遊び「四半的(しはんまと)」についても紹介されました。こうした伝統の遊びや、歴史ある土蔵といった地域の資産を古臭いものとして切り捨てるのではなく、誇りを持って守りながら、今の時代に合った新しい味や伝え方を模索する蔵元の姿。それこそが、日南という土地の風景を未来へ繋ぐ確かな原動力となっています。
伝統を守りながら、新たな文化の形成を
そんな焼酎文化を守るため、次世代などに向けた新しい焼酎づくりにも積極的です。井上酒造の『孤独な天使』はデーツをワイン酵母で仕込んだ焼酎です。まろやかな甘さとバニラのような香りが特徴的な味わいでした。『爽 飫肥杉』は、SNSなどでの発信にも積極的で、今後も焼酎文化が続いていくように取り組んでいます。その中でも、櫻乃峰酒造が今夏発売予定の『HEISEI』は若者に向けた焼酎として造られています。平成カルチャーの中で育った世代に、まるでグレープフルーツのようなほろ苦さと甘さが印象的な焼酎を提案しています。


焼酎は地元の食文化とも密接なつながりがあります。会場で示された日南の名産品との組み合わせは、それを実感できる体験でした。焼酎は糖質が含まれないため、しっかりとした味付けとよく合います。
甘めの味付けが特徴的な魚肉の練り物「飫肥揚げ」や、地鶏のコク、カツオの刺身の脂とも見事に調和します。脂をスッキリと流し、旨味をさらに引き立てる。その味わいは、長い年月をかけて地域の食文化が相互に支え合って発展してきた証とも言えます。地元の「甘夏」を添えた飲み方も、さわやかな飲み口の焼酎ととてもよく合いました。


豊かな食文化と焼酎文化を守っていくためには、伝統を維持するだけでなく、時代に合わせて新しい感性を取り入れる柔軟さも大切。守るべき伝統は守りながらも、時代に合わせて変化していくことは持続可能な地域文化の形成にはとても大切なことなのだと感じました。
焼酎造りは、水や土、そして農産物という地域の自然環境が健全であって初めて成り立つ産業です。文化を知り、地域の食材とともに、その背景にある物語をも味わう――その体験は、単なる消費を超えて、地域の未来を支える力となります。日南焼酎は、飲む人と作る人が同じ風景を見つめながら歩む、温かな地域創生の姿を伝えてくれているようでした。
執筆/ライター:宮崎新之





