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シューズが示す新たな価値|東京マラソン「RUN CYCLE SQUARE」が描く循環のスタンダード


この記事に該当する目標
12 つくる責任つかう責任
シューズが示す新たな価値|東京マラソン「RUN CYCLE SQUARE」が描く循環のスタンダード

国内外から約3万9,000名が集った「東京マラソン2026」。その本番に先駆けて開催され、多くのランナーやファンで賑わったのが2月26日から3日間にわたり東京ビッグサイトで開かれた「東京マラソンEXPO 2026」でした。今回の目玉イベント「RUN CYCLE SQUARE(ランサイクルスクエア)」では、廃棄物を資源に変える試みが多数展開されました。会場には、楽しみながら学べる循環型社会のヒントが凝縮されており、まさに具体的なアクションで体験できる、循環社会のモデルケースとなっていました。

なぜ「今」なのか?20回目に向けた東京マラソンの覚悟と独自技術

東京マラソン財団が、今回あえて体験エリアを設けた背景には、2027年の20回大会を見据えたマスイベントとしての強い社会的責任感がありました。アスエネ株式会社の調査によると、大会全体のCO2排出量のうち、約85%が「移動」によるもの。2万人近い外国人ランナーが空路で集まる国際大会ゆえの宿命ですが、だからこそ財団は「移動以外の部分で徹底的な資源循環を行い、参加者一人ひとりの意識を変える普及啓発の場にする必要がある」と考えたそうです。

「RUN CYCLE SQUARE」について東京マラソン財団の村澤さんは「サステナビリティの取り組みはこれまでもやってきましたが、今回のように専用の会場を設けて行うのは初めての試みです。この取り組みを皆様にぜひ体感していただきたい」と語ります。
その核となるのが、「ランサイクル」という言葉に込めた、ランニングシューズの寿命を全方位でサポートする仕組みです。

  1. 「買い取り」:BOOKOFFの協力により、会場内にシューズ買い取りカウンターを設置。専門スタッフが査定し、リユース販売へ繋げます。
  2. 「R-LOOP」:BOOKOFF(協力)と株式会社BPLabが共同運営する回収ボックス。
    投函されたシューズは、特に需要の高いマレーシアなど東南アジアや、カザフスタンなどでリユース販売されます。
  3. 「リサイクル」:どうしても履けなくなったシューズを素材に分解し、新たなプロダクトへ生まれ変わらせます。

村澤氏は、「ランナーはまずシューズが悪くなったら『捨てる』っていう概念があるんですけど、その『捨てる』というのをちょっと変えてみようと……」と、プロジェクトに込めた想いを明かします。
なかでも注目を集めたコンテンツが、不要になったシューズから作る「オリジナルリカバリーサンダル」です。製造を担うのは、ゴム製品のプロフェッショナル、日東化工(協力)。

回収されたシューズを分解し、ソールの部分を破砕機にかけて、カラフルなゴムチップとして細かく粉砕。そこにタイヤや、公園の遊具の下にあるクッション材(カラーゴム)を独自の配合でブレンド。成形・切り抜きを行うことで、機能的なサンダルへと生まれ変わります。過酷なマラソンを走り終えた後の足を休ませる「リカバリー」という機能を持たせた点に、大会主催者ならではのランナーへの思いがありました。

手に伝わる「ストーリー」が、参加者の意識を変える

「オリジナルリカバリーサンダル」作りの講師を務めた土屋氏は、素材に宿る「物語」を参加者に伝えていました。例えばサンダルのストラップ部分は、東京マラソン2024で運営スタッフが実際に使用していたネックストラップが再利用されているそうです。
土屋氏は、「このストラップも実はリサイクル製品なんです。本当に数がギリギリで、これ以上ありません!最後の一本です!というくらい貴重です」と語りかけます。この言葉によって、参加者は廃棄物を単なるゴミではなく、代わりのきかない「資源」として自らの手で編み込み、世界に一足のサンダルを仕上げていきました。

さらに、このワークショップを取材して印象的だったのは、完成後の「歩き方の練習」です。このサンダルを履きこなすには少しコツが必要ですが、練習後には、多くの参加者が「ずっと履いていたい」と感じるほど馴染んでいるとのことでした。単に「リサイクル品を作って終わり」にするのではなく、大切に使い続けるための「練習」までがセットになっている点に、真のサステナビリティの在り方を感じました。

会場では他にも、循環の工夫が随所に見られました。

  • 大会フラッグのアップサイクル:大会フラッグをバッグ等として再利用し、販売。障がい者就労施設に縫製を依頼し、収益の一部を寄付する取り組み。
  • 紙コップの再利用:給水所の紙コップを、大会用仮設トイレのトイレットペーパーに再生。
  • 不要Tシャツでミサンガ作り体験:ブックオフで再販に至らなかったTシャツに新たな価値を吹き込む。
  • TOKYO MARATHON CREATIVE CAMP:給水所のペットボトル、規制テープ、スタート前に脱ぎ捨てられたウインドブレーカー等で応援グッズを作成。
  • 心肺蘇生授業:安心・安全な大会づくりのための啓発活動。

「RUN CYCLE SQUARE」のすべてのコンテンツは、資源の循環と人命を守る知恵、その両輪が揃ってこそ、持続可能な大会運営が成り立つことを伝えていました。

一歩の重みが変わる、新しいスポーツのスタンダード

健康的で豊かな「走る」文化も、舞台となる地球を傷つけては持続できません。「RUN CYCLE SQUARE」は、主催者・企業・参加者が目標12「つくる責任 つかう責任」を共に体験することで、大会を循環型へアップデートできる可能性を提示しました。
リサイクル素材から一足のサンダルを自作し、履き心地を確かめる。そのシンプルな体験の中にある「捨てない」喜び。この試みは、ランナーが明日から新鮮な気持ちで走り出せる、身近でワクワクする循環のカタチを見せてくれたといえます。


執筆/フリーライター 北原沙季