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発酵の知恵を世界へ。塩こうじが示す持続可能な食


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9 産業と技術革新の基盤をつくろう 12 つくる責任つかう責任
発酵の知恵を世界へ。塩こうじが示す持続可能な食

健康志向の高まりや自然由来の食品への関心の広がりを背景に、世界では発酵食品への注目が高まっています。微生物の働きを生かして食材の保存性やうま味を高める発酵は、古くから人々の食生活を支えてきた知恵です。近年は環境負荷の少ない食品やシンプルな原料の食品への関心が高まる中、こうした伝統的な技術が持続可能な食の在り方として改めて評価されています。
2026年3月、米国カリフォルニア州アナハイムで開催された自然食品の展示会「Natural Products Expo West 2026」では、日本の発酵文化を背景にした調味料の可能性が世界に向けて発信されました。

「Natural Products Expo West」は、自然食品やオーガニック食品、健康志向の商品が集まる世界最大級の展示会として知られています。世界各国から食品メーカーや流通関係者、料理人などが訪れ、毎年新しい食のトレンドが生まれる場でもあります。2026年の開催でも、健康志向やサステナブルな食品をテーマにした多くの商品が紹介されました。

今回の展示会で麹由来の調味料を紹介したのが、日本の味噌・醸造メーカーであるハナマルキです。
1918年創業の同社は、味噌や麹を使った食品の製造を通じて、日本の発酵文化を支えてきました。近年は日本国内だけでなく海外市場にも展開を広げ、日本の発酵食品の魅力を発信する取り組みを進めています。
展示の中心となったのは「液体塩こうじ」という調味料です。塩こうじは、米こうじと塩を発酵させて作る日本の伝統的な調味料で、食材をやわらかくする働きや、うま味を引き出す効果があることで知られています。肉や魚の下味付けなどに使われ、日本の家庭料理でも広く親しまれてきました。
一方で、従来の塩こうじは粒状であるため、調理現場では扱いづらいこともありました。加熱すると焦げやすかったり、計量や混合がしにくかったりする点が課題として挙げられていました。こうした課題を解決するために開発されたのが、塩こうじを液体化した調味料です。
ハナマルキは独自の圧搾技術を用いて麹のうま味を保ったまま液体化することに成功し、2012年に「液体塩こうじ」として商品化しました。液体であることで料理に均一に混ざりやすく、ソースのように使えることが特徴です。日本の発酵調味料をより使いやすい形にすることで、家庭料理だけでなく外食や海外の料理にも応用しやすくなりました。

展示ブースでは、麹や塩こうじの仕組みを紹介するパネル展示のほか、料理の試食も行われました。肉や魚、野菜などを使った料理を通して、麹の酵素による食材の軟化効果やうま味を引き出す働きを体験できる内容です。来場者の中には、液体調味料の見た目からオイルのような調味料を想像する人もいましたが、試食を通して麹の風味やコクに驚く反応も見られました。

また展示では、海外市場を意識した液体塩こうじの新しいパッケージも公開されました。欧米の食品市場で見られるシンプルなデザインを採用し、ボトルには「Cultured Umami Essence」というコピーが添えられています。発酵を意味する“Cultured”と、日本の食文化を表す“Culture”の意味を重ねた表現です。ラベルには原料である米こうじを象徴する米のマークもあしらわれています。

さらに、210mlの小容量タイプも発表されました。家庭でも試しやすいサイズとして米国のリテール市場への展開を見据えた仕様です。このタイプでは有機認証モデルも公開されました。オーガニック食品市場が大きい米国では、こうした商品展開も重要な要素とされています。

今回の展示で印象的だったのは、日本の伝統的な発酵調味料が海外の食文化と結びつきながら新しい形で紹介されている点です。麹は日本の食文化にとって身近な存在ですが、海外ではまだ一般的な調味料とは言えません。しかし近年は健康志向の高まりとともに、日本の発酵食品を料理に取り入れる海外の料理人も増えています。
その中で、液体化という技術は大きな意味を持っています。粒状の塩こうじは日本では使い慣れた調味料ですが、海外の料理人にとっては扱い方が分かりにくいこともあります。液体化することでソースのように使えるようになり、肉料理や野菜料理などさまざまな料理に応用しやすくなります。日本の発酵調味料を海外の食文化に取り入れる上で、この使いやすさは重要な要素と言えます。
また、原料が米こうじ、塩、水というシンプルな構成である点も特徴です。素材の力を生かす食品は自然由来の食品を求める世界の食市場の流れとも重なります。伝統的な食文化と現代の食品技術が組み合わさることで、日本の発酵食品は新しい形で世界へ広がり始めています。

発酵は、古くから人々の食生活を支えてきた知恵です。保存性を高めるだけでなく、食材のうま味を引き出し、食文化を豊かにしてきました。こうした発酵の知恵は、資源を有効に使う食の在り方という点でも注目されています。
今回の展示会で紹介された取り組みは、日本の発酵技術が世界の食文化と結びつきながら新しい価値を生み出していることを示していました。伝統的な発酵の知恵は、持続可能な食の未来を考える上でも重要なヒントになりそうです。