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夢のような船旅でSDGsに貢献!クルーズ旅行から考える持続可能な観光


この記事に該当する目標
9 産業と技術革新の基盤をつくろう
夢のような船旅でSDGsに貢献!クルーズ旅行から考える持続可能な観光

新型コロナウイルスが収束するに連れて、海外旅行に行く人が増えてきています。法務省によると、2023年10月の海外へ行った人の数は93万7714人で、前年同月(2022年10月)の34万9557人と比べると168.3% の増加となりました。さて、海外にはどのように行きたいですか?海外への行き方は、飛行機だけではありません。船旅という選択肢もあります。今回は、船旅がどのようにSDGsに貢献するのかを考えていきましょう。

船の上でも降りても両方楽しめるクルーズ旅行

クルーズ旅行では一度にいくつもの場所に立ち寄ることができ、その土地ならではの環境を楽しむことができるというのが特徴です。世界でも有名なクルージングを企画するキュナード・ラインは、アメリカのカーニバル・コーポレーションの傘下のイギリスの海運会社です。同社は現在、ヨーロッパ、カリブ海、アジア、オーストラリア方面に就航する世界的な豪華客船「クイーン・メリー2」、「クイーン・エリザベス」、「クイーン・ヴィクトリア」の3 隻を保有し、2024年には4隻目となる『クイーン・アン』の就航を予定しています。『クイーン・アン』はイギリスのサウサンプトンを拠点に、地中海、スカンジナビア、カナリア諸島、ノルウェーのフィヨルドなど、2024年5月3日(金)のデビューから 2024年末までに合計31のクルーズを実施します。現時点で完売となっているデビュークルーズではラ・コルーニャ(スペイン)とリスボン(ポルトガル)を訪れる予定です。その後も4泊のショートクルーズから19泊といった長期のものまで多様なクルーズが計画されていますが、中でも、『クイーン・アン』のためにキュナードが特別に企画した寄港地観光ツアー「シグネチャー・ショア・エクスペリエンス」が注目されているようです。

寄港地観光ツアー「シグネチャー・ショア・エクスピリエンス」では、
・バルセロナ中心部の秘密の場所で特別なオーケストラ演奏を聴く
・バチカン市国のサン・ピエトロ大聖堂の舞台裏見学
・ユネスコ世界遺産に登録されているマデイラの森で地元のグルメやワインを味わう
・ノルウェーのヤギのチーズ牧場訪問
・ノルウェーのフィヨルドサファリ
・高級銀製品を製造してきたベルゲンの金銀細工工房への特別訪問
といったツアーを体験することができます。

実際に観光客が寄港地に降り立ち、そこの特産品を楽しみ、そこに住む人々と触れ合うということで、その地域を活性化させ、観光業を生み出し、雇用を創り出すことができるのです。こうした良い循環をたくさん生み出すためには、多くの人たちにクルーズ旅行をしたいと思わせることが必要ですよね。そこで、キュナードでは船上でも乗客たちを楽しませる工夫をしています。

その一つが、数々の賞に輝く演劇プロデューサー、デビッド・ピューによる「Brief Encounter(ブリーフ・エンカウンター)」の上映。この作品は、ノエル・カワードの戯曲で1945 年に映画化された「逢びき」を独自に脚色したものです。演出はロンドンのウエストエンドで数々の賞を受賞し、世界ツアーやブロードウェイでの上演実績を持つエマ・ライス。この豪華なコラボレーションは、船内のシアター「ロイヤル・コート・シアター」で楽しむことができます。

クルーズ旅行とオーバーツーリズム

このようなクルーズ旅行が与える良い影響は、日本でも積極的に取り入れる方針です。2023年3月31日に閣議決定された「観光立国推進基本計画」の中では、「2025年に『訪日クルーズ旅客を250万人』『外国クルーズ船の寄港回数を2000回超え』」、そして「外国クルーズ船の寄港する港湾数を100港にする」が目標として掲げられています。日本のクルーズ旅行の本格的な回復とともに、特定の港や観光地への集中を避けることや、クルーズ旅客によるマナー違反なども視野に置き、持続可能なクルーズ振興を目指しています。
しかし今、日本でも問題となっているオーバーツーリズムは、世界の観光地で公共交通機関の混雑や渋滞、ゴミのポイ捨てや騒音など地域住民の暮らしを悪化させています。海の周辺の場合は、自然環境保護のため人気の高いビーチが閉鎖されるなどの状況もあるようです。

これを受けて各地のオーバーツーリズム対策としては、2007年に世界で初めてアメリカのアラスカ州が、来訪するクルーズ船客に対して人頭税の課税を決定しました。次いで、年間約600隻のクルーズ船が寄港するイタリアのベニス市は、2020年7月からクルーズ船客に対し、1人1日5ユーロ、2021年からは1人1日7ユーロを課税することに決めました。沖縄県那覇市でもクルーズターミナル利用客1人に対して2020年より280円の徴収をしています。

クルーズ旅行は、観光地での需要を生み出し、地元の経済に貢献することができます。
こうした観光業や小売業への影響を通じて、雇用の増加や地域社会の発展に役立つことができるのも嬉しさのひとつ。一方、クルーズ旅行がもたらす良くない影響にもしっかりと目を向けて、旅行をする側も対策を考えることで、持続可能な観光業を促進することができるでしょう。船の旅を最大限に楽しむためには、船上でのアミューズメントも立ち寄る港のことも大切にしていきたいですね。


執筆 /フリーライター 北原 沙季