漫画家・冬野梅子さんに聞く「女性の抱える生きづらさ」後編 嫌なことをやめるポジティブな思考法
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パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送の『SDGs MAGAZINE』。3月10日の放送では、前週に続いてリアルな自意識描写が話題となった『普通の人でいいのに』などの作品で知られる漫画家、冬野梅子さんをゲストに迎え、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にも繋がる、「女性の抱える生きづらさ」について話を聞いた。
日本の女性の生き方、生きづらさについて漫画家の冬野梅子さんに聞く、今回の放送。話題は「年齢」という固定概念について、さらにそれを乗り越えていく考え方に及んだ。
新内 「今回も引き続き、漫画家の冬野梅子先生にお話をうかがっていきます。よろしくお願いします
冬野 「よろしくお願いします」
新内 「余談ではあるのですが、読み切り作品の『普通の人でいいのに!』では、主人公・田中未日子が憧れる女性に、深夜ラジオの放送作家の男性が出てくるんですよね。冬野先生は結構ラジオがお好きなんですか」
冬野 「ラジオは好きでしたね。最近聴いていないなって、ふと思ったんですけど、もともとは好きですね。楽しいですね、聴いていて。テレビよりなんか、深い話が多い気もして」
新内 「確かに結構、ラジオってパーソナリティの人が見えやすい媒体であるなって、自分もパーソナリティをしていて思います」
冬野 「意外性もあって、テレビでは普通のタレントさんって思っていた人も、ラジオを聴くとすごく個人が見えてきて、急に親近感が沸くとか、そういうこともありますね」
東京と地方の違い
新内 「なるほど。そんな冬野さんはWEBサイト『よみタイ』にて、日照量の少ない半生を振り返り、地方と東京のリアルライフを綴った『東北っぽいね』というエッセイも連載されています。ご出身は東北なんですね」
冬野 「そうですね。東北出身とまでは言っているんですけど…」
新内 「はい」
冬野 「これちょっと、どうでもいい理由なんですけど、両親には漫画家をやっているとだけ言っていて、ペンネームとか伏せているんです。だから、出身地と大体の年齢とかでばれる可能性があるんですよね。私、親戚とかにばれたくなくて…」
新内 「あ〜、たしかに!」
冬野 「親はともかく」
新内 「どこで繋がっているか分からないですもんね」
冬野 「そうなんですよ! だから何か妙に出身と年齢だけフワッとさせていて」
新内 「(笑)そういった背景が!」
冬野 「身内にばれたくないっていうので…」
新内 「なるほど! まあ、でも東北のご出身ということで、結構東京とか都会とかと地方では生きづらさの違いがあると感じたりしますか」
冬野 「そうですね。東京はもう完全にお金がないと生きられないっていう感じですね」
新内 「分かります」
冬野 「地方は人の繋がりを大事にしないと難しいっていう。東京にせよ、地方にせよ、両方必要なんですけど、地方だと、ちょっとしたご近所づきあいから、誰もいないだろうなって思っている場所での振る舞いまで、結構気にするところがあるかなあっていうのがありますね」
新内 「確かにコミュニティみたいなのが、しっかりあるイメージがあります」
冬野 「そうですね。そもそも人口が少ないので、同世代の人との友人関係がちょっと見つかるかどうかっていうところに始まり、必ずしも意見が合うとは限らない率も、ちょっと上がるかなっていうところですね」
新内 「でも、どの場所に住んでいても、生きづらさは平等にじゃないですけど、ある気はしていて」
冬野 「そうですね」
人生の選択で立ちはだかる「年齢」という壁
新内 「人生設計をしていて、さまざまな選択があるじゃないですか。その中で女性としての生きづらさみたいなもの感じることはありますか」
冬野 「私はもう一番、会社勤めで、特に転職をしていた時期は、本当に年齢で切られる感じというか、面接にたどり着けないところが一番つらかったです」
新内 「ああ、そういうものなんですか」
冬野 「この仕事はいいなあ、やってみたいなあって思った仕事に、何歳までみたいな応募できる人の上限がある。応募はしていいんですけど、基本何歳までの方を想定しています、みたいな書き方があるので、よっぽどこちらに何か売り込めるものがないと、応募したとしても落ちるんだろうなっていうものが、やっぱり増えてくる印象がありますね、30歳を超えると」
新内 「そうなってきますよね」
冬野 「そこが結構…。事務職って若さが仕事の能力として一緒になっているものではないはずで、それだけ経歴を積めば、ある程度その社会の感覚みたいなものもつかめて良くなっているはずなのに、採用する側はやっぱり、うちの会社で若い時から雇って長く働いて欲しいっていうものがある。経験値はあんまり求められないっていうところが、何か不思議だなっていうよりも、ムカつくなっていう気持ちがありましたね」
新内 「(笑)」
冬野 「オブラートに包むと、不思議だな、社会って不思議だなって。心の中では本当にムカつくなって思っています」
新内 「(笑)。でも、確かに年齢みたいなのは区切りがあるものではあるなって思います」
生きづらさを感じた際の乗り越え方
では、そうした生きづらさを感じた時に、どう考えることが大事なのか。新内さんは「どうやって乗り越えてきたんですか」と冬野さんに聞いた。
冬野 「私は2つの方法を同時にやるっていうのがあって、気持ちの面では確かに物事をポジティブに捉えるみたいなそういうもののやり方があると思うんですね。そういう中で、結構嫌なことをやめてみるみたいな。好きなことを始めるって結構ハードルが高いんですけど、嫌なことやめるって結構簡単。もうちょっと日常の気に入らないこと、大きいものだと転職なんですけど、小さいことだと、お弁当を作るのを馬鹿馬鹿しくなったからやめようとか。嫌なことをやめてみることでストレスを減らす。ストレスが減って初めてこういうことやってみようかなとか、新しいことをやってみようかなとか、割と嫌なことをやらないことで、人に対しても責め立てたい気持ちもちょっと減るっていうのを感じますね」
新内 「あ〜っ」
冬野 「ただ、どうしても気持ちの変化で乗り越えられないというか、気持ちの変化で乗り越えてはいけない問題ってあると思っていて。そういうものに関しては、もう本当に選挙へ行くぐらいしかないんですけど、なるべく調べて、これは私が気持ちの面で乗り越えなくていい問題なんだっていうのを、なるべく認識するようにはしていますね」
新内 「ちゃんと分けるといいますか」
冬野 「そうですね。社会の仕組みがそうなっているみたいなことは、社会の仕組みを変えていく方向に考えを持っていくようにして、そこは自分の問題とはなるべく思わないようにっていう2つの切り分け方でやっています」
新内 「なるほど。確かに、自分の気持ちだけでどうこうなる問題じゃないものって、絶対ありますもんね」
冬野 「そうです! パートの賃金が低い。でも、上司もいい人だし、とかって思うことはできるんですけど、絶対賃金アップしたほうがいいっていう方に気持ちを持っていったりとか」
新内 「でも、それを考えつくに至るまでには、やっぱりメンタル面も整えていかないといけないからこそ、嫌なことをやめるっていうことから始めるっていうのが、あるのかもしれないですね」
冬野 「そうですね。1年ぐらいかかるんですよね、気持ちを持っていくのに
新内 「確かに、嫌なことをやめるっていうのすら億劫な時はありますからね」
冬野 「そうなんです。もう、ルーティンを変えるとかが、死ぬ程つらい時とかもあるので」
新内 「(笑)」
冬野 「時間はかかりますけど」
新内 「本当にいろいろとお話をうかがってきて、こういうお話をたくさんされているのに、前の夢、漫画家になる前の夢が、『事務やデータ入力などのバイトと両立しながら、月25万円ぐらい稼ぐこと』だったんですけども、両立しながらってどういうことですか?事務をやって?」
冬野 「これは漫画家としてデビューをする、ネームとか土台になるものを担当についてくださっている編集さんに出して、ボツをもらってを繰り返している時に、漫画家で食べていくってやっぱり、ちょっと無謀なことっていうか、1回1や1、2年でも経験できたらラッキーだろうなあっていうふうに思っていたので、あんまり漫画家として食べていけるようになることは考えないというか、期待しないようにしないといけないなと思っていたんです。でも、1回賞とかも取ったし、プロではなくて会社勤めをしているんだけど、趣味で漫画を描いて、それを販売している方って結構いるので、できればフルタイムで働くのはつらいから、夢は週3くらいのバイトをしながら、それでも漫画を描く時間を取って、個人で漫画を販売して、それが10万円ぐらいになって、手取りが計25万円になったらって。でも、手取り25万円って結構がめつい目標ですね」
新内 「いいえ、そんなこと」
冬野 「今のこの感じだと、そんなにお給料って高くないし、これもだいぶ高望みだなって自分で思うんですけど、それでも手取りで25万円もらえたら、それであとはどうにか狭い部屋とかで過ごして、貯金をできたら万々歳かなみたいな感じでしたね」
新内 「そっか。でも、一歩を踏み出すことって大事なのかもしれないですね」
冬野 「そう。何か期待せずに努力するみたいなところはあるかもしれないですね」
新内 「期待せずに努力する…」
冬野 「やっぱ、ショックじゃないですか。すごく頑張って、駄目でしたって」
新内 「はい、ショックです」
冬野 「だから、何かごまかす。私、期待していないぞ、みたいな感じでやっていましたね」
生きづらさの根本にあるのは「年齢」の内面化
新内 「まぁ、でも結構、それに共感する方は多いんじゃないかなと思うんです。改めて日本の女性が感じる生きづらさを掘り下げていきたいのですが、日本の女性の生きづらさの原因って根本的にといいますか、どこにあるとお考えですか」
冬野 「私の個人的な経験からだと、年齢のことをもう内面化してしまっていて、自分で『30歳、もう駄目だ』みたいな考えに至りやすいというか。まだまだできるとか、こういうふうにやったらこういう分野ではできるかもとか、ちょっとポジティブなことを考えにくかった。30歳前後の時は一番考えにくかったと思います。それを過ぎると結構、また違う、つき合う人とかが変わっていって、40代ぐらいの女性と出会う機会が増えると、こういうふうに生きている人いるんだっていうサンプルが見える」
新内 「はい」
冬野 「28、29、30ぐらいの時って知り合う人も同世代だし、本当に結婚して退職したとか、転勤についていったとかしか見ないから、視野がどんどん狭くなっちゃって、もう年齢のレッテルを自分でも貼っちゃうし、うっすら社会のメッセージとしてもまだ残っているっていうのはつらいところですね」
新内 「いや、すごく思います。私も32なんですけども」
冬野 「今一番…みたいな。苦しいですね」
新内 「生きづらさとまでは言わないんですけども、自分が思っていなくても外からこう見られるんだろうなとか、外はこういうふうに見ているんだろうなっていうのを感じる瞬間はすごくあります。それこそ、お仕事のこともそうですし、結婚とか出産とかのこともそうですし、いろいろと考えすぎて、大きいため息をつきたくなりますね」
冬野 「分かります! 考えに、かなりパワーを持っていかれちゃって、残り2%ぐらいでまわしているみたいなところ、あるじゃないですか(笑)」
新内 「(笑)そうなんですよ!」
冬野 「すごく分かりますね」
新内 「行動するにも足が重くなってしまったりする。でも、多分世の中にはこういった考えというか、こういった悩みを持っている方ってたくさんいらっしゃると思うので、ぜひ1人じゃないよっていうのを言いたいですね」
そして番組恒例の最後の質問。新内さんは、冬野さんに「今私たちができること=未来への提言」をたずねた。
冬野 「今回結構、女性の生きづらさみたいなことを中心に話したと思うので、私が個人的に面白がってやっていることとして、テレビなり、雑誌なり、本の表紙なりの、『男女比を数えてみる』っていうのが、すごく面白いし、いいと思います。身近に簡単にできて、自分で問題意識を持てる遊び。『男女比を数えてみる』です」
新内 「なるほど。確かに見えてくるものが違ったりしそうですね」
冬野 「これ男性ばっかだなとか、これ女性ばっかだなとか、なんで半々にしないんだろうとか、そういうのが見えてくると、何か気づいちゃったみたいな感じで面白いし、簡単にできることだと思います」
新内 「確かに。やってみます」
冬野 「はい」
新内 「最後に、冬野先生からお知らせなどがあれば」
冬野 「ぜひ、今『スルーロマンス』という漫画を『コミックDAYS』というアプリで連載中なので読んでいただければと思います」
新内 「こちら3巻まで発売中」
冬野 「1月に3巻が出たばっかりで、書店に行けばあるかもしれません」
新内 「あとは『まじめな会社員』が、全4巻発売中。面白いので、ぜひ皆さん見てみてください」
冬野 「ありがとうございます」
新内 「ありがとうございます。先週、今週のゲスト、漫画家の冬野梅子先生でした。ありがとうございました」
冬野 「ありがとうございました」
2週にわたって聞いた冬野さんの言葉に、新内さんは「好きなことを始めるより、嫌なことをやめる方が簡単にできる。そういう気持ちの持ち方の話があったので、それはやっぱり勉強になりましたね」と、そのポジティブな考え方に共感を覚えたという。「いろいろなご経験があるからこそ深みも出てくると思うので、これからも漫画を楽しみにしています」と、その作品展開に期待を寄せた。