日本人はヘルスリテラシーが低い?知っておきたいアメリカと日本の健康意識・サプリの品質基準の違い
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新型コロナ流行後、世界的に健康志向が高まり、スポーツサポートや健康食品(サプリメント)の市場は現在も国内外問わず緩やかに成長を続けています。
一方、国内外でサプリメントの市場規模を比較してみると、日本の市場規模は約90億ドルで、健康維持における手段として受け入れられてきてはいるものの、アメリカの約269.9億ドルと比べるとまだまだ多くはない現状です。
日本とアメリカのこの市場の差は、どこからくるものなのでしょうか。世界基準と言われるアメリカのサプリメントの品質と安全性の高さと合わせ、一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター(Jahfic) 理事・宇野文博さんにお話を伺いました。
他国に比べヘルスリテラシーが低い日本、その理由と課題
『ヘルスリテラシー』とは、健康や医療に関する情報を入手し理解、活用するための能力のことで、国際的に注目されている概念です。ヘルスリテラシーに関するさまざまな測定方法の開発が進められ、最近では一部の指標を使って国別の比較も行われています。
それらの調査において日本は、アメリカやアジア諸国など世界各国に比べてスコアが低いことが分かりました。ヘルスリテラシーが低いと適切な予防方法の知識が少ないため、疾病を未然に防ぐことが難しく、それにより症状が悪化してしまい結果として医療費が高くなる、というように様々な面で悪影響を及ぼし、大きなケガや病気に繋がってしまうことも考えられます。
日本のヘルスリテラシーの低さの主因は、他国と比べて個人のヘルスリテラシーを向上させる必要が比較的少ない状況にあったことが考えられます。日本人は他国に比べ、比較的容易に医療にかかれる環境下にあり、「病気になったら、病院へ気軽に行ける」という感覚がヘルスリテラシーの向上を阻んでいると推測できます。
日本では国民皆保険により、たとえば胃腸炎(初診)で病院に行ったとしても 3,000円程度の費用負担のところ、アメリカだと約1.6万円〜3.2万円かかります。虫垂炎などとなれば日本で約31万円のところ、アメリカでは209万円以上の費用がかかってしまいます。加入している保険やかかる病院によって費用に違いはありますが、日本での費用負担額はかなり抑えられていることがわかります。 さらに、「フリーアクセス」という点も気軽に病院に行ける要因の一つです。アメリカなど一部の国では、加入する保険や登録医師の紹介が必要になるなど、好きな病院に自由にかかることができません。実は日本のように国民皆保険がありフリーアクセスである国は非常に珍しいのだそうです。
今は「何かあったら病院に行けばいい」日本ですが、近年、保険制度の持続問題や医師の働き方改革など、医療業界において様々な問題が挙がっています。今後も今までのようにいつでも病院に行ける状況が続くかはわかりません。
サプリメントの品質向上、市場拡大のカギは国民の“健康意識”?
アメリカは1994年、DSHEA法(栄養補助食品健康・教育法: Dietary Supplement, Health and Education Act)という法律を施行しました。 この法律は、『ダイエタリーサプリメント』(≒健康食品)の有効性を表示できるようにすることにより、消費者の『ヘルスリテラシー』を向上させ、疾病を予防、医薬品に頼らないようにしようという主旨で設けられたものです。施行後は大手ドラッグストアチェーンを中心に、サプリメントの適切な販売が始まり、中小ドラッグストアにおいては、地域の“かかりつけ薬剤師”のような役割を担うようになるなど、消費者だけでなく医療従事者のリテラシーの向上にも繋がりました。
当初はアメリカ国民の健康を守り、医療費を抑えることが目的でしたが、消費者の『ヘルスリテラシー』が向上することで、健康食品への購買意欲が高まり、結果的に健康食品市場の拡大にも繋がりました。
国民の健康意識の底上げに一役買った世界基準といわれるアメリカの品質管理方法
そして今、アメリカ人のヘルスリテラシーを高めるために大きな役割を担っているのは、世界でもっとも権威あるデータベース『ナチュラルメディシン・データ ベース』(NMDB)。世界中の健康食品、サプリメント、自然食品の有効性や安全性、医薬品との相互作用などに対し、エビデンスによって、システマティックにレビューが行われており、健康食品に関して、世界でもっとも権威ある科学的根拠データベースです。
NMDBは、 医師や薬剤師、管理栄養士や理学療法士など、「食」と「健康」に仕事として携わっている人たちが、診察時間の短い中で端的にわかりやすく患者へ伝えるための参考とされているので、医師や薬剤師との接点を持つきっかけとしても活用されています。また、アメリカの陸海空軍や、NIHのデータベース「Medline Plus」(National Library of Medicine 内)など、医療現場をはじめエンドユーザーが自身の健康を守るための参考資料としても利用されるなど、利用者の幅広さからも頻繁に利用されていることが推測できます。
情報は世界共通であり、日本版をJahficが編集していますが、まだまだ日本ではデータベースを積極的に利用する文化が育っておらず、日本とアメリカでは利用頻度に大きな差があります。しかし、前述の通り今後はその流れが変化してくるものと予想されます。
また、アメリカでは製造工程において、『cGMP基準』(current Good Manufacturing Practice:現行『医薬品等の製造 管理および品質管理に関する基準』)をクリアした工場で製造されたもの以外は、ダイエタリーサプリメントを名乗り、販売することを禁じられています。
GMPとは、製造における人為的な誤りを最小限にとどめること、医薬品の汚染と品質変化を防止すること、高度な品質を保証することの3点を目的とした、医薬品の製造とその品質管理に関する国際基準のことを指しています。cGMP基準では、誰が製造しても、成分のばらつきや変化、異物の混入などが起こらず、安定した品質の商品を製造できるようにすることを目的に、原材料の入荷、製造、出荷まですべて の過程を徹底的に管理したもので、そのガイドラインは815ページにも及びます。
ダイエタリーサプリメントには、健康を維持、保持する効果・効能がある一方、使用量を間違えたり、異物が混入した際に重大な事故を起こしてしまう可能性があります。そのような事故を起こさないよう正しく認識してもらうために定められた基準がcGMP。つまりcGMPは「商品の品質を保つ」ためだけではなく「人の命を守る」ために作られた基準なのです。
現在日本には、Jahficが行っている『ハイクオリティ認証』という制度があります。これはNMDBの内容や、日本で報告された健康被害症例などに基づき、健康食品・サプリメント製品やその製品を構成する原材料の品質と安全性を確認・認証された商品には『認証マーク』を表示することができる制度で、そのマークを取得するための基準に、一部のランクを除き『cGMP基準』を使用しています。
アメリカ基準のサプリメント摂取習慣で医療費が削減、一方注意しなければならない点も
アメリカのCRN財団(the Council for Responsible Nutrition が有する非営利財団)の調査による「アメリカにおけるダイエタリーサプリメントによる医療費適正化効果」の結果によると、アメリカで医療費の多くを占める「冠動脈心疾患」「認知症」「加齢性眼疾患」「骨粗鬆症」などにおいて、「ダイエタリーサプリメント」の摂取習慣が医療費の削減につながっていることが分かりました。
(出典:『Supplements to Savings』2022 | CRN FOUNDATION)
これは、cGMPのルール下で流通した製品の摂取が、医療費の適正化に寄与していることを示す数値となります。通院件数が減った、など直接的な数値で表すことは難しいですが、同じくらい価値のある結果といえるでしょう。
その一方、「cGMP基準」やFDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品局)による未告知の立入検査など世界一厳しいとされる品質管理が行われるアメリカでさえ、健康食品が原因で年間2.3万件もの緊急搬送が起こっていると推定されているという報告もあります。 原因の一部として特徴的なのは「医薬品と健康食品・サプリメントの相互作用」。何かしらの疾病に罹患し、医薬品を 服用している方がセルフメディケーションの一環として健康食品やサプリメントを服用した際、思わぬ相互作用を発生させ、 重大なものでは死亡するケースもあります。
「医薬品と健康食品・サプリメントの相互作用」自体の認知度が低いため、日本では原因として検証すら行われないことが多い一方、NMDBではこのような「医薬品と健康食品・サプリメントの相互作用」の情報が網羅的に掲載されており、アメリカの医療現場では多く活用されています。 今後も健康志向により、国内外において健康食品市場は拡大していくと思われますが、サプリメントに関する正しい知識、理解をし、高い品質管理基準の下で作られた安全・安心なサプリメントを選ぶことが重要です。これからは私たち日本人も、一人ひとりヘルスリテラシーを高め、病気にならないための意識改革が必要です。
・監修者プロフィール
セミナー講師/一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター 理事 株式会社 同文書院 代表取締役
宇野 文博(うのふみひろ)氏