日本初!魚を養殖した排水で野菜を栽培する 屋外型「アクアポニックス」でSDGsにフルコミット
魚の食べ残しや排泄したものをバクテリアが分解。それを栄養として吸収することで 美味しい野菜が育ち、水がきれいに浄化されて水槽に戻る。魚と野菜両方を育てるこのしくみを「アクアポニックス」といい、環境にやさしい農業としていま世界的に注目されています。
この「アクアポニックス」のしくみを活用して、循環型農福連携ファーム「AGRIKO FARM」を運営しているのは、小林涼子さんが代表を務める株式会社AGRIKOです。竹害に悩む地域から(今回は千葉県)からは竹を譲り受けてアクアポニックス設備に活用しています。
魚・バクテリア・植物の共生は、まるで小さな地球。農薬や化学肥料を使わずに太陽のもとで野菜を育て、自然に近い環境で魚を育てます。人にも、そして地球にもやさしい安心安全な食が育まれています。
始まりは2022年4月に「OGAWA COFFEE LABORATORY桜新町」屋上での開園でした。次いで23年9月、「gicca池田山」屋上に開園し、現在は2拠点で「ビル産ビル消」を実現しています。
農福連携とは、障がい者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組みです。代表の小林さんは、農林水産省認定「農福連携技術支援者」を取得し、障がい者の就労や生きがいづくりの場を生み出し、担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保に繋がる可能性を広げています。
FARM to TABLEでフードロスもフードマイレージも限りなくゼロ
屋上のアクアポニックスで育てているバジルのソースと、10cmほどの大きさのホンモロコが泳ぐ美しい一皿です。まるでお皿の中の小宇宙です。
ビルの屋上で朝収穫されたばかりの野菜や魚は、ビルの階下にあるレストランのメニューとして提供されます。断熱効果やCO2削減、FARM to TABLEを実現し、フードマイレージ(食材輸送の環境負荷)はほぼゼロです。
ほかにも水菜やハーブ類、エディブルフラワーをはじめ、魚はホンモロコのほかイズミダイなど。ビルの屋上、太陽のもとで育てられ、ビル内のレストランで消費する「ビル産ビル消」を実現しています。
小林涼子さんは、「アクアポニックスで育つバジルは、味も香りも通常より濃厚で、ソースにすると色も鮮やか。AGRIKO FARMは、日本初の屋外型アクアポニックスなので、雨水も入り、冬には凍る。なるべく自然に近い形で育てています。ほとんどが受注生産のFARM to TABLEですから、フードロスもかなり削減できます 」と話します。
SDGsにフルコミット。サスティナブルというよりリジェネラティブ
AGRIKOは、なぜ慣行農法ではなくアクアポニックスに至ったのでしょうか。
小林さん(以下、敬称略)「2014年から農業に携わり、家族の体調不良をきっかけにAGRIKOを設立しました。いろいろな農法を探っているときに、海外に住む友人にアクアポニックスを教えてもらいました。アクアポニックスは、人にも環境にも負荷の少ない農業です。企業や飲食店、障がい者、地域の子育て世代のお母さんなど、さまざまな立場の人が協力し合うことで、都市型農業の可能性を広げ、美味しいものが食べ続けられる未来を作ることができるのではないか、と考えました」
アクアポニックスは、設置場所や規模に自由度があり、生産性も高く、また都市型農業は子どもたちが第一次産業に気軽に触れる機会を作ることができるのも大きなメリットだと言います。AGRIKOの名前は、アグリカルチャーを受け継ぐ子どもに私たちがなる!という思いが由来です。子どもたち向けワークショップも積極的に行っています。
小林さん「私たちの生活に大切な食を支える農業は、高齢化や農業人口の減少、気候変動など、さまざまな課題が山積みです。農業を継続するためには、人と人の輪を繋ぐことが大切だと考えています」
アクアポニックスは慣行農法に比べ7〜9割も節水できると言われており、 養殖においても水を排水せずに、循環させて使用できます。共生環境の中で育った魚たちは、2年連続で自然産卵をし、稚魚が生まれました。まさに持続可能な農業と養殖システムです。
小林「養殖業の方たちに『この環境で魚たちが自然産卵!?』と大変驚かれました。アクアポニックスは、サスティナブル(持続可能型)からさらに一歩、歩みを進めて、リジェネラティブ(環境再生型)のしくみなのだと実感し、自然産卵を通じて命の恵みに感動しました。まさに本当の意味で「小さな地球」になれたと思います。」
一つよりも二つが共生することで生まれる協働
第一次産業である農業と養殖を二つ同時に行うことで、自然に近い環境を作り、環境負荷が軽減され、ダイバーシティ&インクルージョンを実現し、結果的にAGRIKOはSDGsの17ゴールにフルコミットすることになりました。
小林さん自身も、AGRIKOの代表を務めながら俳優という二足のわらじを履いています。直近の作品では、NHK連続テレビ小説『虎に翼』で、主人公の寅子(伊藤沙莉)の先輩となる女子部一期生のリーダー的な存在、久保田聡子役を演じて人気を集めました。
アクアポニックスで育てられたバジルのソースや、お魚を食べるとどんな味がするのだろう?屋上でエディブルフラワーをどんな人がどんなふうに育てているのだろう?この野菜たちの栄養はどんなふうにバクテリアが分解し循環しているのだろう? 「食べる」ことの真の意味と向き合い、自然の神秘も体感できるAGRIKO FARMは一度ぜひ訪れてみたい場所です。
執筆/ フリーライター 脇谷美佳子
株式会社AGRIKO代表取締役 小林涼子(こばやし・りょうこ)
俳優業の傍ら、 2014年より農業に携わる。家族の体調不良をきっかけに株式会社AGRIKOを設立。農林水産省「農福連携技術支援者」を取得し、自然環境と人に優しい循環型農福連携ファーム「AGRIKO FARM」を開設。竹害に悩む地域から譲り受けた竹を活用し、独自のアクアポニックス栽培システムの企画やAGRIKO FARMの生産物を使用し、地球・植物・人すべてに優しい「やさしい」シリーズの商品を企画・販売、FARM契約企業の自社内・顧客向けに、野菜や魚の収穫や実食を含めた体験型のSDGsワークショップを企画・サポートを行う。AGRIKO FARM PW桜新町(OGAWA COFFEE LABORATORY 桜新町屋上)、AGRIKO FARM 白金(gicca 池田山屋上)の2拠点共に「ビル産ビル消」を実現。
農林水産省の食料・農業・農村政策審議会食糧部会臨時委員も務めている。
AGRIKO|https://www.agriko.net