「新型コロナから日本が変わった。」数年後にそう振り返れるように。 SDGs推進の起爆剤は「教育」か?
女優、剛力彩芽さんが持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」をリスナーとともに学ぶ特別番組『なるほどSDGs~10年後の未来へ~』(ニッポン放送)の第2回が放送された。今回のテーマは、新型コロナウイルス禍の中でのSDGsの意義。有識者ゲストとして企業や自治体のSDGs推進に向けたコンサルティング業務などを行うSDGsパートナーズ有限会社・田瀬和夫代表取締役CEOを迎え、「今」だからこそ問われるSDGsの精神に迫った。
10年後の2030年に向けて、より良い地球、社会を実現するための持続可能な開発目標として掲げられているSDGs。番組の後半冒頭では、主婦のリスナーからのメールとして「正直、今10年後のこととか世界のこととか考えられない」という率直な意見が紹介された。
確かに、新型コロナウイルスの感染拡大により、全国に緊急事態宣言が発令され、先行きが見通せない状況に誰もが不安を感じているのが実状だ。飲食をはじめ多くの業界が経済的な影響を受け、医療従事者や生活インフラを支える人たちは、過酷な環境での仕事を強いられている。
ただ、だからこそ「持続可能性」を問うSDGsの考え方が「今」問われ、注目されている側面もある。実際に、政府のSDGs推進本部(本部長・安倍晋三首相)が昨年12月20日に改定した「SDGsの実施方針」で、「地球規模で人やモノ、資本が移動するグローバル経済の下では、一国の経済危機が瞬時に他国に連鎖するのと同様、気候変動、自然災害、感染症といった地球規模の課題もグローバルに連鎖して発生し、経済成長や社会問題にも波及して深刻な影響を及ぼす時代になってきている」と、今の状況を“予言”するかのように、感染症への危機感が示されていたという事実もある。
田瀬氏は「コロナはそれ自体、健康の話ですけど、みんなが経験しているように経済にも、雇用にも、文化にも、人々の生活全部に影響を与えています。うまく対処しないと、これまでにより格差もどんどんと広がって、政治不安などにもつながってしまう。そういう意味では、全てのSDGsの目標と目指すべき方向に、今のコロナの状況は大いに関係あると思います」と説明した。「17のゴール(目標)」の中には「3.すべての人に健康と福祉を」といった直接的にSDGsに関わる項目も存在するが、コロナ禍に対応する上では、その他の「ゴール」にも目を向ける必要があるというわけだ。
例えば、神奈川県は公式サイトに「かながわのSDGsへの取り組み」(https://www.pref.kanagawa.jp/docs/bs5/sdgs/2030.html)と題したページを用意し、SDGsアクションで新型コロナウイルス感染症を乗り越えようとの意図で特設ページも作成した。その中では、SDGsの17番目のゴールである「パートナーシップ」で、地域の活力維持を目指すことが掲げられ、具体例が示されている。
横浜・川崎地域では、外出自粛で困難に立たされている会社、店舗を応援すべく、新たなサービスなどをまとめて紹介するサイト開設することで地域活性化を推進(「11.住み続けられるまちづくりを」「12.つくる責任、つかう責任」「17.パートナーシップで目標を達成しよう」に該当)。横須賀・三浦地域は、殺菌効果が高いとされる次亜塩素酸水の無償配布や鎌倉のテイクアウトの情報を発信している(「8.働きがいも経済成長も」「11」「17」に該当)。同ページでは、それぞれの取り組みがSDGsの何番目のゴールにつながるものかビジュアルで示しており、SDGsの掲げる理念が、このコロナ禍においても有効活用されていることがよく分かる。
一方で、田瀬氏は「番組の最初に剛力さんがおっしゃっていた『今を大切にしつつ、それが未来にもつながる』という点も考えなければいけません」と指摘する。「SDGsは、もともと10年後の社会をどうしたいかということですが、“今を助ける目”と“10年後の子供たちを助ける目”を両方一緒に持たなければいけないのです。それが、大変な状況の今の僕らの社会、大人に課された大切な課題」と強調した。
「やはり、人間は目の前のことが大切ですからね。今回のコロナの問題を人にたとえてみれば、血が出て外科手術をしなければいけない緊急事態です。ただ、本来SDGsというのは東洋医学、予防医学みたいなもの。緊急手術が必要ないように常に考えておかなければいけないというものです。ただ、今でも遅くない。こういう病気にかからない、緊急事態にならないためにどうすればいいのかということを学ばなければいけないのだと思います」
また、田瀬氏が新型コロナウイルスの影響で最も懸念するのが「4.質の高い教育をみんなに」の項目に対するものだという。休校が続き、教育格差への懸念が生じたり、9月入学・新学期論争まで出てきたり、確かに教育を巡っては混乱が生じている。
「私の娘の幼稚園も休園になって、ずっと家にいます。SDGsの中で、最も重要な目標は教育だといって間違いない。教育は他の全ての目標に大きな影響を与えます。やはり教育は、今も長い目で見ても、ちゃんとやらないといけない。正解がない時代に、どういう社会にしていきたいかを自分自身で考えられる。そんな教育を、しっかりとやっていくのが重要ではないでしょうか。オンライン授業などはありますが、やはり人と人との関わりはすごく重要だし、もう一つ日本で大切なことは先生方をサポートしていくことだと思います。やはり、僕らが学校のことで覚えていることといえば先生のことじゃないですか。教育の中で一番大事なのは先生に対する投資だと思います」
教育とともにコロナの影響が出ているものといえばSDGsが8番目のゴールに掲げる「働きがいも経済成長も」の項目。剛力さんは「芸能という立場で仕事をさせてもらっていて、仕事がなくなってしまったり、中止になってしまったり。仕事への意識の変化も今回ありますよね」と“アフターコロナの仕事の在り方”にも思いを巡らせる。
これについて、田瀬氏は「文化というのは毎日の食事みたいに、ないと死ぬものではないですけど、人間の人生にとっては、とても重要なものだと思います。そういうことをみんなが理解していくことが重要なのではないでしょうか」と、まずは経済活動とともに文化活動の火を消さないことの重要性を吐露した。
さらに「(仕事への意識は)大きく変わっていくと思います。もう、元には戻らないくらいに次の段階にいくのかもしれません。大都市にいなくていいという働き方になるかもしれないし、その結果一人一人がもっと家族との時間を大切にできる働き方になってほしいと思います。一人一人が、より自分らしく働ける社会になっていくといいなと思っています」と、日本人の仕事観にポジティブな影響が出ることを願った。
「ポジティブ」。田瀬氏が訴えるのは、その姿勢の重要性だ。
「コロナで本当に大変な状況ですけど、実は経済活動が半分止まっていることもあって、温暖化が少し止まったり、環境のほうでは良い影響が出てきていたりもするんです。2030年に向けて『絶対にできるんだ』という前向きな、ポジティブな精神を持ってやっていきたいですよね。そうすると若い人たちにも、次の世代にも伝わる。やっぱりワクワクしながら、楽しく次の世代に良い夢を伝えていきたいじゃないですか。そういう風にSDGsが使われていくと良いなと思います」
ちなみに、田瀬氏が取締役CEOを務める「SDGパートナーズ」の社名を「SDGs」ではなく「SDG」としたことには「英語を形容詞的に使う場合は単数形にするとルールがある」という事実に加え、実はある思いも込めているのだとか。それが「『すごいぞ(S)、どんどん(D)、がんばれ(G)』パートナーズなんです」というもの。まるで“D○I語”のような・・・。ただ、田瀬氏は本気も本気。それだけ、前向きなパワー、思いが10年後の明るい未来を実現するには必要であると考えているのだ。
また、番組の終盤では歌手、MISIAさんの「あなたにスマイル:)」が流れた。MISIAさんは現在「あなたにスマイルプロジェクト」を実施中。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、外出自粛要請が続く中、会うことができない大切な人、誰かのために頑張っている人、不安を抱えて過ごしている人、最前線で治療に励む医療関係者、すべての人に音楽を通して「スマイル」を届けることを目的に、同楽曲を歌った動画を募集し、発信しているという。このポジティブな活動も、また「17.パートナーシップで目標を達成しよう」などのSDGsの「ゴール」につながるものといえるかもしれない。
約1時間にわたって放送された『なるほどSDGs~10年後の未来へ~』。番組の最後に剛力さんは、力強く呼び掛けた。
「今回は、前回とはまた状況が変わり、緊急事態宣言が出されている中での放送でした。長く続く自粛生活。怖いなと感じること、つらいこと、大変なこと、迷うこと、腹が立つこと、思い通りにいかず、みんないろいろな感情が芽生えていると思います。この先、どうなっていくかも分からないですが、田瀬さんがおっしゃられていたように、前向きな精神、元気な精神力を持って、ワクワク元気にというのは重要なんだなと思いました。SDGsは10年後の目標であり、正直、今目の前にあることの先も見えないですが、だからこそ今の状況に対しても、前向きに、絶対に回復するんだ、自分自身が元気で前向きにいないといけないんだと思いました。自分だけではなく、大切な人、今も頑張って働いてくださっている方に感謝しながら1カ月後、1年後、5年後、より良い世界をつくるきっかけになったらいいなと思います。10年後をつくるのは、今の選択ですからね。10年後、この選択をして良かったと思えるような一つ一つの行動を私も心に留めて、より重く、強く思って、これからも頑張っていきます!」
SDGsが提示する「17のゴール」と「169のターゲット」。どれも10年という期間があっても、簡単に実現できるものではない。だからこそ今、ポジティブに課題と向き合い、一歩一歩着実に進んでいくことが求められている。