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食べる、過ごす、感じる。「TruffleBAKERY南八ヶ岳」がくれる、新しい豊かさ


この記事に該当する目標
12 つくる責任つかう責任 15 陸の豊かさも守ろう
食べる、過ごす、感じる。「TruffleBAKERY南八ヶ岳」がくれる、新しい豊かさ

都内の洗練された街に店舗を構えるTruffleBAKERY(トリュフベーカリー)が、この夏、南八ヶ岳という自然豊かな地に拠点を構えました。
パンづくりの核を都市から地方へ――その大胆な一歩の背景には、水と森と、人の感性を大切にした“ものづくりの深化”があります。
自然と調和する建築、素材や文化へのまなざし、そして五感で味わう空間が、訪れる人に新たな体験をもたらします。
今回はSDGsの視点から、“つくる責任”と“陸の豊かさ”を体感できるこの場所の本質に目を向けてみます。

2025年7月4日、山梨県北杜市に「TruffleBAKERY南八ヶ岳」がグランドオープン。
運営する株式会社ドレステーブルは、これまで都内に位置していたパンの開発拠点をこの地に移し、新たにラボ・ベーカリー・カフェを併設したブランド史上最大の複合施設を立ち上げました。
この移転の背景にあるのが「水」へのこだわりです。八ヶ岳の天然水は、清らかで澄んだ味わいが特徴で、パンの風味や食感を引き立てる大切な要素として活かされています。

実際に、店頭ではこの天然水を使った高加水の食事パンをはじめ、八ヶ岳ミルクのソフトクリームや地元野菜を使った惣菜パンなど、土地の恵みを活かした約40種のメニューが展開されています。

もうひとつ特筆すべきは、建築における自然との調和です。
設計を手がけたのは、場所に根付いた記憶や文化を未来へつなぐ建築を目指す「再生建築研究所」。
手つかずだった約3,000坪におよぶ敷地の260本の木々を、樹木医とともに一本一本見極め、9割以上を残したといいます。
建物は土地の起伏をそのまま活かしながら、森の景観に寄り添うように緩やかに伸びています。

また、室内に目を向けると、パン職人の作業風景やリアルタイムで開発が進むラボの現場、ずらりと並んだパンをまるで映画館のスクリーンのように眺められる階段状のベンチがあります。
インテリアディレクションとスタイリングを担ったのは、ファッションやインテリア業界で注目される作原文子さん。
約370冊の本が並ぶライブラリースペース、国内外の作家・ブランドの家具を取り入れた空間演出など、アートと日常が緩やかに混じり合い、インスピレーションがうまれ、交差する、そこにいる全ての人の感性を静かに刺激する場となっています。

今後は、レストランやパティスリー、宿泊施設などの展開も予定されており、パン工房という枠を超えて“食と文化の循環拠点”として、さらなる広がりを見せようとしています。

「TruffleBAKERY南八ヶ岳」の魅力は、パンのおいしさだけでは語りきれません。
建築・空間・食体験がひとつの流れとしてつながり、“この場所で過ごす”こと自体が、日常を少し特別にしてくれる体験になっているからです。

例えば、森と建物が呼応するように共存し、窓から差し込む光や室内を流れる音は決して主張しすぎず、季節や時間によって表情を変える景色が訪れるたびに新たな記憶を残し、建築家やスタイリストたちの感性が織りなすその空間には、五感がじんわりと刺激される、静かな体験の連なりがありました。

空間の設えや世界観を知るにつれ、「ここで味わうパンには、なにか特別な意味が宿るのでは」と思わされます。塩トリュフパンや地元食材を使った限定商品にも、土地の文化やストーリーがしっかりと息づいているのが伝わってきました。
パンという“食べる体験”が、この場では“感じる体験”へと静かに広がっていくようです。

職人の動きに見とれながら、アートに触れ、本に手を伸ばす――そんな過ごし方が許される「静かな自由」がここにはあります。忙しない日常の中で、自分のリズムを取り戻すことができる、そんなひとときは思いのほか貴重です。

「TruffleBAKERY南八ヶ岳」は、単にSDGsの理念を掲げるのではなく、「何を選び、どうつくり、どんなふうに届けるか」という視点を空間やパンにまで丁寧に浸透させている場所。
それは、“感性に根づいたサステナビリティ”をそっと体験できる、新しいベーカリーのあり方かもしれません。

木々を守り、水を選び、食を生み出す――それはまさにSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」、目標15「陸の豊かさも守ろう」を体現した、営みそのものです。
「食べる」「過ごす」「感じる」という行動を通して、感性が自然とほどけていくような体験。それこそが、この場所で得られる何よりの贅沢といえるでしょう。

「TruffleBAKERY南八ヶ岳」で、きっと私たちは、自分らしい豊かさを見つけられるはずです。


執筆/フリーライター シナダユイ