大阪・関西万博で次世代の“きこえ”を体験──ユニバーサルな音声情報提供の均一性を実現するために
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8月21日に、大阪・関西万博2025の英国パピリオンにて開催された特別イベント「Audio Technology for the Future」。本イベントは、英国を代表する聴覚・音響支援技術企業Ampetronicが主催したもの。聴覚支援技術における最先端の動向を体感できる場として、補聴・音響分野に関わるグローバルプレイヤーが集結し、注目技術「Auracast™」のプレゼンテーションをはじめ、様々なインタラクティブなプログラムが多数行われました。
このイベントにゲストスピーカーの一人として登壇したのが、世界トップクラスのシェアをもつ補聴器メーカーGNの日本法人GNヒアリングジャパン株式会社 代表取締役社長を務めるマーティン・アームストロング氏です。
Ampetronicは補聴支援機器の開発を手掛けており、聴覚ケアを推進したいという点でGNと共通の目的を持つことから、今回の大阪・関西万博でもGNのイベント参加へと繋がりました。
今回はこのイベントで語られたBluetooth®の最新の音声通信技術「Auracast™」の利便性や、Auracast™が難聴者にもたらす価値、そしてその先にあるユニバーサルな音声情報提供の均一性について迫っていきます。
次世代Bluetoothオーディオ技術 Auracast™とは?
まずは、次世代Bluetooth®オーディオ技術Auracast™について、改めてチェックしていきましょう。Auracast™とは、音声を多数のデバイスに同時配信できる次世代の音声技術で、対応する補聴器やデバイスによって、公共交通機関や映画館、ホールなどの混雑した空間や騒音のある環境でもクリアな音声を直接受信できるのだそう。
今回のイベントにも導入されており、会場内では、パネルディスカッションや各登壇者のスピーチがAuracast™を通じて配信されました。対応デバイスを用いて実際に体験した参加者からは、「周囲が賑やかでも、プレゼンターの声がはっきりと聞こえる」「音質が非常にクリアで、プレゼンテーションに集中できる」といった声が多く寄せられたそう。最新の補聴器と先端技術が融合した本イベントを通して、日常の“きこえ”がどのように変わるのかを来場者自身が実感する時間となりました。


なお、「Audio Technology for the Future」を主催した企業・Ampetronicのエド・ベック氏曰く、Auracast™の活用によるメリットを次のように語っています。例えば、先ほども触れたように、講演会場、学校や大学、オフィス、礼拝所など多様な場面で「一対多」の音声伝達が可能となること。さらに、静寂を守る寺院や映画館・音楽フェスといった娯楽の場、また、駅や空港のアナウンス、ホテル受付など日常生活においても利便性が飛躍的に高まると強調。一台の送信機で複数言語を同時配信し広範囲をカバーできる点や、ネットワーク管理による柔軟な制御の強みも、Auracast™の魅力でしょう。公共空間における音声アクセシビリティの新時代を予感させられます。
マーティン・アームストロング氏がAuracast™に対応する補聴器の可能性を語る
さて、ここからはAuracast™に対応する補聴器の可能性について見ていきましょう。ゲストスピーカーとして登場したGNヒアリングジャパン株式会社 代表取締役社長のマーティン・アームストロング氏は、「接続性(Connectivity)」をテーマに掲げながら、聴覚障がい者にとっての“最大の壁”である騒音環境の打開策として、Auracast™を取り入れることの重要性を語りました。


新世代の補聴器に必要なもの、それは自然な音質と装用感。これに加え、他の機器との「自然な接続」を挙げるアームストロング氏。Auracast™はもちろん、低消費電力を特徴とするBluetoothの次世代規格「LE Audio」を導入した補聴器がもたらす、革新性を示します。
Auracast™×LE Audio、新世代の補聴器がもたらす3つの革新性
アームストロング氏は、新世代の補聴器がもたらす3つの革新性について、第一に、より高音質かつ低消費電力でバッテリー寿命を延ばせる点。第二に、一対多の接続により補聴器同士や他デバイスとの連携が容易になる点。第三に、革新的な音声情報体験を実現するAuracast™により、鉄道や空港の案内、映画館や美術館などのガイド、さらには家庭でのテレビや音楽共有などのあらゆる場面で音声情報体験が一変することだと述べました。
ちなみに、日本において、聞こえづらさを感じている人が現在どれほど存在するか想像がつくでしょうか?なんと約1300万人もの人々が聞こえづらいという自覚を持っているのだとか。しかし、そのうち補聴器装用率は15%ほどだと言われています。難聴の状態を放置しておくと、社会的・精神的・感情的・認知的、さらには身体的な健康にまで影響を及ぼす可能性があるとアームストロング氏は言います。
気軽にアクセスできるAuracast™が広がれば、難聴者・健聴者ともに平等に音声情報を得られる機会が生まれ、難聴者の生活の利便性(=QOL)も向上していくことと思います。
コンセントに刺すだけで“きこえ”をアシスト




今回は、次世代の“きこえ”のための注目技術であるAuracast™についてピックアップしました。この技術の導入が進むことで、障がいの有無や、年齢にかかわらず、“きこえ”の均一性の機会が生まれることでしょう。また、音声サポート機能を搭載した建物を一から建てることは時間を要しますが、Auracast™さえあればコンセントに刺すだけで、人々をサポートすることが出来るのも大きなポイントです。今ある資源の中で、効率よくスマートに、より多くの人がアクセスできるシステムとして、Auracast™を活用すること。それが人にとっても、環境にとっても、最適な選択ではないでしょうか。
執筆/フリーライター・黒川すい






