大阪・関西万博にて、ベストプラクティス受賞者による発表と交流イベント「ベストプラクティスデー」が開催
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大阪・夢洲にて開催中の「EXPO 2025 大阪・関西万博」では、たくさんのパビリオン展示だけではなく、連日さまざまなイベントも開催されており、多くの人々が訪れています。
そんな中、世界の重要な課題を解決する良質なプロジェクトを広く知ってもらう「ベストプラクティス」が、フューチャーライフヴィレッジにて紹介されています。「ベストプラクティス」は2010年の上海万博から継続的に実施されているもので、今回も世界中から応募されたプロジェクトから25のプロジェクトが、よりよい未来への貢献性に期待できるとして選出されています。
そんな画期的なプロジェクトの取り組みを発表し、受賞者同士で交流するイベント「ベストプラクティスデー」が8月14日(木)に開催されました。
万博のテーマを体現する25のプロジェクト
今回のベストプラクティスでは、大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を体現する25のプロジェクトが選ばれました。選ばれたプロジェクトはフューチャーライフヴィレッジ内のベストプラクティスエリアにて、受賞者の多様な活動をパネルと映像で展示されています。会場では受賞内容に関するクイズラリーの実施や、毎日先着で100名に共感したテーマカラーのリボンキーホルダーの配布なども行われています。
受賞者による取り組みの発表と交流のイベント「ベストプラクティスデー」は、5月から8月の第2木曜日に開催されています。今回は、受賞者の中から7プロジェクトが登壇し、来場者やオンラインでの視聴者に向けて活動内容の紹介や交流が行われました。


公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 広報・プロモーション局企画部の今野水己さんは、万博の目的の変化について「20世紀までの万博は国威発揚、殖産興業を目的とし、産業見本市的な性格で開催されていましたが、21世紀からは、地球的課題の解決策を提示することを目的として開かれるようになりました。展示・発信の内容も、自らの産業や観光資源のPRだけではなく、自分たちが世界的な課題にどのように向き合っているのかを重視するようになっています」と話します。
そして「ベストプラクティスは、国内外の様々な主体が、世界の重要な課題にどのような具体的な解決策を提供しているのかを発信し、他の国々・地域にその取り組みを広げたいという意図があり、今日の万博開催の趣旨に真に合致したプログラム」とし、意義のある取り組みとして、ぜひ多くの人に知ってもらいたいとコメントしています。
プロジェクトの認知を広げ、協働できるパートナーを見つけたい
前半に登壇したのは、PEEL Lab、Saathi、株式会社テクリコ、ATC Nepalの4プロジェクトです。


PEEL Labでは、廃棄されてしまうパイナップルの葉を加工してレザーのような風合いの新素材を開発しています。従来のレザーは動物の命と引き換えであり、加工には多くの二酸化炭素の排出や水質汚染、作業者の健康被害など、多くの問題を抱えていました。パイナップルの葉を由来とする新素材レザーは、完全植物性由来で動物からの搾取をすることなく、二酸化炭素の排出も従来のレザーより低く生産できます。また、耐水・耐傷性も高いうえにコスト面でも優れており、持続可能な素材として市場に広めていきたいと語りました。
Saathiは、竹やバナナの葉などの農業廃棄物を基に生理用ナプキンなど持続可能な生理用品を開発する技術を提供しています。インドでは6割以上の女性が生理用品を入手することができない状況にあります。そのため、尿路感染症を患ってしまうことや、生理に関する問題から満足に学校に通えず退学してしまうようなケースが少なくありません。一方で、生理用パッドを入手できていても、そのパッドが環境汚染の原因となってしまっています。100%天然由来の生理用品は、生分解性のため環境への影響が最小限となり、多くの女性に提供できることで健康上の問題や生理由来の就学不全を防ぐことにもつながります。今後はさらなる市場拡大で、多くの女性が快適な暮らしを得られるようにしていきたいと話しました。
株式会社テクリコでは、MR技術を活用したリハビリ支援システム「リハまる」によるヘルスケア支援を行っています。日本は高齢率が30%に迫り、世界でもトップクラスの超高齢化社会。介護や医療の現場は深刻な人材不足となっています。そんな中で、従来の認知症リハビリは紙と鉛筆や積み木など退屈なものがほとんどで、継続してもらえないという課題を抱えていました。MR技術を活用したリハビリは、ゲーム感覚でリハビリに取り組むことができ、医学的なエビデンスを取りながら高品質なリハビリテーションを提供することができます。今後は医療機関だけでなく、個人向けに予防的な活用もできるように開発を進めています。このプロジェクトを日本初の健康支援技術として、国際的な課題解決へとつなげたいと展望を語りました。
ATC Nepalは、ネパールの土壌健全化活動を行っています。ネパールでは人口の6割以上が農業従事者で、小規模農家が中心となっています。小規模農家では資金面や知識面での不足がみられ、その中でも肥料不足が大きな課題となっていました。そこで、1ドルの土壌検査キットを作り、農家向けのトレーニングとともに土壌の調査をローテクノロジーで実施できるようにしました。結果をもとに最適な肥料指導を行い、1ドル検査により100ドル以上の節約になっているとしています。今後はAIを活用したデータマッピングや他地域への拡張なども検討。土壌が最適かされることで、肥料の誤使用による二酸化炭素排出を削減し、気候変動の緩和など、環境や気候にも恩恵が得られるとしています。
この4社のディスカッションでは、ベストプラクティスに応募した動機についてトークが展開されました。


PEEL Labは「2050年までに皮革製品の1%をPEEL Labの製品にしたいという想いから、すばらしい機会としてベストプラクティスに応募しました」と、多くの人に知ってもらい、プロジェクト目標の達成を目指す良いきっかけにしたかったと話しました。
知ってもらいたいという想いはSaathiも同じで、「生理用品の100万枚配布を終え、1000万配布への新しいフェーズに入ったタイミングだったことと、脱プラスチックを果たしていく中で活動を広く知ってもらうことが大切」とコメント。
ATC Nepalも「私たちが解決しようとしているのは、経済面だけでなく環境面の課題です。この課題は1つの組織だけでは解決できません。志を同じくする組織とともに解決していくためにも、万博という機会で広く知っていただきたい」と、取り組みを知ってもらい、ともに課題解決に向かうパートナーを求めていると語りました。
そして、株式会社テクリコは「何としても万博に関わりたかったのが正直な気持ち。私たちの取り組みが万博のテーマとマッチすることは分かっていましたし、海外展開も含めて良いきっかけになれば」と、在阪企業として地元開催となる万博に関わりたかったし、テーマとの共感も大きなきっかけとなったと話していました。
未来につながる取り組みにするために、必要なことは
続いて後半では、Contact Base、Strømlinet Nano、Team HEIの3プロジェクトの発表が行われました。


Contact Baseは、地域コミュニティに息づく芸術や文化を再発見し、その価値を最大限に活用することで辺境の村々を活性化させていく社会実験を行っています。インド農村部の多くは非熟練の日雇い労働者であり、劣悪な経済状況にあります。しかし、彼らの村には伝統的な芸術や文化が色濃く残っていました。それは発見されていない資産であると考え、彼らをアーティストとして能力を向上させ、他都市のイベントに紹介するなど市場と結び付けて、経済効果を生み出しました。そして村祭りなどのイベントを創出し、観光客を誘致。交流と協働を促進することで、文化遺産を保護しながら、生活を変革させていくことを実現しています。
Strømlinet Nanoでは、ナノスケールの観察を実現できる安価なDIY顕微鏡を開発しました。この顕微鏡は、特別な工具不要でブロック玩具のように組み立てることができます。子どもでも組み立てられるほどの平易で低コストの仕組みながら、光学顕微鏡の100~1000倍の拡大倍率で観察をすることが可能となっています。これにより、経済格差を超えた科学教育の機会を広く提供でき、ナノテクノロジーを世界の教室に普及できるとしました。すべての子どもが、つくり、体験し、学べる機会を得て、将来の科学研究の発展に寄与したいと話しました。
Team HEIは、ナイジェリアの貧困層の患者と事故被害者に緊急医療支援を提供する非営利団体です。初期支援金などによる事故後のケアをはじめ、心肺蘇生法と救急隊員訓練、0歳から5歳の子どもへの栄養不良の緩和など、さまざまな取り組みを行っています。ナイジェリアでは、緊急医療対応の不足により多くの死亡者が発生してしまっており、緊急医療に携わる人材の育成が急務となっています。政府機関や企業のCSR活動、慈善活動などと連携して育成プログラムを支援し、プログラムの継続的な支援を確保することで、持続可能な緊急医療体制の構築を目指しています。
3者のディスカッションでは、プロジェクトを推進し、知ってもらうためにはどのようなことが大切かと、来場者からの質問が寄せられました。


Contact Baseは、「アート・フォー・ライフを掲げているプロジェクトとして、アートの情熱はどんな国でも持っているものと考えています。これまでアートは開発のためのツールとは見られていませんでしたが、開発に組み込むことが可能なはず。文化・芸術というものは次のステップのための投資であることを肝に銘じて取り組んでいきたい」と、アートの価値を再認識し、未来の糧となることを忘れずに取り組むことを重要視していると語りました。
一方、Strømlinet Nanoでは「DIY顕微鏡を知ってもらいたいと活動していますが、各国でワークショップを展開する中で若い方にも参加していただいています。海外では中高生に相当する学校で購入されていますが、日本では大学がほとんど。日本でももっと若い世代に使ってもらえるように、STEM教育の重要性を知っていただき、そこに予算をかけてもらえるようになれば」と、DIY顕微鏡そのものを知ってもらうだけでなく、それを活用したSTEM教育の重要性も認識してもらう必要があると考えを明かします。
そしてTeam HEIは、「やはりコネクションが大事で、資金調達が課題です。最近はチャリティであっても利益性が重視され、グローバルな基準で活動できることが大切です。そのためにも、しっかりとシステムを構築し、それを運用していくことが重要だと考えています」と、プロジェクトを持続可能な取り組みにするためにも、利益性を考えたシステムを構築し運用していくことが重要だと話しました。
自分にできることを考え、明日からの行動を変えるきっかけに
この日に発表が行われたプロジェクト以外にも、たくさんの素晴らしいプロジェクトがベストプラクティスに選出されています。
今野さんは「世界には、まだまだ自分たちの知らない課題がたくさんあるのだということを知ってもらうだけでも、新たな学びになる。その課題は、日本で普通に暮らしている人たちには、思いつきもしないもの。そうした課題の存在を知っただけでも、万博での新たな学びになると思いますし、こうした学びを通じて、世界の様々な課題に関心を持つアンテナの感度が上がれば」と、ぜひベストプラクティスから未知の課題に触れて欲しいと願います。
さまざまな取り組みに触れることで「受賞者の活動が、どのように人々や地球のいのちを輝かせているのかを感じ取り、世界中の様々な活動によって、世界が少しずつ良くなっているという前向きで明るい気持ちになってもらえれば嬉しい」と話し、「誰かのいのちを輝かせるために自分には何ができるかを考え、何らかの行動変容につながれば」と、未来を担う人々に、少しでも良い影響を与えられたらと話しました。
10月13日(月)まで開催される、大阪・関西万博。ぜひ、フューチャーライフヴィレッジに訪れ、未来につながる素晴らしい「ベストプラクティス」をチェックしてみてはいかがでしょうか。






