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海とクローゼットから、未来を変える——高校生たちが提言する気候危機から命を守るアクション


この記事に該当する目標
3 すべての人に健康と福祉を 11 住み続けられるまちづくりを 12 つくる責任つかう責任 13 気候変動に具体的な対策を 14 海の豊かさを守ろう 17 パートナーシップで目標を達成しよう
海とクローゼットから、未来を変える——高校生たちが提言する気候危機から命を守るアクション

猛暑や豪雨が日常化し、感染症や食料不安などの健康リスクが高まる今、気候危機はもはや未来の話ではない。そうした中、高校生たちが「気候変動と健康」というテーマに挑み、世界に向けて発信した。

2025年9月16日、大阪・関西万博 英国パビリオンに、高校生たちの熱気があふれた。フォーラム「気候変動と健康—未来へのアクション」では、灘高等学校と雲雀丘学園高等学校の生徒24名が登壇。約4カ月にわたる探究活動の成果を発表した。共催はアストラゼネカ株式会社と一般社団法人みどりのドクターズ。プログラム名は「未来探究」。若い世代ならではの柔軟な発想と科学的思考が交錯する場となった。

「地球温暖化を解決するのはブルーカーボンだった」──雲雀丘学園高等学校

雲雀丘学園高等学校のチームが着目したのは、海のゆりかごとも呼ばれる “アマモ”だ。発表の冒頭、生徒たちはオーディエンスにこう語りかける。「近年、気候変動が人の健康に与える影響はますます大きくなっています。熱中症や感染症だけではなく、赤潮やアオコといった水質悪化による食の安全への脅威も深刻です」。実際、日本では毎年赤潮による被害額が数十億円にのぼり、漁業被害や食中毒のリスクは地域経済と人々の健康に直結しているという。

そこで彼らが注目したのが「ブルーカーボン」。海洋植物が光合成によって二酸化炭素を吸収・固定する仕組みを指すこの概念は、陸上の植林に比べてまだ研究例が少ない。しかし地球の表面の7割を占める海には大きな可能性が眠っており、海洋植物は陸上植物の最大6倍もの吸収能力を持つとされる。特にアマモは、序盤こそ成長が遅いものの、中盤以降は安定してCO2を吸収し続ける特性を持ち、規模の大小を問わず導入しやすい植物だと、独自のシミュレーションから示した。

このシミュレーションは、水流や光の条件を統一した仮想環境を作り、アマモやケルプ、クロレラなど9種の植物のCO2固定力を比較するというもの。クロレラのような微生物が初期に爆発的な吸収力を示す一方、寿命の短さから持続性に欠けることも可視化。結果として、アマモは安定性と持続性を兼ね備え、教育や地域活動に適した“万能型”の植物であることを裏付けた。

高校生たちからの提案は、二層構造になっている。ミクロな視点では、家庭や学校で実践できる「アマモ水槽ワークショップ」を企画。子どもたちが自宅に持ち帰り親世代を巻き込むことで、地域全体に意識を広げる教育的仕掛けだ。実際に45センチの水槽で育成実験を行い、条件を整えると最大70センチまで成長するという。

また、マクロな視点では、自治体が区域を指定して「ブルーカーボン特区」を設ける構想を提示。藻場再生を科学的根拠に基づき進めつつ、市民参加型の教育プログラムや漁業資源の回復と結びつけ、さらにはクレジット制度を組み合わせることで地域経済を循環させる仕組みを描いた。東南アジアではすでにブルーカーボンクレジットの取引が始まっており、日本でも導入できる可能性が高いと示した。

服を大切に長く着用することは、地球にとっても人間にとってもWin-Win──灘高等学校Cチーム

登壇した灘高等学校Cチームが最初に投げかけたのは、体感から始まる切実さだった。「短時間の部活でもめまいがする」──猛暑の現実は、若い世代の日常生活や学びにまで影響している。そこから彼らは、私たちのすぐそばにある“もう一つの排出源”、クローゼットへ視線を向けた。

発表はデータと実感の二本立てで進んだ。まず、メンバーのクローゼットの写真を提示し、夏休み期間に“実際に着た服”の少なさを可視化。聴衆に「この数字は何を示すと思いますか?」と問いかけたうえで、59%の衣類が資源ごみではなく可燃・不燃ごみとして捨てられている現状を明らかにした。原料生産(天然繊維は肥料・農薬、化学繊維は採掘・精製)と焼却中心の廃棄が、アパレルの温室効果ガス排出を押し上げている構造にも切り込む。

では、この現状をどうしたら変えられるのか。彼らの解は“行動デザイン”だ。第一に、環境負荷をひと目で伝える「エコスコア」表示。フランスの先行例を引き、製造・輸送・素材などの負荷を数値・ラベル化すれば、店頭やECの比較軸が「価格×デザイン」から「価格×デザイン×環境」へと拡張される。グリーンウォッシュの懸念には、公的機関や第三者の基準・監査で応えるとした。

第二に、常設のシェアスペース。ごみ捨て場より行きやすい商業施設や公共空間に、無人運営のラックを設置し、持ち込み数に応じて持ち帰れる“スタンプ”方式で循環を促す。回収・仕分けの手間という心理的コストを下げつつ、シェア枚数とCO2削減量を場内で可視化することで、小さな達成感を積み重ねる設計だ。単発イベント型の交換会の熱気は活かしつつ、“日常で続く”仕組みへとアップデートする。

第三に、健康との接点。気候危機への不安がメンタルヘルスに影を落とすなか、集団での環境行動への参加は不安の軽減につながると示された研究知見に触れ、エコスコアやシェアの“見える成果”が自己効力感を高めると論じた。さらに、彼らは試算も示す。「1億人が1着シェア」という仮定のもと、CO2抑制量は25万5千トン、超過死亡の抑制は約100人相当という概算を提示し、身近な行動の社会的インパクトを数字で描いた。

最後に、「服を大切に長く着用することは、地球にとっても人間にとってもWin-Winである」と呼びかける。「足るを知る」=「我慢」ではない。持続する豊かさの条件だ。 使い捨ての回路を暮らしから組み替え、服を長く使い、有限な資源を循環させていく。その小さな反復が、消費の速度を緩め、社会の歯車を静かに組み替えていくだろう。

描ける未来は実装できる——指標と技術で広げる「救える命」

合計で5つのチームから行われた発表では、このほかにも「消費行動を寿命換算で可視化する指標」や「リサイクルボックスと炭素税の制度設計」、「海洋酸性化と栄養問題に向き合う都市モデル」など、多彩なアイデアが飛び出した。どれも「社会をどう変えるか」を自分の言葉で描き切る想像力が核にある。変化はまず、“自分たちの住みたい未来”を思い描くことから始まる。その想像力こそが、次の制度と実装を生む原動力だ。

イベントの最後には、浅尾慶一郎環境大臣がオンラインでサプライズ登壇。全編を見届けたうえで高校生たちにエールを送り、「環境大臣として感銘を受けた」と深い探究と構想力を称えた。サステナブル・ファッションの先駆者ステラ・マッカートニーの事例を引き、「つくる側の責任」と「買う側の行動」という両輪の重要性を強調。猛暑や豪雨が常態化する“待ったなし”の現実を踏まえ、「小さな行動は意味がないと思いがちだが、『寿命が延びる』という指標は非常にわかりやすい」と、環境貢献の価値化や「救える命」の指標化といった高校生の発想を評価した。さらに、環境省が進める人工光合成の社会実装を“日本版アポロ計画”として推進する決意を示し、「描ける未来は実装できる。ぜひ挑戦を続けて」と締めくくった。


執筆/Mina Oba