スポーツの秋に考えたい、持続可能な“健康習慣”ースポーツ栄養士が教える運動後の栄養ケア
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秋の訪れとともに、運動を始めたくなる季節がやってきました。気温や湿度が落ち着き、屋外でも過ごしやすくなる秋は、ウォーキングやランニングなどを始めるのにぴったりのタイミング。涼しい秋風に背中を押されるように、自然と体を動かしたくなる方も多いのではないでしょうか。
代謝が高まりやすくなるこの時期に運動習慣をつけておくことは、冬に向けた「太りやすさ」や「冷え」への備えにもつながります。一方で、しばらく運動から遠ざかっていた方にとっては、運動や筋力トレーニングの翌日に全身の倦怠感や筋肉のだるさを感じることもあるでしょう。だからこそ、無理のない範囲で少しずつスタートさせ、「栄養」と「休養」を意識し、体をしっかりとケアしながら行うことが秋の運動を無理なく続けるポイントです。
健やかな体づくりを日々の暮らしの中で続けていくことは、SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」にもつながる大切な一歩。今回は、“運動の秋”を心地よく過ごすために大切な運動後の栄養ケアについて、スポーツ栄養士の川端理香さんにお話を伺いました。
疲労感が溜まりにくい体づくりに必要なのは?


運動後の疲労感を翌日に持ち越さないためには、適切な栄養補給・入浴・ストレッチ・質の高い睡眠など、生活習慣を意識することがポイント。ちょっとした工夫を取り入れるだけでも、翌朝の体の軽さが変わってきます。
このうち、効果的に栄養補給をするうえで大切なのが「何を・いつ食べるか」という“タイミング”。運動後30分以内は「ゴールデンタイム」と呼ばれ、体が栄養を効率よく吸収しやすい時間帯とされています。このタイミングで適切な栄養を補給することで、より高いサポートが期待できます。
筋トレ後の回復は24時間ほど続くため、ゴールデンタイムに限らず、その後の3食でも栄養バランスを意識することが大切。とくに、糖質とたんぱく質の摂取バランスには注意が必要です。目安としては、糖質:たんぱく質=2~3:1が理想的とされています。
最近はたんぱく質重視の傾向がありますが、糖質を摂ることでインスリンの分泌が促され、たんぱく質の筋肉への取り込みがよりスムーズになります。また、身体的な疲労感だけでなく、神経的・精神的な疲労感に対しても、それぞれに適した栄養素を意識して摂取することで、気分の安定、イライラの緩和、さらには睡眠の質の改善など、心身のバランスを整えるサポートにもつながります。
運動後のケアにおすすめ!4つの栄養素・成分を意識しよう
栄養面での運動サポートというと、筋肉を増やすことに注目が集まりがちですが、実は“疲れを溜めない体づくり”も、運動パフォーマンスを維持するうえで欠かせません。運動によって失われやすい栄養素や、疲れやすい身体におすすめのビタミンなど「ケア」の視点から栄養を見直すことが、長く快適に運動を続けるためのカギとなります。
運動後のケアにおすすめの栄養素・成分は、たんぱく質、ビタミンB₁、「エイコサペンタエン酸(EPA)」、「イミダペプチド」の4つ。
たんぱく質は筋肉の修復や再生に欠かせない栄養素で、肉・魚・卵・乳製品・大豆製品などから摂取できます。プロテイン製品や牛乳を活用するのも手軽な方法。豆腐や納豆などの大豆製品は、たんぱく質に加え腸内環境を整える食物繊維も摂れるためおすすめです。
ビタミンB₁は糖質代謝に必要な補酵素で、エネルギー生成を助けます。ストレスや運動で消費されやすく、水溶性のため体に蓄積されにくいのが特徴。にんにくやたまねぎと一緒に摂ると吸収率がアップするので、「豚キムチ」や「納豆+ねぎ」などのメニューが効果的です。
EPAは青魚に多く含まれるオメガ3脂肪酸の一種で、自律神経のバランスを整え、疲労感をやわらげる働きが期待されます。さんま、いわし、ぶりなどに豊富ですが、酸化しやすいため加熱は控えめに。抗酸化作用のあるビタミンA・C・Eと一緒に摂るとより効果的です。
イミダペプチドは抗酸化作用を持ち、活性酸素を除去して細胞の疲労を防ぐ成分。鶏むね肉に多く含まれ、スープやカレーなど“汁ごと食べられる”料理で摂るのがおすすめです。
覚えておきたい“時間栄養学”の運動時における効果


こうした栄養素をただとるだけでなく、食事のタイミングを体内時計に合わせて最適化すると、運動効果を上げるとともに休息や体調管理を効率的に行うことが可能になります。
朝の運動は、日の光とともに体内時計を整え、代謝を高めるのに最適。脂肪燃焼や集中力アップが期待でき、セロトニンの分泌で気分も前向きになります。エネルギー不足を防ぐため、運動前にはバナナや果物入りヨーグルトなどで軽く補給を。運動後は、おにぎりや卵、味噌汁などでたんぱく質と炭水化物をバランスよく摂りましょう。
夜の運動は、日中の疲れをリセットし、心身をリラックスさせて睡眠の質を高めます。ただし、激しい運動は逆効果なので就寝の2〜3時間前までに。消化に優しい白米やバナナ、豆腐やヨーグルトなどを組み合わせるのがおすすめです。運動後はたんぱく質と炭水化物を補い、野菜やナッツでビタミン・ミネラルもチャージしましょう。
時間栄養学を活用した食事と運動のタイミングを意識することで、効率的なパフォーマンスが期待できます。自分の生活リズムや運動習慣に合わせて、最適な食事タイミングと栄養バランスを心がけましょう。
健康を大きな目標と考えるよりも、日々の中で少しずつ整えていくこと。それが、これからの時代に求められる「持続可能な健康」のかたちかもしれません。秋の運動習慣をきっかけに、自分の体を大切にする時間を少し増やしてみてはいかがでしょうか。


・監修者 川端 理香(かわばた りか)氏
管理栄養士 元日本オリンピック委員会強化スタッフ
アテネオリンピックビクトリープロジェクトチーフ管理栄養士として、全日本女子バレーボールチームや競泳、体操、レスリングなどを栄養面からサポートし、金メダリストを輩出。その他、Jリーグ横浜F・マリノス、浦和レッズ、FC東京など15チーム以上のサッカー選手や、プロ野球、プロゴルフ、Vリーグ、Bリーグ、ラグビー日本代表など3万人以上のトップアスリートの栄養サポートを行う。
昭和女子大学非常勤講師。企業の栄養アドバイザーも担っている。
『仕事のパフォーマンスが劇的にあがる食事のスキル50』、
『スポーツ選手の完全食事メニュー400』他著書も多数発刊。
日本のこれからの健康と栄養素についての正しい知識づくりをサポートするWEBサイト『大塚製薬 栄養素カレッジ』
https://www.otsuka.co.jp/college
執筆/フリーライター Yuki Katagiri






