「人と人の心をつなぎたい」日本のトップショコラティエ大石茂之が万博で語った、チョコレートが創る未来とは?
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まだまだ記憶に新しい大阪・関西万博。イベント自体は閉幕しているものの、そこで交わされた「未来の食」に関する議論は、これからの私たちにとって重要なヒントに満ちているかもしれません。というわけで今回着目したのは、10月1日に『静けさの森』休憩所で開催された「食と暮らしの未来」をテーマにしたトークセッション。本トークセッションでトリを務めたメリーチョコレートのトップショコラティエ・大石茂之氏が語った、“チョコレートが創る未来の世界”とは?
彼の言葉をもとに、メリーチョコレートが追求する「高品質なものづくり」と、持続可能な社会のつながりを紐解いていきましょう。
「世界のトップショコラティエ」が魅せられた、日本の素材の可能性
大石氏が世界を代表するトップショコラティエと呼ばれる所以は、その輝かしい受賞歴にあります。彼は、ヨーロッパで権威のあるC.C.C.(フランスチョコレート愛好会)の品評会で最高位のゴールドタブレットを受賞し、“世界の優秀なショコラティエ100”にも選出されるほどの実力の持ち主。


「この素材とこの素材を合せたらおもしろいかも」という純粋な探求心から、素材集めや試作に取り組んでいるとのこと。今でこそ人気な「抹茶」をいち早くチョコレートに取り入れたこともあるそうですが、2000年当初のパリでは、その苦さに目の前で吐き出す人もいたのだとか……。それでも大石氏は「日本の素材を使い繊細な味わいに仕上げたチョコレート」にこだわり続け、いつしかその品質が国境を超えて愛されるようになりました。
挫折と成功を積み重ねながら続く大石氏の挑戦は、日本の食文化の価値を世界に発信しているとも言えるでしょう。この発信を通して、日本が持つ多様性を守っているのです。
最高の“おいしさ”を求める情熱から生まれた地産地消のこだわり
また、大石氏は近年、日本各地をめぐりながら様々な活動にも取り組んでいます。例えば、生産者・販売者と手を組んで地産地消を目指す活動や、地方創生を図る「てとてショコラ」。これらの活動は、インターナショナルチョコレートアワード世界大会で金賞を受賞したチョコレート『すだちと薔薇』に結実しているそうです。
本チョコレートに使用されているのは、「地域特性のある素材」。徳島県産のすだちや、愛知県産の生薔薇……というように、これらの魅力を最大限に引き出したことが、世界的に高く評価されました。なお、この生薔薇は、展示会で出逢ったバラ農家の女性から分けてもらったのだとか。大石氏にとって地産地消は、単なる社会貢献ではなく、「素材の魅力を超えたおいしさを追求したい」という品質への“こだわり”の表れであり、地域(生産者)との交流を促進させるきっかけでもあるのですね。食材、地域、人、それぞれを輝かせることで生まれる品質の高さこそ、持続可能なものづくりの姿ではないでしょうか。
万博で語られた「チョコレートが人の未来にできること」


抹茶をはじめとした日本素材の可能性を模索し続けること、『すだちと薔薇』から見る地産地消の意義など、ここまでご紹介したような内容を、万博のトークセッションで語った大石氏。
改めて、彼が根本に据えていたテーマは、「チョコレートが人をつなぐ未来」―チョコレートが人にできること― でした。様々な興味深いエピソードを明かす中で、「チョコレートを通して素晴らしい方々と出逢えた」と話される場面も。それは、チョコレート作りの過程において出逢った生産者はもちろん、このトークセッションに足を運んだ観客たちに対しても向けられた言葉でしょう。会場で観客たちに『すだちと薔薇』が配られた際には、その繊細な魅力を感じようと会場がひとつになっていたことも印象的です。あの一体感は、彼が締めくくりに述べた、「未来もチョコレートが人と人の心をつないでいくと思うし、そのようなチョコレートを創っていきたい」という想いが、形になったかのようでした。
チョコレートを「モノ」としてだけでなく、人と人、地域と世界、生産者と消費者をつなぐ「コミュニケーションツール」として捉え直す。それは、私たちの心の豊かさや幸福(ウェルビーイング)に貢献する、大切な役割です。
私たちが選ぶ「一粒」が、未来をつなぐ


世界的なコンクールで最高位の賞を受賞する“日本屈指の職人”でありながら、同時に地方創生に情熱を注ぐ実践者としての顔を持つ大石氏ですが、「日本の素材」や「地域」にこだわる姿勢からは、生産者・食べる人との“つながり”を大切にしていることが伝わってきます。
彼の味の追求をすべての商品に反映されているメリーチョコレートにも、その“つながり”を守っていこうとする努力が垣間見えるのではないでしょうか。万博は終わりましたが、大石氏が示した「食と暮らしの未来」は、私たちの日常の選択の中に、きっとあるはず。あなたが次に手に取るその一粒のチョコレートは、誰と、どんな未来につながっていますか?甘美な味わいに浸りながら考えてみると、奥深いですね。
執筆/フリーライター・黒川すい






