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デンマークの「きこえ」のあり方に学ぶ、人生100年時代の“幸せなコミュニケーション”のヒント


この記事に該当する目標
3 すべての人に健康と福祉を 10 人や国の不平等をなくそう
デンマークの「きこえ」のあり方に学ぶ、人生100年時代の“幸せなコミュニケーション”のヒント

見落とされがちな、暮らしの“彩り”を守るために

「人生100年時代」という言葉が定着し、健康寿命や資産形成に関心が集まる昨今。しかし、年齢を重ねる中で、意外と見落としがちでありながら、実は日々の生活の質に深く関わる大切な要素があります。

それが、「きこえ」です。

「歳をとれば、耳が遠くなるのは自然なこと」。日本ではそう受け止められることが多い聴覚の変化ですが、世界に目を向けてみると、その捉え方には国ごとの文化や意識の違いがあることがわかりました。
世界トップクラスのシェアを持つデンマークの補聴器メーカー、GNヒアリングジャパン株式会社が発表した「デンマークと日本の『きこえ』に対する意識比較調査」。このレポートから見えてきたのは、単なる身体機能の話にとどまらない、人と人との「つながり」を守るための、幸福な社会のヒントでした 。

今回は、SDGsの観点からも無視できない「きこえ」の課題と、そこから広がるコミュニケーションの未来について、考えたいと思います。

デンマークに根付く「きこえ」に対する価値観

世界幸福度ランキングでも常に上位に位置する福祉国家、デンマーク。今回の調査で明らかになったのは、この国の人々が持つ「きこえ」に対するポジティブで合理的な向き合い方です。

年齢を重ねて身体的な変化が起こることについて、デンマーク人の64%が「それは自然な人生の一部であり、新しいツール(メガネや補聴器など)と共に乗り越えていくものだ」と回答しています 。 彼らにとって補聴器は、「会話を支える前向きなツール」として捉えられており、視力が落ちたらメガネをかけるのと同じように、ごく自然に生活に取り入れられているのです 。

一方、日本の結果を見てみると、同じ質問に対して「新しいツールと共に乗り越えていく」と答えた人は50%にとどまりました 。また、31%の人が「当然のことなので特に気にならない」と回答しています 。一見、変化を受け入れているようにも感じられますが、そこには日本特有の「きこえ」に対する課題が潜んでいるのかもしれません。

その違いが顕著に表れたのが、「聞き取りづらさを自覚した時、誰に相談するか」というデータです。 「誰にも相談しない/しなかった」と回答した人は、デンマークではわずか3人だったのに対し、日本ではその12倍にあたる36人にのぼりました 。

日本では、加齢による変化を「しょうがない」と自己完結してしまい、その先にある「聞こえづらさが招く孤独」や「コミュニケーションの断絶」というリスクに対して、具体的なアクションを起こせていない現状が浮かび上がってきます。これは、個人の問題であると同時に、超高齢社会を迎えた日本が直面する、社会的な“見えない壁”なのかもしれません。

「見た目」と「コミュニケーション」、優先順位の違いから見えるもの

なぜ、これほどの意識差が生まれるのでしょうか。そのヒントは、補聴器選びの基準にも表れていました。

将来、自分が補聴器を検討する際に何を優先するか、「コミュニケーションのしやすさ」と「周囲からの見た目」のどちらを重視するか、という問いに対し、デンマークでは56%が迷わず「コミュニケーション重視」を選択しました 。 対して、日本で「コミュニケーション重視」を選んだのはわずか15%。多くの人が「見た目」を気に留める傾向にあり、回答が分散しています 。

デンマークの人々にとって、「きこえ」を補うことは、家族や友人との会話を楽しみ、社会とつながり続けるための積極的な意思表示です。補聴器使用者に対しても「前向きに対処していていい」「きこえを大切にしていて、話しやすそう」といった肯定的なイメージが定着しています 。

一方、日本ではまだ、補聴器に対して「高齢者のつけるもの」「隠したい」といったネガティブなイメージや、あるいは「特に何も思わない」という無関心な層が多く、それが早期の相談や対応を遅らせる要因になっている可能性もあります。
SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」や、目標10「人や国の不平等をなくそう」の観点から見ても、聴覚のケアは重要です。音が聞こえにくいことで会話から疎外され、認知機能の低下やうつ状態のリスクが高まることは、世界的な公衆衛生の課題としても指摘されています。 「見た目」以上に「聞こえる喜び」を大切にする。そんな価値観の転換が、これからの日本には求められているのかもしれません。

オーガニックヒアリングという考え方

こうした意識のギャップを埋め、日本でも「きこえ」をもっと身近なものにするために。GNヒアリングジャパンが提唱しているのが、「オーガニックヒアリング」というフィロソフィーです。
これは、単に音を大きくするということではなく、「補聴器をしているのを忘れてしまうほど自然であること」を目指し、その人本来のきこえに近い「自然な聞き心地」や、生活の一部として馴染む「自然な着け心地」を追求する考え方です。

「きこえ」をサポートすることは、特別なことではなく、誰もが自分らしいライフスタイルを維持するための、ごく当たり前の選択肢です。
最新の補聴器は、以前のイメージとは異なり、デザインも洗練され、小型で目立たないものや、スマートフォンと連携して使い勝手の良いものが増えています 。
例えば、騒がしいカフェやレストランのような環境でも、周囲の雑音に邪魔されることなく、聞きたい相手の声に集中できる機能。あるいは、マスクの着け外しを邪魔しない耳あな型や、ワイヤレスイヤホンのように使えるスタイリッシュなデザインなど、選択肢は広がっています。

私たちが、親や自分の未来のためにできること

デンマークの人々のように、「きこえにくくなったね。じゃあ、もっと楽しくおしゃべりするために、新しいツールを試してみようか」と、明るく提案することができたら、そこには、「補聴器=老化の象徴」ではなく、「補聴器=これからもあなたと沢山話をしたいという想いの現れ」という、温かいメッセージが生まれるはずです。

企業が優れた製品を作るだけでなく、私たち生活者が「きこえ」に対する意識を変えていくこと。 「耳が遠くなること」を個人の孤独な問題にせず、家族や地域で支え合うコミュニケーションの課題として捉え直すこと。 それが、誰もが安心して年齢を重ねられる、持続可能な社会への確かな一歩になるのではないでしょうか。

まずは身近な家族と、「きこえ」について話してみる。そんな小さなきっかけが、社会全体のやさしさの感度を上げていくのかもしれません。
人生100年時代。最期の瞬間まで、愛する人の声がクリアに届く。そんな当たり前の幸せが守られる社会を、みんなでつくっていきたいものです。