“女性目線”でSDGsの理念を紐解く。 日本での「女性活躍」を阻む「性別役割分担意識」とは?
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持続可能な開発目標として国連サミットで採択されたSDGs。剛力さんは、番組の冒頭で「3回目の放送を迎えさせていただいて、今まで何となく知っていたところから、少しずつ理解を深められてように思います。一つの視点だけでなく、いろいろな方面から見られるようになってきたように思います」と、これまでの放送を振り返った。理解をさらに深めるために今回招いた有識者ゲストがキャスターの国谷裕子さんだ。
国谷さんといえば、NHK「クローズアップ現代」。キャスターとして1993年から2016年まで23年間にわたって担当した経歴を持つ。大阪府出身で米ブラウン大学を卒業後、81年にNHK「7時のニュース」英語放送の翻訳、アナウンスを担当したのを機に報道の世界へ。NHK・BS1「ワールドニュース」の駐米キャスターなどを経て、「クローズアップ現代」を担当した。現在は取材活動のほか、国連食糧農業機関(FAO)日本担当親善大使も務めるなど国際的に活躍している。
そんな国谷さんが、現在力を入れて取り組んでいるものの一つがSDGsに関する取材活動だという。『国谷裕子とチャレンジ!未来のためのSDGs』『国谷裕子と考える SDGsが分かる本』(ともに文溪堂)など関連本の監修もしている。
まず剛力さんがたずねたのは、国谷さんが「SDGsに関わるきっかけ」について。国谷さんは、キャスターとしての経験が大きく関わっていることを明かす。
国谷(敬称略、以下同) 「『クローズアップ現代』で、ありとあらゆる社会問題、国際問題、経済問題について報道して、その時に問題の原因、背景について伝えて、解決策であろうと思ったことについて番組で提示してきました。ただ、数年たって、そのテーマをもう一度見てみると、実は解決策だと思われていたことが、より状況を悪化させているケースなどに直面することがありました。そういったことを見るにつれ、自分はいったい何を伝えてしまったのだろうかと反省することも多々あったのです。その中で、私がSDGsに出会ったのは15年。ちょうど国連で採択されるときにニューヨークへ取材に行ったのですが、SDGsのことを知ると、SDGsというのは経済の問題、社会の問題など、問題をバラバラに見るのではなく、いろいろな問題が底流でつながっていることを意識して、それぞれがみんな良くなるようにアプローチする・・・ということを一番大事にしていることに気が付きました。これこそ、私がずっと悩んでいたことへの答えなのかなと思え、SDGsに取り組もうと思いました」
剛力 「答えは一つじゃない。いろいろな方面から見て答えを探す…」
国谷 「SDGsには17の目標がありますよね。(それを達成するための)ターゲット(具体目標)が169もあるというのは、ちょっと頑張り過ぎかなと思う方もいると思いますが、一つが良くなっても、こっちにネガティブな影響を与えないようにという考え方から成り立っているんですね。特に私がインタビューをして感銘を受けたのが、SDGsの設計で中心的な役割を担い、現在は国連副事務総長を務めているアミナ・モハメドさんというナイジェリアご出身の方でした。実はSDGsというのは、アミナさんをはじめ、アフリカ、中南米などの女性たちが奔走して、国際的な合意を取りまとめた背景もあるのです」
そう国谷さんが切り出し、説明したのが、アミナさんが経験した母国ナイジェリアの悲しい現実だ。アミナさんが「小さい頃に見て育った」というチャド湖は、20年ほど前までは「船に乗って、湖の向こうに行ったら、どこの国に行けるんだろう」などと想像を掻き立てるほど大きな湖だったとか。しかし、湖の面積は気候変動などが原因で今や10%程度に。農業や漁業で生計を立てていた人々は生計手段を失い、その結果、貧困と栄養の悪化が起きてしまった。
そして、特に問題となっているのが、仕事と希望を失った若者が都市に流れ、テロリズムや社会不安を引き起こす過激派に誘い込まれてしまうことだという。そうして、勢力を拡大したのがイスラム過激派組織・ボコハラム。女子学校を襲って生徒を誘拐するといった犯罪が横行するようになった。
国谷 「気候の問題もあるし、水の使い方の問題もある。就職。貧困。全てがつながっていて、全体を良くしていこうと思うと、いろいろな観点から対応していかないと問題は解決できないというエピソードを耳にしてから、これはすごく大事な問題なのだということをすごく実感するようになりました」
確かにSDGsの「17のゴール」には「1.貧困をなくそう」「2.飢餓をゼロに」「13.気候変動に具体的な対策を」「14.海の豊かさを守ろう」など、このナイジェリアのチャド湖を巡る問題に関わる「ゴール」が設定されている。これを見ても、1つの問題が複数の「ゴール」と複合的に関わり合っていることが分かる。
国谷 「大変な猛暑が今年の夏も予想されますけど、豊かな国が多くの二酸化炭素、温室効果ガスを排出することによって一番影響を受けるのはアフリカや南アジアなどの国の人々です。私たちはクーラーの効いた部屋に逃げ込むことができますが、そうした施設がなく、電力もなく、屋外で農業をせざるを得ない、そういった弱い人たちに最も厳しい試練を与える。そこが不安定になっていくと、世界全体が不安定化していく。全部がつながっているのです」
今回の放送で、剛力さんは国連本部で販売されている17色に彩られた「SDGsピンバッジ」を入手したことを報告。国谷さんから「17の目標、個々のバッジも国連に行くと売っています。自分自身がこだわっているもの、大事だと思っているテーマをつける人もいますね」との情報も得た。そんな国谷さんが今回、日本が抱える問題の一つとして特にこだわっているテーマとして解説したのが「ジェンダー平等を実現しよう」というSDGsの5番目に掲げられるゴールについてだった。
国谷 「総体的にSDGsの進捗を評価することも行われていて、ドイツの財団、国連が一緒になって発表しているものでは、日本は全体の15位とそれほど悪い結果は出ていません。ただ、その中で大変遅れていると報告されたのが『5.ジェンダー平等』と『12.つくる責任、つかう責任』『13.気候変動』『17.パートナーシップで目標を達成しよう』の4つ。『ジェンダー平等』に関しては、リーダーの地位にある女性が少ない、女性と男性の賃金格差がある、政治家・管理職の女性比率が低い、職場における意思決定のポジションに女性が少ない、というのが非常に大きな問題とされています。女性たちが発言力を持つことによってイノベーションが起き、新しいビジネスが生まれたり、新しい社会の変革が起きたり、今や世界では女性が活躍できることで社会を変えることができると認識されています。いろいろ困難な課題について、違った発想、違った視点でものを見ることができると、いろいろなことが変わり、それが国の力になります。今、すごいスピードで『ジェンダー平等』が進んでいますが、日本はその速度がとても遅いのです。国は2003年に『2030年までに指導的地位に女性が占める割合を30%』との目標を掲げたのですが、今何%くらいだと思いますか?」
剛力 「10%くらいですか?」
国谷 「ILO(国際労働機関)が世界の管理職に占める女性の割合の数値を出していて、日本は12.7%でした。1990年辺りは8.4%。30年たって、わずかしか増えていません。大企業に至っては、女性管理職がまだ1桁というところも多くて、それに比べて米国は39%台。剛力さんが実感されているように、とても遅れています」
剛力 「女性は物理的な力の差とか、子供も欲しいし結婚もしたい、という思いもある。どうしても仕事を休まなきゃいけなくなるとか、そういう面があると女性側も(仕事に対する)罪悪感を覚えてしまう部分があるのかなと思います」
国谷 「SDGsの5番のゴールというのは、女性に対する差別をなくすと同時に、女性の能力を高めるという目標も入っていて、何が女性たちの壁になっているのかはいろいろな研究もされています。剛力さんがおっしゃったような『女性たちはこれをしなければならない』という固定化された考え方、視点は『性別役割分担意識』といわれていて、それが日本は非常に強く、足かせになっている。国会でも、企業の中でも、公共の現場においても、日本にはリーダーのポジションにある女性が非常に少ないのです。ところで、リーダーって、どういう人がなるべきだと思いますか?」
剛力 「私が思う理想のリーダーは、みんなが楽しく働ける場をつくれる人です」
国谷 「これもいろいろと研究されていて、女性が働きやすい場所、女性が活躍できる職場というのは、男性にとっても女性にとっても働きやすく、活躍できる場だということが分かっています。みんなが能力を発揮できて、家事も育児も同じように両方がやるという『性別役割分担意識』がない社会を目指そうとするのであれば、それはやはり女性目線で『こういうふうに職場があった方が良いんじゃない?』とか『保育園にお迎えに行く時間でなければ、私は会議に参加できるのに…』とか、口をつぐんでいる女性がいるかもしれないということを考えないといけませんよね」
剛力 「新しい目線を持つということですね」
国谷 「家庭の中で『これを買おう』とか、決定権を持つのは女性であることが多いですよね。それなら、意思決定の場に女性が多くいるプロジェクトによって、企業の競争力が高まっていく可能性もある。でも、女性自身が『自分が一歩を踏み出していいんだろうか』と躊躇したり、会社の中で誰を偉くするかを選ぶときに固定化されたリーダーシップのモデルが、今の日本にはあるのではないかと思います。あるいは、女性が目指すロールモデルになるような人物が日本にはいない。ドイツには、多くのロールモデルがいるのですが」
剛力 「どうしたらそこは解決できるのですか」
国谷 「一つは、女性も男性も意識改革することが必要だと思います。フェイスブックの最高経営責任者(COO)を務めるシェリル・サンドバーグさんが『LEAN IN (リーン・イン)』という有名な本を書いていらっしゃいますが、やはり女性たちは大事な会議の場であっても少し後ろの方に座って『自分は目立ちたがり屋だと思われたくない』『でしゃばりだと思われたくない』と思いがちです。それも『性別役割分担意識』、固定化されたイメージですよね。あとは、能力が本当はあるのに自己肯定感が低い。大きなプロジェクトに対して『やります』と手を挙げないのが現状です」
そこで、国谷さんが紹介したのが、男女共同参画社会の形成を目指して活動する独立行政法人「国立女性教育会館(NWEC)」が行った調査だ。「あなたは管理職を目指したいですか」という管理職志向について、1年目の男性は99.4%が持っているのに対して女性は60%。そもそものスタートから大きな差があるが、これが3年目になると男性の87.9%に対して、女性は39.2%まで減少するという結果が出ているという。
「最初から大きな差があって、女性は下げ幅も大きい。どういう環境で育ってきたのかといった背景も含めて、会社に入ってくる女性たちの気持ちを変えるために何かしなければいけないのではないか、『性別役割分担意識』が固定化されているのではないかと感じます」
そう問題点を指摘した国谷さんは、最後にリスナーにメッセージを送った。
「女性たちの働きづらさ、生きづらさは、まだまだ残っていると思いますが、自分で声を上げないと、自分たちでつながって声を上げないと、なかなか状況は変わりません。男性が変わって、女性のために声を上げるということは少ないので、ぜひ女性たちが連携して、声を上げていってほしいなと思います」
剛力さんも、その思いに共感するものがあった様子で「今回、初めて女性のゲストに来ていただいて、本当に違った見方をうかがえました。私も、SDGsにこう取り組みました…と言えるよう、頑張りたいなと思います」と言葉に力を込めた。
そんな今回の放送のエンディングで流れたのは、アイルランドのロックバンド「U2」の『プライド』。U2のフロントマン、ボノは環境問題に熱心に取り組んでいることで知られ、ノーベル平和賞の候補に3度選ばれている。そのU2が昨年12月に日本で行ったライブで、アフガニスタンの用水路作りなど人道・復興支援に尽力しながら2019年末に凶弾に倒れた中村哲(てつ)医師に捧げる形で歌われたのが、この楽曲だった。『プライド』の歌詞にはこんな一節がある。「彼らはあなたの命を奪ったけれど、あなたの『誇り』までは奪えなかった」。さまざまな国際問題、社会問題を乗り越えるべく策定されたSDGs。まさに人間の「誇り」が、その理念には込められている。