剛力彩芽と分かりやすく学ぶESG投資
女優、剛力彩芽さんと持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」を学ぶニッポン放送の特別番組『SDGs MAGAZINE』。2021年7月23日放送された第16回ではESG投資が取り上げられた。三菱UFJ信託銀行のアセットマネジメント事業部責任投資ヘッド・加藤正裕(まさひろ)さんをゲストに招き、剛力さんが“ミスターSDGs”こと慶応大学大学院教授で同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表を務める蟹江憲史氏とともに、SDGs目線からの投資を深掘りした。
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番組では毎回、SDGsにまつわる人や企業、SDGsに繋がる様々な取り組みを紹介しており、今回は三菱UFJ信託銀行によるESG投資が紹介された。お金とSDGsというと、あまり関連性がないようにも思えるが、実は「お金で社会、環境を変えられる」という面は無視できない重要な側面であると、蟹江教授は強調する。そんな深い関係性にある「SDGsと投資」を見ていく上で、まず剛力さんは「簡単にアセットマネジメントとは何か教えてください」と、アセットマネジメント事業部に所属する加藤さんに問い掛けた。
加藤 「一言で申し上げると『運用』ですね。もう少し具体的にお話しすると、お客様からお預かりしたお金を私たちが代わりに投資家として株式、債券、不動産などに投資をさせていただくということです」
蟹江 「お金を預け、それを増やしたりしてくれる人ということですね」
剛力 「私はお金のことがすごく苦手で、基本母に託してきているくらいです。ついに、ここを勉強する時が来たかとワクワクしています」
蟹江 「若い人でも、最近は投資に関心を持っている人が多くなっていますよね」
剛力 「ただ、SDGsと信託銀行というところが自分の中でリンクしないのですが、ESG投資というものを知っている方は多いのですか」
蟹江 「聞いたことがある人は少ないんじゃないですかね、恐らく」
剛力 「SDGsに語感が似ている雰囲気もありますが・・・」
ESG投資とは、従来のような財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資を指し、企業の新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとしてSDGsと合わせて注目されている。
加藤 「例えば、環境で言いますとCO2排出量削減が出来ているかどうか。社会で言いますと、安全で働きやすい環境になっているかどうか。ガバナンスなら取締役会の構成など。昔からの運用は決算、業績が良いのかを中心に見ていましたが、ESG投資は伝統的な運用より幅広い情報を踏まえて投資したい企業様を決めていくものです。情報が幅広くなればなるほど、その企業にどんなリスクがあるのか、どんなビジネスチャンスがあるのか、リスク・リターンの視野が広がります。その中で投資したい企業様を決めていくということです」
蟹江 「環境に良いことをしている会社に投資しようとか、ジェンダーにきちんと配慮しているところに投資しようとか、そういうことをやるのがESG投資ですね。要はお金儲けだけじゃ駄目だということです」
剛力 「投資される側の会社もSDGsに、どれだけ意識を持っているかが大切になってくるということですね」
蟹江 「例えば、一生懸命投資した会社がプラスチックをたくさん使っていたら、そこの会社に投資していくことが今後、無駄になるかもしれない。価値が落ちていくわけですよね。そうした環境への影響まで考えてお金を入れていくことが大事になってくる。SDGsが大事になってきている世の中では、ある意味当たり前だけれども、その流れが今始まっているということですね」
剛力 「三菱UFJ信託銀行は、業界に先駆けてESG投資の取り組みを開始したということですが、いつ頃、どういったきっかけで始まったのですか」
加藤 「ESG投資は、2006年に国連が責任投資原則(PRI=投資分析と意思決定プロセスなどにESG視点を反映させるべきとしたガイドライン)を提唱したことを機に、世界的に広く知られるようになりました。当時の私どもの社長が、まさにESG投資は重要だと、環境・社会・ガバナンスを考慮しながらリターンを上げていくことが今後、重要になると考え、アジアの運用機関を代表して、同年5月にパリの証券取引所で行われた署名式典で『アジアをリードするフロントランナーになりたい』とコメントさせていただきました。そこから取り組みを加速してきたという流れです。ここ数年で非常に関心が高まっていることを肌感覚でも感じています」
特に、2008年のリーマンショックにおいて短期的なリターンを追求する投資家の姿勢に批判が集まったことなどを背景に、PRIに署名する投資機関が増加。今では全世界で3600を超える機関が名を連ねているという。
蟹江 「それだけ社会・環境の状況が悪くなっているということかもしれないですね。先を考えてお金も運用していかないと、逆にリスクが高くなっていることに気付き始めたということかもしれません」
剛力 「日本では、ESG投資はどれくらい増えているんですか」
加藤 「2016年と18年を比較すると、日本のESG投資の残高は約3.6倍(約240兆円)に増えています。世界との比較では1位はヨーロッパ、2位はアメリカ、3位が日本ですが、伸び率では圧倒的に高い。それだけ関心が高まっている状況と理解しています。最近、多いお問い合わせは、どのように情報開示をしていくと、投資家が求めている情報になるのかというものです。投資家目線では、どういう情報が欲しいのか、プラス投資家としてはこういうことをやってもらいたいということも企業様とお話をさせていただきながら、WIN-WINの関係を築けるようトライしているところです」
蟹江 「例えば、ESGの投資基準から見て小さな会社でも頑張っているところはあると思うのですが、そうした会社に投資したい時はどうすれば良いのでしょう」
加藤 「ESGを考慮した投資は国内の上場株式だけではなくて、まだ上場まで至っていない小さな企業様、プライベートエクイティーと呼んだりしていますが、そうした企業様への投資に関してもESGを考慮して投資判断をしようという流れになっています。世の中の流れとしては債権、不動産でもESGを考慮しようという幅の広がりも出てきています」
蟹江 「環境や社会にサスティナブル(持続可能)な取り組みをやって、それが分かるように発信していくと、投資家も振り向いてくれ始めるということですね」
加藤 「先生のおっしゃられるように、投資家目線になると情報開示は大事です。せっかくやられている取り組みを教えていただかないと分からない。分からないイコール、高い評価が難しい。ぜひ、やっていらっしゃることを積極的に教えていただきたいなと思っています」
蟹江 「お金で社会を変えていけるということの好例ですね」
剛力 「例えば、どういったところで評価をしていくんですか」
加藤 「海外に工場を建てたい、その目的は生産量を増やして、売り上げを増やしたいということだとします。ESG投資の視点から言うと、工場を建てる敷地が森林の中にあったら、森林保全、環境保全はしっかりとやっているのか。工場の周りの村の方の雇用を増やすことにつながっているのか。そうしたところが評価の対象になります。従来は、効率的に生産量の増加、売り上げの増加につながって業績が良くなるかを見ていたと思います。もちろん、今もそれは見るのですが、環境保全、雇用への貢献など、同じ企業を幅広い視点で評価して、企業の評価をしていこうということです」
剛力 「それはすごく大事なことですね。まさに、SDGsとつながっています」
蟹江 「投資というと、お金の価値でしたが、お金じゃない会社の価値もたくさんあるじゃないですか。社会に良いことをやっているだとか、工場を建てるときのこととか、そういったことを考えていくことで、社会の中の会社の位置付けであるとか、社会とともに歩んでいく会社の姿が明らかになってくる。ESG投資では、そこを評価していこうということですね」
一方で、様々な企業がSDGsを掲げるようになった中でも、2021年6月に公開されたSDGsの達成度・進捗状況に関する国際レポート「Sustainable Development Report 2021(持続可能な開発レポート)」では、日本のSDGs貢献度は世界3位の経済大国でありながら18位と位置付けられているという現実がある。また、目標に取り組んでいるように見せているにもかかわらず、実態が伴っていない、いわゆる「SDGsウォッシュ」の問題も出てきている。そうした状況、課題を踏まえて、剛力さんは「課題や問題点は?」と率直に問い掛けた。
加藤 「非常に大切なご質問だと思います。一言で申しますと、情報開示が大切かと思っています。例えば、ある海外の投資家様と、ある企業様でディスカッションした際、ミーティングが終わった後に海外の投資家様に『この企業さん、こんなことまで考えて、こんなことまでやっているんだ。ミーティングして良かった』と言われたことがあります。英語では情報開示されていなかったことによる一つの事例なのですが、まさに開示することで評価につながるということ。ぜひ、情報開示を積極的にしていただいて、いろいろ教えていただくことでWIN-WINになるのではないかと思います」
剛力 「情報の正確性の見抜き方というのはあるのでしょうか」
加藤 「公開情報は真実だろうなと判断できます。あとは、実際に企業の中の方々とお話をさせていただいたり、社長をはじめとした役員の方のお話を聞いたり、いろいろな方からお話を聞くことです。公開情報をベースにお伺いすることで、点が線になって、ストーリーになってくる。そういった見地で評価をさせていただいています」
蟹江 「あとは、数字で出てくるものはベースになってきますよね。例えば、温室効果ガスをどれくらい削減したかとか。数字があって、その肉付けをインタビューなどでしていくということですよね。他にも、気になることはいろいろとあります。日本は経済大国3位なのに、SDGsの貢献度評価が18位。評価は経済に加えて、社会、環境のサステナビリティーの評価なので、経済が3位ということは、18位にしている要因は社会と環境にあるということです。それが、あまりにも悪いので、下に下がっている。そこを頑張らないといけないというのが、この結果からも分かると思うんです。表現することを割と日本人は遠慮しがちじゃないですか。遠慮しないで出していく、テストなんかでも書かないと丸をもらえないように、評価してもらうためにはちゃんと表現をしていかないといけない。そこが弱いというところもあると思います。そうしないと過小評価されてしまう。そこは出し過ぎくらい出していくことが大事じゃないかなと思います」
剛力 「その辺は、若い世代は慣れてきているかもしれません」
蟹江 「そうですね。ただ、慣れてきているけど、若いときや学生の時に出していたものが、就職するとなぜか萎んでしまう人が多い。やはり、何か社会の中に入ることで、自分を出せなくなってしまう人が多くなると思うのですが、むしろ自分のほうに社会を引き付けてくるとか、そういう意味での図々しさは大事。今の若い子たちには、そこを期待したいですね」
最後に、剛力さんはSDGsの達成年として掲げられている2030年に向けた提言を聞いた。
加藤 「私どもとしましては、安心豊かな社会の創出に向けて頑張っていきたいと思っています。そのためには、いかにESGだとかSDGsが身近なものなのか、それを多くの方々にお判りいただきたいと思っています。投資家としてのやり方はこうです、その目的はこういうことです、というお話をより幅広くさせていただくことが重要だと思っておりまして、皆さんの期待をいかに実現していくか、不安をいかに取り除いていくか、責任ある投資家の一人として、一社として、そういった形で安心豊かな社会の創出に貢献出来たらなと思っているところでございます」
剛力 「ここに一人、また身近に感じた人間もいます。より深く勉強しようと思いました。そう簡単にはいかないことだとも思いますが、これから自分が会社をどうしていきたいかという視点で見られたら楽しいし、ワクワクするし、夢がある、希望がある気がします。ESG投資というものを知られたのは、すごくうれしいですし、信託銀行というワードもすごく身近に感じました。これは、私が会社を始めたからかもしれませんし、これから社会に出ていく人たちの会社選びにおいても大事なことだと思います。自分が個人資産を運用するにしたって、どういう会社があるのか見られるというのは面白いし、良い世の中になりそうだなという感覚があります。とてもざっくりしていますけど、勉強したいものが増えてすごくうれしくなりました」
剛力さんも、2020年夏に個人事務所「Shortcut」を立ち上げ、会社のかじ取りを求められる立場になったところ。そうした自身の新たなステップともシンクロし、ESG投資という一つのSDGsへの貢献の仕方が、より身近な“自分ごと”として刺さった様子だった。