建築家永山祐子がドバイ万博にほん館のファサードをリサイクルする大阪・関西万博のウーマンパビリオンとは?
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2025年4月の大阪・関西万博まで、あと440日を切りました(1月28日時点で440日)。建築資材や人件費の高騰や、大屋根建築費用の追加、建設工事の大幅な遅れなどが問題化したうえ、能登半島地震の発生などもあり、開催に疑問の声も上がっています。ですが、新たな技術や商品が生まれたり、地球規模のさまざまな課題に取り組むためのきっかけになるのも事実、経済的にも社会的にも文化的にも重要なイベントです。大阪・関西万博でも、「持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献」と、「日本の国家戦略Society5.0の実現」(*)を大きな課題に掲げ、「SDGsを2030年までに達成するためのプラットフォームになります」を目指そうとしています。
*Society5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会を指す
そんな中、気候変動対策となるリユース・リサイクルや、ジェンダー平等・女性のエンパワーメントなどのサステナビリティを推進する、ある取り組みに注目が集まっています。リシュモングループ傘下のフランス発の高級宝飾ブランド「カルティエ」が内閣府、経済産業省、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が協力して出展し、永山祐子さん(永山祐子建設設計)が建築設計する「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」です。
「When women thrive, humanity thrives ~ともに⽣き、ともに輝く未来へ~」をコンセプトに掲げ、すべての人々が真に平等に生き、尊敬し合い、共に歩みながら、それぞれの能力を発揮できる世界をつくるきっかけを生みだすことを目指しています。世界中の女性に寄り添い、女性たちの体験や視点を通して、公平で持続可能な未来を志すことを来場者に呼びかけていくことになります。
リード アーキテクトとして永山さんが建築設計するパビリオンは、日本の折り紙を表現した3次元の立体格子が特徴のデザインになっています。これは、彼女が手がけた2021年10月からのドバイ万博の日本館ファサードを再利用して構築するものです。日本館の企画当初からリユースしたいと考えていたものの、会期終了後の建材の所有者は国。払い下げされたものを入札で落札する必要があったほか、運搬や保管などのコストもかかるなど、課題が山積していました。そんな中で2021年のはじめに、ドバイ万博にウーマンズパビリオンを出展予定だったカルティエジャパンの宮地純社長と出会い、意気投合したそうです。
「もともと、『リユース・リサイクル』と『女性活躍』の課題に興味がありました。アラブ首長国連邦(UAE)の隣国サウジアラビアで、女性の自動車の運転が可能になったと話題になり、中東ではこれからますます女性の活躍が期待されるというタイミングでした。しかも、ジェンダーギャップ指数ではUAEが120位、日本はその下の121位と、日本でも女性活躍は大きな課題でした。建築業界も圧倒的に男性社会で、同じ課題を持っていました」(永山さん)。
スチールを“と鉄”にリサイクルして使用する方法もあるのですが、「一番サステナブルなのは、いいものを長く使うこと、リユースすることですよね。リサイクルして、別の形にするのはその次の手段です。だから、『長く愛される愛着の生まれるもの』『フレキシビリティがあり転用できるもの』を作ることが、私にとっては最大のサステナブル。それを今回実現できることにワクワクしています」(永山さん)。
このサーキュラー(循環型)の取り組みに向けて、永山さんが協力を仰いだのがドバイ万博日本館の施工・解体を担当した大林組と、英国のエンジニアリング&コンサルティング会社Arupの日本法人オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッドです。とくに使用期間が短いパビリオンでは、設計施工時の温室効果ガス(GHG)排出量のうち、約80%が建設資材製造時と極めて高くなってしまいます。ファサードのリユースだけでなく、リユース素材や低炭素型素材の活用などを行い、通常の建設資材の使用時に比べて、CO2排出量の約50%削減を実現しようとしています。
大阪・関西万博の開幕は2025年4月。サステナビリティの実現を、技術と情熱で成し遂げようとしている「ウーマンズパビリオン」は必見ですね。
執筆/フリーライター 松下久美(kumicom)