“SDGs”と“企業”をもっと近づける!SDGs MAGAGINE

インティマシーコーディネーター浅田智穂さんに聞く 作品づくりにおける「新たな仕事」の意義と重要性 ~前編~

インティマシーコーディネーター浅田智穂さんに聞く 作品づくりにおける「新たな仕事」の意義と重要性 ~前編~

#RADIO
  • ジェンダー平等を実現しよう

パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。6月2日の放送では、「インティマシーコーディネーター」の仕事に注目した。映画でのヌードシーンや性的な描写などにおいて制作サイドと俳優との間に入り、俳優が納得・同意して挑めるように橋渡しをする役割を担う仕事で、SDGsの観点では目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にも繋がるもの。今回は、日本ではまだ数少ないインティマシーコーディネーターとして活躍する浅田智穂さんをゲストに招き、話を聞いた。

インティマシーコーディネーターの役割とは

前回の放送では、「今ない仕事」をテーマに“仕事”や“働くこと”について考えたが、今回は少し前まで、まさに「今ない仕事」だったインティマシーコーディネーターという仕事をピックアップ。浅田智穂さんに話を聞き、その仕事の中身や意義について掘り下げた。

新内 「今日はこの方にお話を伺います。インティマシーコーディネーターの浅田智穂さんです。よろしくお願いします」

浅田 「よろしくお願いします」

【浅田智穂さんプロフィール】
1998年、ノースカロライナ州立芸術大学を卒業。2003年、東京国際映画祭で審査員付き通訳をしたことをきっかけに映画業界と深く関わるようになる。通訳として映画や舞台の現場に参加し、20年に「Intimacy Professionals Association(インティマシー・プロフェッショナルズ・アソシエーション)」にてインティマシーコーディネーター養成プログラムを修了。Netflix映画「彼女」において、日本初のインティマシーコーディネーターとして作品に参加した。以降も数々の映画やドラマに携わる。

新内 「まずは、皆さんも聞き馴染みがないであろうインティマシーコーディネーターというお仕事ですけども、改めてどういったお仕事なのか伺えますか」

浅田 「一言で申し上げますと、映像製作において、ヌードであったり性的な描写があったりする時に、俳優の皆さんが身体的にも精神的にも安心・安全に演じることができて、かつ監督の持っているビジョンを最大限実現するためにコーディネートをするスタッフです」

新内 「すごく難しくないですか」

浅田 「そうですね。たぶん、映画をよく観る方でしたらアクションコーディネーターにとても近い仕事なのかなと思います。アクション映画などで、監督がこういうアクションシーンにしたい、ここで殴られて、血が出て、倒れてっていうのが頭の中にあって、それを現実的にどうすれば安全に、そしてリアルに見せられるかっていうのを、アクションコーディネーターの方は考えられると思うんですけども、私も同じようなことをしています。プラス、皆さんが強制されることがないように、しっかり事前に同意を得るということを大事にしています」

新内 「私はそんなに映画とかに出演したことがないですけども、そういう方がいらっしゃるっていうだけで、本当に心理的安全性といいますか、もうめちゃくちゃやりやすくなるのではないかなと思います」

浅田 「あ、本当ですか? そう言っていただけるとすごくうれしいです」

新内 「そもそも『インティマシー』というのは、英語で『親密さ』や『愛情行為』という意味ですが、映画業界ではヌードシーンや性的な描写で密着したり、肌を見せたりするシーンのことを指しているんですね」

浅田 「そうですね。あとは、それこそシャワーシーンとか、着替えのシーンとか、いろいろありますけれども」

新内 「それって現場で行われるっていうよりも、その前段階で、頭の中にあるものを映像化するにあたって、どうやっていくかっていうのを話し合う場にいらっしゃるっていうことですか」

浅田 「そうですね。今、『頭の中』って仰ったんですけど、まさにそれなんです。台本を読んだ時に、例えば『2人は愛を確かめ合った』って書いてあったら、想像することは皆さん何となく大人の方であれば分かると思うんですけども」

新内 「はい」

浅田 「でも、今思い描いていることって皆さん違うと思うんですね」

新内 「なるほど!」

浅田 「『愛を確かめ合った』…たぶん、ああいった行為だろう。でも、服を着ているのか着ていないのか、どこを触っているのか、その最中のどの辺りなのかっていうのは全く書かれていないと、監督、俳優、スタッフ、全員がきっと思い描くことって違うと思うんですね」

新内 「確かに」

浅田 「それで当日を迎えてしまうと…」

新内 「危険ですね」

浅田 「こんなことだったんだ、こんなに激しかったんだ、とか。そうなってしまわないように、台本にそういったことがありましたら、監督に『これ、どういった描写ですか?』とお伺いして、細かく聞いたことを今度、俳優の皆さんと確認をして、同意を得たことしか当日しない」

新内 「でも、分かります! 確かに、アクション監督っぽいですね」

浅田 「そうですね。で、それこそ、キスをするシーンにしたって、本当にキスにもいろんな種類がある。プラス、キスの時って唇と唇だけが触れているってことはまずないんです。それって何か小鳥みたいになっちゃうんですよね。絶対に身体はくっついている。その2人の関係性によって、近寄り方がやっぱり違うんです。そういったことも確認して、当日を迎えるようにしています」

新内 「一瞬聞くと『えっ、どういうことやっているの?』っていう仕事ですけど、ちゃんと聞くと『あっ、そういうことか』って納得できます」

浅田 「あっ、良かったです」

高まる需要と日本の現状

新内 「浅田さんは、2020年に養成プログラムを修了されたということなんですけども、このインティマシーコーディネーターの養成プログラムというものが、そもそもあるということなんですね」

浅田 「そうなんです。欧米ですと、わりとたくさんあるんですけども、その中で『SAG-AFTRA(全米映画俳優組合)』が認めている団体が、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアで10団体くらいあるんですけども、その一つが私が資格を取った『Intimacy Professionals Association (インティマシー・プロフェッショナルズ・アソシエーション)』というところです」

新内 「それを2020年に」

浅田 「そうです。そこでトレーニングを受けて、資格をもって今、仕事をしています」

日本初のインティマシーコーディネーターとして活躍する浅田さん。日本で資格を持って、この肩書で活動するのは、まだ2人ほどしかいないのだという。

新内 「インティマシーコーディネーターというのは、いつ始まったんですか」

浅田 「初めて映像でクレジットされたのが、『HBO』というスタジオの、『The Deuce』という番組だといわれているのですが、インティマシーコーディネーターっていうのは基本、映像業界の仕事で、舞台、演劇業界にはインティマシーディレクターという職業が、そもそもあったんです。その職業が映像になった時に、名前が変わってインティマシーコーディネーターになったといわれています」

新内 「そもそもインティマシーコーディネーターになろうと志したきっかけみたいなのはあったんですか」

浅田 「私、実は自分でなろうと思ったわけではなくて、2020年の春にNetflixの友人から連絡をいただいて、『インティマシーコーディネーターって知ってる? なってみない?』って言われたのがきっかけなんです」

新内 「あっ、すごい」

浅田 「はい。私が今まで英語と日本語の通訳として、映像であったり舞台でずっと仕事をしている中、合作に関わったりして、映像、映画の現場をよく知っていたんです。で、この職業をしっかりやっていくためには、まずトレーニングが英語だったっていうことと、映像業界の経験がないと資格が取れなかったので、それで声を掛けていただいたんです。その時は40代前半でした。そんなご連絡いただけると思っていなかったので、ちょっとびっくりしたんですけれども、いろいろと考えて今に至ります(笑)」

新内 「インティマシーコーディネーターとして、Netflix映画『彼女』という作品にも参加されているんですよね」

浅田 「そうです。そもそも、この映画で水原希子さんが『インティマシーコーディネーターを入れたい』という希望と、Netflixそのものがインティマシーコーディネーターというものを業界でしっかり根付かせたいというのがあったので、それで声が掛かりました」

新内 「どういった感じで参加されたんですか」

浅田 「本当に、この職業が知られていなかったことと、これはどの業界でも同じだと思うんですけれども、新しいポジションが増えるって、やっぱりやりづらくなってしまったりとか、対応できないこととかもあったりするんですけれども、その中でどうにか1本やったっていう感じですね(笑)」

新内 「全員が手探りみたいな感じですか」

浅田 「はい、その通りですね」

新内 「以降も、是枝裕和監督の映画『怪物』やNHKドラマ『大奥』などの作品でもインティマシーコーディネーターを務められたということですが、結構需要が高まっているなっていう体感みたいなのはあったりしますか」

浅田 「確実に需要は高まっていて、私が本当にもう余裕がなくなってしまっています」

新内 「大変! お忙しい!!」

浅田 「そうですね。すごくありがたいんですけれども、増えていることは事実です」

新内 「『怪物』を観させていただいたんですけど、性的描写のシーンはそんなに…」

浅田 「『怪物』に関しては、ちょっと通常とは変わった入り方といいますか、2人の少年がキャスティングされた時はまだ小学生だったので、思春期の年代の男の子に、どういった身体の変化が起こるかということをしっかり勉強していただいて、それから撮影に臨もうという、そういう方法がとられていたので、LGBTQの勉強や性教育というものをしっかり2人に受けてもらうようなコーディネートをしたりしました」

新内 「そういうことですか」

浅田 「はい。『怪物』においては、そういうお仕事をさせていただきました」

新内 「本当に幅広いですね」

浅田 「これはすごく日本ならではというか、先程申し上げた『SAG-AFTRA』というアメリカの団体は、すごくルールが厳しくて、インティマシーコーディネーターに関しても仕事内容がしっかりと決まっているんですね。ただ、日本には何もルールがないので、わりと何でも私でできることであればやらせていただこうというような形で、いつも関わらせていただいています」

新内 「『怪物』を観た後に、いろんな方のインタビューを見ていて、本当に大切につくられているんだなっていうのが分かる作品でした」

浅田 「本当に素晴らしい作品だと思います」

新内 「本当に素敵な作品で、これにプラス、いろいろなバックボーンがあってつくられた作品となると、そういう作品って評価されるべきだし、いろいろな方に知ってほしいなって今、改めて思いましたね」

浅田 「ちょっと変わった入り方になったのも、やっぱり是枝監督であったり、プロデューサーであったり、そういった方々がすごく意識を高く持たれていて、インティマシーコーディネーターを入れて、少しでもキャストを守りつつ、いい作品にしていこうという気持ちがすごく強かったからだと思います」

新内 「そうですよね。それこそキャスティングされた時に小学生ぐらいとかだと、自分が小学生ぐらいの時に、そういう作品に取り組もうってなったら、右も左も分からなかったりしますし、どういう感情が出てくるかって本当に分からないので、そういう体制がしっかりしているってなると、観ている方も安心感につながりますね」

浅田 「はい」

新内 「先程、『ルールがない』って仰っていた部分で、それこそニュアンスの違いとか、演者側と制作さん側の意見を汲み取るっていう能力もすごく大変だと思うんです。本当に監督が撮りたい画があって、結構インパクトが強いシーンを求められちゃったりとか、そういうこともありそうなイメージがあるんですけども、実際、間に入るっていうのは大変だったりするんですか」

浅田 「そうですね。作品、監督、俳優の皆さんによるんですけども、インパクトが強いシーンっていう意味でいくと、監督がやりたいことを俳優がやりたければ、それはもう何の問題もないんですね」

新内 「確かに」

浅田 「私の方で『これは、ちょっと』みたいなことは全然ないので、しっかりとそこの同意が得られていれば問題はないんです。ただ、今の日本の映像業界では、やはりその昔気質の考え方の方だったり、自分の作品を検閲されているとか、邪魔されていると思う方もいらっしゃったりするので、そういう方々に私の仕事を理解していただくっていうのは、難しい時もあります」

新内 「そうですよね。作品に対しての思いが強かったりすると難しいのかなって思います。でも、インティマシーコーディネーターの方が増えていって、認知度が上がっていけば、それこそきっと風向きが変わってくるのかなと思うんです」

浅田 「はい」

新内 「今週は、ここまでということで。すみません、いろいろとお話を伺いすぎて」

浅田 「とんでもないです」

新内 「来週も、引き続き浅田さんにお話を伺っていきたいと思います! 次回もよろしくお願いします!」

浅田 「よろしくお願いします」

今回、インティマシーコーディネーターという仕事について浅田さんに話を聞いてきた中で、新内さんは「私も少なからずこういうお仕事をしていて、映像作品とかではないんですけども、本当に自分が消化しきれていないものが世に出るって負担なんですよ、心に。取り消せないので、世に出てからじゃ遅いんです」と、自分事として響いた部分があったことを吐露。「だからこそ、こういうインティマシーコーディネーターさんがいて、いったん自分の思いを吐き出せたり、自分を一回客観的に見た時にこういうアクションをしたいなっていうものの相談ができる、話し合いができたりするお仕事があるっていうのは、演者側だけじゃなく、スタッフさん側としてもすごく大事だし、意義があるなと思います。しかも、ちゃんと言いやすい環境を整えてくれたりとか、ちゃんと汲み取ったりしようとしてくれる。それって、本当に作品づくりにおいて大事なことだと思います。何度も言うけど、世に出てからじゃ遅い。その作品を観る度に思うことがあると嫌じゃないですか。そういう時に、すごく味方でいてくれる存在なんだなって思いましたし、これからどんどん増えていってほしい」と切実な思いを明かした。

前回の放送では、「今ない仕事」をポジティブに捉えることの意味を学んだが、まさにこのインティマシーコーディネーターがその好例。「『今ない仕事』だったものが、『ある仕事』になっていって、増えていったらいいなと思いました」と、新内さんは言葉に力を込めた。

(後編につづく)

アバター画像

WRITTEN BYSDGs MAGAZINE

カテゴリーの新着記事

新着記事

Page Top