フリーアナウンサー・赤平大さんに聞く「発達障害とSDGs」 ~前編~
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パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。6月23日の放送では、フリーアナウンサーの赤平大さんを招き、「発達障害とSDGs」について考えた。目標4「質の高い教育をみんなに」に繋がるテーマを深掘りするべく、まずは「発達障害」の基本から学んだ。
100回目の放送で学ぶのは「発達障害」について
2020年6月に産声を上げたニッポン放送のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』は、この日が100回目の放送。22年4月からパーソナリティを務める新内さんは「おめでとうございます。そして、ありがとうございます。ニッポン放送的にも持続可能な感じで、継続させていただいているので、本当にありがたい限りです。日曜日の昼時の放送ですけど、皆さんに耳を傾け続けていただけたらうれしいなと思っております」とリスナーに感謝した。
前回、前々回の放送ではインティマシーコーディネーターの浅田智穂さんをゲストに招いたが、新内さんの周辺でも反響が大きく、「思っていることが言いづらい時に間に入ってくれる人の存在は、いろいろなところに必要性がありそうっていう意見が私のもとにも届きました。前回の放送は、みんなが考えてくれるきっかけになったのかなと思ったりもしています」と、番組の意義を肌で感じた様子。「そんなきっかけづくりになるような番組にできたら」と、今後に向けた思いも口にした。
そして、今回のテーマは「発達障害とSDGs」。相手の立場に立って考え、理解することが求められる目標4「質の高い教育をみんなに」にも繋がる話題で、「発達障害」についてさまざまな取り組みを行っているフリーアナウンサーの赤平大さんをゲストに招き、話を聞いた。
新内 「よろしくお願いします」
赤平 「お願いします」
【赤平大さんプロフィール】
1978年9月13日生まれ、岩手・盛岡市出身。2001年4月にテレビ東京入社。スポーツ実況や報道番組まで幅広く担当し、09年3月に退社。同年4月からフリーアナウンサーとなり、現在は主にナレーション、WOWOWやJ SPORTSでラグビー、ボクシング、総合格闘技、フィギュアスケートなどの実況を担当。発達障害と高IQの息子の子育てをきっかけに発達障害学習支援シニアサポーター、発達障害コミュニケーション指導者などの資格を取得。発達障害動画メディア「incluvox(インクルボックス)」の運営にも携わっている。
新内 「もともとはテレビ東京のアナウンサーさんなんですね」
赤平 「そうなんです。8年くらいはいましたね、テレビ東京に」
新内 「どういった番組を担当されていたんですか」
赤平 「昔の話なので新内さんご存知がどうか…。『やりすぎコージー』っていう番組のナレーションをやっていました」
新内 「めっちゃ、懐かしい(笑)」
赤平 「それで、ナレーションって面白いなと思っていたというのがありまして。あとは、夕方の月曜日から金曜日のニュース番組で細々とメインキャスターをやっていました。視聴率1、2%ぐらいの…」
新内 「えーっ。細々とではないですね」
赤平 「振り向くと誰もいないテレビ東京において(笑)」
新内 「そこから退社されて、お子さんの子育てをきっかけに発達障害と向き合うことになり、猛勉強して、現在さまざまな取り組みを行っているとのことですが、今回は『発達障害とSDGs』にまつわるお話を伺っていきたいと思います」
そもそも「発達障害」とは
新内 「まず『発達障害』は、外見からは他の人に分かりづらい障害と言われています。リスナーの方の中にも『聞いたことはあるけど、正直よく分かっていない』という方もいるかと思いますので、改めてどういった障害なのか伺ってもよろしいでしょうか」
赤平 「新内さんがおっしゃった通り、『発達障害は目に見えない障害』ってよく言われます。一般的に言われるのが『ASD』と『ADHD』と『LD』っていう略称ですけれど、簡単にいうと『ASD』というのはこだわりがすごく人より強かったり、空気が読めなかったりとか、有名な方ですとイーロン・マスクさんが2、3年前にカミングアウトされています。『ADHD』というのは落ち着きがないとか、忘れっぽいとか。ただ、今言っているようなことって実はわれわれにもあるじゃないですか。それが過度、極端に頻発する状況だったりする。『LD』というのは学習障害で、これは『知的障害』とはまた別です。知的水準は一般レベルなんですけど、なぜか文字だけが読めないとか。有名な方ですとトム・クルーズさんが『LD』として有名です。台本を字で読んでいないらしいんですよ」
新内 「そうなんですか!?」
赤平 「びっくりしますけど、そう言われています。あと、これらはよく単独で持っていると思われがちなんですが、『私はADHDです』『私はLDです』ではなく、正確には今の3つがめちゃくちゃ混ざっている。むしろ単独の人の方が僕は見たことがないです。必ず混ざっています」
新内 「グラデーションみたいな」
赤平 「おっしゃる通りです。すごく私が言いたいことを先に受け取ってくれてうれしいんですけど、このグラデーションというのが非常にポイントで、こだわりが強いとか忘れっぽいって、どこで線引きをするんですかっていうのが難しい」
新内 「それぞれに、そういう特性を持っている方っていらっしゃいますもんね」
赤平 「いますよね。いわゆるグレーゾーンというのがあるんです」
新内 「はい」
赤平 「つまり、医者が『発達障害ですね、あなたは』っていうふうに診察上認定したら『発達障害』になります。ところが医者は認定していないけども、傾向が強い人っているんです。ここがグレーゾーン」
新内 「はい」
赤平 「もうちょっと言うと、そのグレードの人よりもこだわりはそこまで強くないし、忘れっぽさもあるけど薄いっていうことがある。そこが何かっていうと『健常者』です」
新内 「あー」
赤平 「何が言いたいかっていうと、実は『発達障害』から『健常者』って全部同じなんですよ」
新内 「明確な基準みたいなのがあまりないっていうことですか」
赤平 「『医者が診断する』っていう、そこはもちろん数値的なものも利用するんですけれども、それだけで『あなた、発達障害です』とはならないんです。総合的に見てA医者は『あなたは発達障害』って言うかもしれないけど、B医者は『あなたは違う』って言う可能性もある。それくらい曖昧なので分かりにくいし、目に見えにくいんです」
割合は学校に先生の“主観”
新内 「日常の中で、それこそ見た目では分からないですけども、日本だとどれぐらいの割合でいらっしゃるんですか」
赤平 「いわゆる『発達障害診断人口』ってことになると、実は統計が取れていないんです」
新内 「えっ!」
赤平 「よく新聞とかで何%…みたいなのがあるじゃないですか」
新内 「はい」
赤平 「あれ、何かというと文部科学省が取っているんです。ちょっと違和感がありませんか。病気とかのデータなのに厚生労働省じゃなく文部科学省。じゃあ、そのデータをどうやって取っているかというと、『自分のクラスに何人ぐらいいると思いますか』っていう学校の先生へのアンケート調査なんです」
新内 「えっ!? それ、先生の主観じゃないですか」
赤平 「その通りです。先生の主観です。だから先生の主観上『あの子とあの子とあの子で、うちのクラスは何人』みたいなアンケートデータを文科省が取りまとめて、それで6%だとか8%って言っているんです。なんでお医者様が診断出来ないかっていうと、発達障害の人全員が病院には来ないからです」
新内 「それはそうですよね」
赤平 「大丈夫だって思っている人がいっぱいいるし、困っていても親が連れていかないパターンもあります。だから、これは厚生労働省が悪いのではなくて、やっぱり(数値を)取りにくい」
新内 「う〜ん」
赤平 「そこで、一番リアルに近いことを誰が分かるかっていった時に学校の先生なんですよね。確かに」
新内 「そうですね」
赤平 「学校の先生は、通年で何学年も見てきて感覚的に一番正しいところを持っているはずなので。その数字も、海外のデータと照らし合わせると大体似ている」
新内 「そうなんですね」
文部科学省が22年12月13日に発表した調査では、小中学生の8.8%に発達障害の可能性があることが明らかになっている。
赤平 「なので、全然おかしくない数字と言われています。ただグレーゾーンを入れると、そこにさらに上乗せされて10%、20%になってくるという話です」
大事なのは理解すること
新内 「見極めづらいからこそ、数値化するのは難しいと思うんですけども、こういう症状がある方は実際どういったところで困っているんですか」
赤平 「これは、例えば新内さんが小学校の頃に、言うことを聞かない男子とかいませんでしたか」
新内 「いました」
赤平 「当たり前にいますよね」
新内 「はい」
赤平 「授業中にどこかに行っちゃう男子とか、掃除をしないとか、尋常じゃなく忘れ物をするとか、物の管理が全くできないとか」
新内 「はい」
赤平 「そういう子供たちって、もしかしたらそうだった可能性があると言われています。新内さんはお若いですけど、時代によって…僕は今45、6歳なんですけど、われわれの時代ってまだ発達障害っていう言葉がなかったんですよ」
新内 「そっかぁ」
赤平 「はい。だから、ただ落ち着きのない子、全然言うことを聞かない子だと。あと『空気を読めない』っていう言葉もなかったので、コミュニケーション・会話ができない子って言われていたりしました。つまり、困りごとっていうのは、今言った日常的に社会で生きていく上で必要な要素ができないっていうことですね。子供の頃だったらまだしも、今はよく言う大人の発達障害っていう言葉があるんです。仕事をしている最中に『あれ、もしかして私、発達障害かもしれない』っていう人が最近すごく増えている。なぜかっていうと、上司に言われたことが守れなかったり、何度も同じミスをくり返してしまったりする人っていて、その都度怒られるんですよ。『お前、何回言えば良いんだ』『新内、この前言っただろ』『新内、まだできないんだ』とか」
新内 「うんうん」
赤平 「でも、できないんですよ。頑張っているのにできない」
新内 「はい」
赤平 「日本人は『努力』という言葉が大好きで、『努力すればかなう』『やればできる』と言われる」
新内 「あ~」
赤平 「やればできる人ももちろんいます」
新内 「はい」
赤平 「ところが、発達障害の人はやってもできないんですよ」
新内 「これ、結構難しいですよね」
赤平 「はい」
新内 「上司からしても、部下の一人一人にそういう特性があるっていうのを理解する機会がない」
赤平 「ないですね」
新内 「知らないと、そこで摩擦が起きてしまったりもすると思うんです」
赤平 「はい。その通りです」
発達障害との向き合い方
新内 「解決じゃないですけど、どうやって向き合っていけばいいのかっていうのが、これからの課題だと思うんです。結構近年、ライトに言われていることが多いなっていうのを感じていて、そういうことにちゃんと向き合いたい自分と、どうやって理解したらいいか分からない自分がいる。理解という面ではどういうふうに向き合っていったらいいんですか」
赤平 「今、新内さんが仰ったのは“自称発達障害問題”っていうゾーンになってくるんですけど、これは本当に『良し悪し』があるんです」
新内 「うーん」
赤平 「まず、分かりやすい『悪し』から言うと、恐らくそういう『自称発達障害』の多くの方はインターネットの簡易検査的なものを見ているんですね。『チェックリストの中で7個当てはまったあなたは発達障害です』みたいな…」
新内 「はい、はい」
赤平 「これは、医学的にも学術的にも全く認められていないんです。あくまでも簡易リストでしかない。だけど、これだけのSNS文化になると、みんなやるじゃないですか」
新内 「そうですね」
赤平 「で、『私、発達障害だったんだ』って。逆にこれにも『良い』部分が2つあります。まず一つは、発達障害の存在を知ってもらえること」
新内 「あ〜」
赤平 「きっかけにはなるんですよ。全然知らないよりは知ってほしいので、支援者、当事者側としてもありがたいんです」
新内 「うんうん」
赤平 「ところが、誤解を招くリスクもある」
新内 「そうですね」
赤平 「もう一個、本当に発達障害の人が簡易チェックをやって当てはまった場合、どうなるかっていうと、多分お医者様に診てもらっても発達障害の診断が出るんですよ」
新内 「はい」
赤平 「こういう方々って何が苦しいかというと、先ほども言ったように『分かっているのにできない』『合わせたいのに合わせられない』。人間関係で苦しんでいる大人が多いんです」
新内 「うんうん」
赤平 「そうすると『発達障害です』っていうレッテルをもらえることで、これが免罪符的になって、心の精神的な安心要素になるんです」
新内 「あ〜」
赤平 「『できないのは私のせいじゃないんだ』と。『もともと持っていた障害のせいだったんだ、良かった』ってなる人も圧倒的に多いんです」
新内 「はい」
赤平 「なので、決してその簡易チェックが悪いとも言い切れない。触れてもらうことで、知ってもらえるっていうメリットもあるので」
新内 「そうですよね。病院に行くきっかけになることもありますし」
赤平 「その通りですね」
新内 「知る機会にもなるってことですもんね」
赤平 「まず入り口に立ってドアをノックしてくれないと開かないので」
新内 「そうですよね」
赤平 「みんなスルーしちゃう。ドアの前で」
まず、発達障害の基本を赤平さんから学んだ新内さんは「やっぱり向き合い方が分からなかったり、周りにいるのに気付かなかったりっていうこともあると思うんです。でも、周りにいるかもしれないっていう目で、少しでも理解していけたら、また一歩前進するんじゃないかなと思います。こうやって発達障害のことを私自身も勉強できたので、これを機に、皆さんもぜひいろいろと調べて、改めて理解していただけるとうれしいなと思います」と、また新たな気付きを得たことを明かした。次回も引き続き赤平さんをゲストに招き、SDGs視点で発達障害について考えていく。
(後編につづく)