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真に持続可能な観光とは何か|まつりを「開催しない」という選択


この記事に該当する目標
8 働きがいも経済成長も 11 住み続けられるまちづくりを 16 平和と公正をすべての人に
真に持続可能な観光とは何か|まつりを「開催しない」という選択

例年春に開催されていた「新倉⼭浅間公園桜まつり」。2026年の今年は開催されないことが決まりました。

近年、国内外からの来訪者が急増し、受け⼊れの限界を超えたオーバーツーリズム(観光公害)が地域住⺠の⽣活環境に深刻な影響を及ぼしています。浅間公園のある山梨県富士吉田市は、 地域住⺠の安⼼安全な⽣活を守ることを最優先課題と位置づけ、 観光客の過度な集中を抑制し、地域住⺠の負担軽減を図るため、桜まつりを開催しないことを決めました。

想像以上に深刻なオーバーツーリズム

富⼠吉⽥市では、10年ほど前から、地域の魅⼒向上と交流⼈⼝の拡⼤を⽬的に「新倉⼭浅間公園桜まつり」を開催してきました。これにより国内外から多くの注⽬を集め、地域のにぎわい創出に⼀定の成果を上げています。

しかしながら近年、円安やSNSによる爆発的な認知拡⼤などにより、 訪⽇外国⼈観光客の急激な増加が予想を遥かに超え、特に桜の⾒頃には1⽇あたり1万人以上の来訪者が殺到する事態となっています。これに伴い、市内ではさまざまな問題が常態化し、想像を超えるようなトラブルがおきています。交通渋滞の慢性化だけでなく、トイレを借りるために観光客が⼀般⺠家のドアを無断で開け、敷地内へ不法侵⼊。また吸い殻の投棄や、民家の庭先での排泄⾏為、それを注意した住⺠に対して騒ぎ⽴てるなど言葉を失うほどの事案も。
さらに、多くの観光客が通学路の歩道に溢れ、児童が押し出されるように歩く状況が⽣じており、保護者や地域から安全⾯を懸念する切実な声があがっています。

イベント中止でも安全対策は継続

今年度は「新倉⼭浅間公園桜まつり」の開催はありませんが、それでも桜の開花時期には⼀定数の来訪者が⾒込まれます。市⺠の安全確保と混乱防⽌のため、周辺への警備員配置、交通整理、臨時駐⾞場や仮設トイレの設置等の安全対策は継続して行われます 。

富士吉田市は、来訪を検討している人たちに向け、周辺道路の激しい混雑を避けるため、公共交通機関の利⽤を勧めるとともに、住宅地への⽴ち⼊りや無断撮影などを行わないよう呼びかけています。

<対策強化期間>
2026 年 4 ⽉ 1 ⽇(⽔)から 17 ⽇(⾦)
※交通規制は 19 ⽇(⽇)まで実施

持続可能な観光都市に求められる転換のとき

今回の判断は、単なる中⽌ではなく、⼀時的・短期的な対応から中⻑期的な⽅向転換へ踏み出すための第⼀歩です。富士吉田市では現在、駐⾞禁⽌やポイ捨て禁⽌などマナー周知の看板をたてるなどの対策をしていますが、今後は関係機関や地域住民の意見を聞きながら市民の暮らしと観光が共存できる環境づくりを⽬指します。

過度な観光によって地域の生活環境が損なわれないよう配慮することは、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」を達成するうえで必要なことです。また、今後観光による経済効果と地域住民の健やかな暮らしの両立をしていくことができれば、目標8「働きがいも経済成長も」が求める、持続可能な消費や地域運営を実現することもできるでしょう。

富士吉田市の市⻑堀内 茂氏は、「富⼠吉⽥市にとって、富⼠⼭は単なる観光資源ではなく、私たちの⽣活そのものです。しかし今、その美しい景⾊の裏側で、市⺠の皆様の静かな暮らしが脅かされている現実に、強い危機感を抱いています。まずは市⺠の皆様の⽣活環境と尊厳を守り抜く。そのために、10年続いた『桜まつり』という看板を下ろす決断をしました。
これは富⼠吉⽥市が真に持続可能な、質の⾼い観光都市へと⽣まれ変わるための転換です。」と語っています。

観光業の盛り上がりは、地域を活性化し、新たな雇用を生み出し、そのまちの文化を広めるなど、良い点が多くあります。しかし、それを求めるあまり、そのまちに暮らす人の生活が脅かされるのであれば、それは持続可能な観光とは言えません。

本当に持続可能な観光を実現するために。富士吉田市の挑戦は続きます。


執筆/フリーライター Yuki Katagiri