「教育こそが、最も持続可能なサステナビリティ」――海外留学EFイーエフ初の女性代表が留学で見つけた、多様な価値観を分かち合う心
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3月8日は国際女性デーです。ジェンダー平等や女性のリーダーシップなど、誰もが平等に活躍できる持続可能な社会を目指すべく、国連によって制定されています。
そこで今回は、社会を動かす女性リーダーにフォーカスし、世界最大級の国際教育機関海外留学EFイー・エフ・エデュケーション・ファースト・ジャパンの代表、伊東グローニング七菜さんにお話をうかがいました。
伊東さんは、リテールやEコマースの最前線からサステナビリティ領域のスタートアップを経て、現在は語学教育・留学支援の現場に立っています。「持続可能な社会をつくるために、私たちは何を学ぶべきなのか?」という問いについて、自身の歩んできた多様なキャリアから見えた、教育が果たすべき本質的な役割などについてお話いただきました。
語学習得の先にある「分かち合う心」で世界を繋ぐ
―― 伊東さんは昨年、海外留学EF イーエフ代表に就任されましたが、それまではどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。
最初のキャリアは、Eコマースやリテールの仕事をしておりまして、マーチャンダイザーやアプリの立ち上げなどの業務に携わっていました。10年余り、そうやってモノを作って店頭やオンラインでどう売るか、という仕事をしていたのですが、コロナ禍で父を亡くし、社会全体でも様々な機会が失われる中で、自分自身を見つめなおす時間が増えました。大好きな沖縄の海に行ったときに、白化して真っ白になってしまったサンゴ礁を目の当たりにして、悲しい想いをしたことも、影響したと思います。平日は忙しく働き、週末に自然に触れると、環境の変化を肌で感じられました。。そうした時間を重ねる中で、自分の日常とのギャップを強く感じるようになり、その想いから次を決めずに仕事を辞めました。
―― 一度リセットして、どんな仕事をしたいのかを考えられたのですね。
仕事を辞めた後、サステナビリティ業界の方々と話す機会があったのですが、その中で、次に就職したレコテックの野崎衛代表の言葉がとても強く刺さりました。それは「次の世代にポジティブなインパクトを与える」という言葉です。そのインパクトを生むには、持続可能な社会のための「新しい仕組みづくり」、それを後押しする「ポリシーメイキング(政策形成)」、そして組織全体が理解し実装できるようにする「教育」という3つの要素が必要だ、という考え方でした。私も、この3つのどれかに携わりたいと思いました。 レコテックは「新しい仕組みづくり」に関わる仕事でとても刺激的でしたが、EFからお話をいただき、教育こそ最も持続性のあるサステナビリティな取り組みだと感じました。、教育は、一過性の施策ではなく、人の意思決定や行動を長期にわたって変えていく。だからこそ、教育の現場からポジティブなインパクトを生み出したいと思い、代表を務めることを決めました。 私自身、数回の留学経験があり、日本に拠点を置きつつ海外に行くことの大切さを大きく実感していることも、引き受けた理由のひとつです。
―― EFでは、教育についてどのようなポリシーを掲げていらっしゃるのでしょうか。
我々のミッションは「Opening the World through Education」:教育を通じて、世界を開く」というものです。世界150拠点にEFの事務所があり、そこから留学プログラム、短期・長期の語学留学、数年単位で海外校に全寮制で学ぶボーディングスクールなど、多くのプログラムを提供しています。旅やクロスカルチャーなコミュニケーションを通じて、多角的な価値観で物事を見ること、単なる語学の習得だけでなく、他文化の共感によって、最終的には互いを尊重し、分かち合える心を育てることを大切にしています。


―― EF Japanとしては、初めての女性代表とお聞きしました。女性リーダーとして、大切にしている判断軸はどのようなものでしょうか。
まず、女性リーダーだからといって「女性のためになること」だけをやるのは違うと感じています。女性であっても男性であっても、幅広く意見を汲み取って組織に反映させることが大事だと思っています。まだ就任から一年たっていないのでこれからではありますが、性別だけでなく、子どもの有無、介護の有無など個々の事情に関係なく、様々なライフステージでも良い仕事をすればそれをちゃんと認めるような組織にしたいです。実は、私には固定席がありません。入社以来、席のない代表として、シフト外のスタッフや、マネージャーの隣に座っています。そうすると、お客様との電話の内容や部署内の会話が自然と耳に入ってくる。私は、フロントラインに立っているスタッフや留学カウンセラーの意見をいかに取り入れられるかが大事だと思っています。現場の違和感やツールの不備を解決するのが私の仕事です。
―― 日本は諸外国と比較しても女性リーダー比率が低い傾向にありますが、ビジネスにおいてそれを感じられることはありますか。
EF 日本法人としては私が初の女性代表ということにはなりますが、世界のEF代表・カントリーマネージャーには女性がたくさんいます。特に大きなマーケットであるフランス、イタリア、日本は女性ですし、そういう意味では、男女のギャップを社内で感じることはありません。語学留学部門のプレジデントの Iris Hormann もお子さんが3人いる中でトップを務めています。日本の統計でも、そうした流れが加速していくと いいな、と思います。


“スーパーアウェイ”の中で自信を育んだ、シアトルでの原体験
―― 伊東さんご自身も留学されたことあるとのことですが、振り返ってみてどのようなご経験でしたか。
まず、私自身は小学6年まで日本で育ち、中学のタイミングでアメリカ・シアトルに移住しました。日本でもクラスで2番目に小さかったので、アメリカに行くともう周囲は2倍くらいのサイズ。メイクや服装も大人っぽく、私はなんて子どもっぽいのか、とカルチャーショックを受けました。日本では、少しおどけて笑いをとるような性格だったのが、言葉も通じない“スーパーアウェイ”な環境で委縮してしまいました。ただ、数学は日本のほうが2~3年先を行っていたので、特に優秀だったわけではないのですが、言葉ができなくても満点を取ることができました。先生からも評価され、飛び級させてもらえ、それが自信につながっていきましたね。日本と違って、得意なことならば高校生でも短大で学ぶことができるような自由さは素晴らしいところだと思います。
―― その後、学生の間にフランスやベトナムへの留学も経験されています。
フランス留学は、当時私が住んでいた島と姉妹都市になっているフランスの島があって、自分からフランスの協会に連絡してプログラムを提案しました。そしたら「20人希望者を集めたらプログラムをたちあげてあげる」と言われ、いろんな人に声をかけ人を集めて、交換留学を実現することができました。その当時のホストファミリーとは今でも交流があります。
ベトナムへは、ベトナム戦争について学んだあとに、何かしたい、と教授に伝えたら「We need to make money(資金を集めなさい)」とお題が出ました。ベトナムでは枯葉剤の影響で今も障害を持って生まれる子がおり、孤児院に入れられる現実があります。そうした孤児院への募金と、現地の歴史を学ぶプログラムを、必死にドネーションを集めて実現することができました。
―― ビジネススクールのころにはコペンハーゲンにも留学されていますね。
私はノルウェーのハーフなのですが、住んだことがなかったので、一番近いコペンハーゲンを選びました。当時からサステナビリティに興味があり、「Cradle to Cradle(ゆりかごからゆりかごへ)」のような社会福祉の原則を学びました。2011年の大学卒業時はリーマンショック後でそうしたポジションが少なく、こうした領域に興味はあったのですが、仕事にすることが難しかったですね。リテールやEコマースを経て、レコテックでようやくその仕事ができた時は嬉しかったです。
留学は自分に水を与える経験。自己を再定義し、また冒険へ
―― 留学など海外での経験で得られた価値観を言葉にすると、どのような言葉になりますか。
世界が近く感じられるようになりますし、「どこに行っても生きていける」という自信につながります。スマートフォンがなく迷子になっても、レストランで聞きながらなんとか帰る。そういう経験の積み重ねで恐怖心がなくなり、どんな背景の人とも会話ができるようになります。人生を楽しく生きるための自立心や問題解決能力、そして自分の可能性に気づけたことが大きいです。
ジャカルタに住んでいたこともありますが、その時はホテル2泊分のお金しか持たずに到着し、街を歩きながら住む場所を人に聞いて探しました。その時はまだ20代前半でしたが、バイクのお兄さんに毎朝朝食をご馳走する代わりに職場まで送ってもらうというシステムを「無料の交換条件」として作ったりしましたね。今振り返ると無謀ですが、父も18歳の時に片道航空券でアメリカにわたり、馬でメキシコを横断したような人だったので、その血を引いているのだと思います。
―― 留学の現場をご覧になられていて、特に印象に残っている出来事やエピソードはありますか。
もう、たくさんあります。中でも、特に印象深かったのは、Kさんというニューヨークに留学された方です。医療従事者20代の方で、メンタルの不調を抱えている中、日本での生きづらさを感じられていて、思い切って留学を決められていました。毎年、EF全体で世界中の代表が集まるイベントがあるのですが、Kさんがそのイベントで英語スピーチをしてくださいました。9か月の留学で、自分の人生がいかに変わり、自身がついたのか。自分という種に、留学という経験の中でたくさんの水を与えてくれて、いかに成長して花開いていくのか。それを英語で堂々とお話されていたのが、とても印象に残っています。今は帰国されていますが次はワーキングホリデーでカナダに行って、医療の事業に携わりながら、カナダの医療を自分の目で見て、日本に持ち帰りたいとお話されていたのが印象的です。
それ以外でも、本当にたくさんの人が、自分の価値観に気付いて、ほかの国でいろいろな体験をして、その経験を持って日本に帰りたいとお話してくださいます。自分の変化や成長を感じながら、また冒険に出ようという気持ちになってくれていることを、嬉しく思いますね。


留学の魅力は、自分の可能性を再定義できること
―― あらためて、教育とSDGsには、どのような本質的な繋がりがあるとお考えですか。
SDGsの達成において、環境問題や文化的多様性の理解に不可欠なのは「想像力」と「共感力」です。日本の語学教育は、往々にして「受験をパスするための正解」を求めるものになりがちですが、教育の本質はそこではありません。AIがソフトウェアエンジニアの仕事を代替し始めている今、求められるのは人間にしかできないコミュニケーションです。相手の宗教や生い立ち、自分とは全く異なる価値観をどう理解し、どう対話するか。
教育とは、単なる知識の習得ではなく、自分と異なる背景を持つ誰かと繋がり、自分なりの「世界との関わり方」を学ぶ場であるべきだと私たちは考えています。こうした異文化理解の積み重ねこそが、持続可能な社会を支える基盤になると信じています。


―― 教育の中でも、留学という選択肢で得られるものとは?
留学は、単に「語学を習得する」だけの場ではありません。一番の価値は、自分を違う環境に置くことで、自分の可能性を再定義できることです。育った環境とは違う場所で、トラブルを解決したり、誰かと心を通わせたりする経験を一度でもすると、人は自立心を持てるようになります。「日本で決められた自分」ではなく、世界のどこへ行っても自分の価値観で道を切り拓けるはず。
それに、これは個人的な想いですが、「世界中に友達がいれば、その国に爆弾を落とそうなんて思わない」はずです。その先にある「分かち合う心」や「地球との繋がり」を肌で感じることこそが、留学という選択肢がもたらす最大の価値だと信じています。
―― 最後に、若い世代へのメッセージをお願いします。
もし今、「このままでいいのかな、何かつまらないな」と感じているなら、勇気を出して一歩を踏み出してみてください。日本の中にいると、どうしても視点が限定的になりがちです。でも、海外に出て世界を知ることで、一本のレーンしかなかったところが枝分かれして「あ、この選択肢もあるな」と気づく。自分の可能性を信じて、常に価値観を更新し続けること。思考を停止させず、学びと挑戦を繰り返すことが、あなた自身の、そして持続可能な未来をつくる力になるはずです。
留学という体験を通じて育まれる「想像力」や「共感力」は、異なる価値観を分かち合い、平和な社会を築くための揺るぎない土台となります。
一人の意識が変わり、それが周囲へと波及していくポジティブな連鎖。それこそが、持続可能な未来をつくる確かな原動力なのではないでしょうか。
執筆/ライター:宮崎新之





