保険適用にならない“医療用”ウィッグの隠れた問題
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皆さんは、自分の髪を医療用ウィッグ製作のために寄付するヘアドネーションの活動についてご存知でしょうか。女性だけでなく、子どもや男性がヘアドネーションをした、といったニュースを一度は目や耳にした方もいらっしゃるかもしれません。では、その医療用ウィッグが、実は保険適用にならずに利用者の負担になっているということは知っていますか。これに限らず、保険適用されていないものは沢山あります。私たちにできることは何なのかを考えていきます。
4月には不妊治療が保険適用に
先日の記事でも取り上げましたが、この4月に、不妊治療の保険適用が拡大され、人工授精や体外受精も保険で受けられるようになりました。精神的、身体的、そして金銭的な負担が伴う不妊治療なだけに、これにより子どもを望む多くの夫婦が自分の希望する治療を選択できる環境になりました。
適用の対象には女性の年齢制限や体外受精の回数などの条件がありますし、出産そのものにかかる費用は実費負担で、少しすっきりしない部分も残ります。しかしこれまで光の当たってこなかった不妊の悩みに国が手を差し伸べてくれたことはとても大きな変化でした。
何が変わった?何で変わる?2022年4月に施行された法改正まとめ
なぜ保険適用されない?実費負担のあれこれ
生活の上で必要不可欠なものであるにも関わらず、保険が適用されず実費で支払っているものは多くあります。例えば、視力が下がったために使わざるを得ないコンタクトレンズや眼鏡。これらは治療ではなく視力の矯正を目的としているために保険が利きません。(ただし、9歳未満の小児弱視等治療向けのものは保険適用。)
冒頭に述べた医療用ウィッグも同様です。美容用途ではなく、がんや病気によって髪が抜けてしまったものをカバーするために使用しますが、治療に必要なものと見なされていないが故に保険適用外です。セミオーダーの小児用医療用ウィッグは安くても20万前後かかります。一方で松葉杖や補聴器、医療用コルセットなどは保険が適用され、その違いがいま一つピンときません。
これらの生活を送る上で必要不可欠である保険適用外のものは利用者の金銭的負担となり、中には使うのを我慢して不便な生活を送っている人達もいらっしゃるそうで、隠れた問題になっています。
当事者だけでなく周りが理解していくことが大切
不妊治療が保険適用になった理由は少子化対策などいくつかありますが、当事者や周りの人たちが声をあげ、理解を求めて思いを広げる活動を進めてきたことが大きく影響していると考えられます。ヘアドネーションという単語の認知は少しずつ広がってきました。しかし、需要の多い長い髪は不足していますし、それに対応している美容院も少なく、また、必要としている人の精神的・金銭的な負担にまで目が向けられていないのも事実です。そのためには、私たちが理解を深めて社会を動かしていくことが求められます。そしてさらには、もう一つ先の、髪の毛がないことを特別視しない、自分の意志でウィッグをつけないことを自由に選択できる理想的な社会づくりのために、一人ひとりが当たり前の壁をなくしていきたいものです。これらはSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標10「人や国の不平等をなくそう」に貢献し、自分らしく活躍できる社会の実現に繋がっていくはずです。
企業も動き始めた!医療用ウィッグプログラム
ヘアケアブランド「フィーノ」が、医療用ウィッグをとりまくすべての方をつなぐ社会貢献プログラム、【HAIR TOUCH YOU のばせば届く。】をはじめました。今まで届けたくても届きにくかった、ドネーションをした方々、レシピエント(受け取り手)、美容師や医療従事者の方々の想いを見える化し、360°つないでサポートしていく仕組みを作る新しい社会貢献のカタチです。
オリジナルのドネーションキットの無料配布や、興味関心がある方・医療用ウィッグに携わっている方との意見交換会やイベント、ヘアドネーション対応美容院の開拓など、あらゆる方面での活動を通して、医療用ウィッグの輪をつなげる取り組みです。ヘアドネーションの髪は多くが自分で発送する必要があります。このオリジナルキットを使えば、髪の毛のカットも発送も簡単に済ませることができ、指定の美容院に行かずとも髪を送ることができます。
画像出典:フィーノ 医療用ウィッグプログラム公式サイトより
できることから始めてみよう
ヘアドネーションで一番必要とされているのは31cmの長さです。ここまで髪を伸ばすのは根気もいりますし、男性などなかなか難しい方も多いかもしれません。しかしイベントに参加したり、見聞きし理解を深めたりするだけで、社会を見る目は変わっていき、そして社会が動きます。自分がいつ医療用ウィッグを使う側の立場になるかは分かりません。自分の子や親、配偶者が必要になるかもしれません。もし必要となったとき、このような活動の存在を知るだけで勇気がもらえ、治療の励みになる気がしませんか。このような活動を無駄にしないためにも、身近なところから取り組んでいきたいですね。