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日本の研究グループが昆虫を使って食品廃棄物の臭いを抑える技術を開発!


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1 貧困をなくそう
日本の研究グループが昆虫を使って食品廃棄物の臭いを抑える技術を開発!

アメリカミズアブ幼虫の腸内細菌叢を含んだ飼育残渣を食品廃棄物に加えることで、臭いを激減させる技術を、農研機構、東京大学、筑波大学の研究グループが開発しました。
食品廃棄物の処理時に発生する悪臭問題を解決するだけでなく、昆虫タンパク質の生産拡大への期待も高まります。

捨てられた食品の悪臭が1/7にまで激減

食べ残しや賞味期限切れの食材をみなさんはどのようにしていますか? 生ごみとしてコンポスト(生ごみ処理機)で肥料化している方も増えてきました。「食品廃棄物」を再利用する取り組みは進んできていますが、「有機廃棄物」を効果的かつ経済性のある資源回収技術はまだ十分に確立されていません。しかも、化石燃料を必要としないリサイクル技術はほとんどありません。

日本では、年間1億トンもの有機廃棄物が発生しています。世界においては、生産される食料のおよそ3分の1(約13億トン)が毎年消費されずに廃棄されています。1億トンというのは、家庭からだけでなく、食品の製造工程から大量に発生する野菜・果物のくずや醸造かす、発酵かす、魚・獣のあら、卵の殻などのほか、ふん尿・生活雑排水およびその処理過程で生じる汚泥なども含まれます。

食品ロスや焼却処理時の化石燃料使用の問題だけではありません。廃棄された食品からの「悪臭」という大きな問題があります。食品は、腐敗すると、二硫化メチルなどの強い刺激臭を持つ悪臭を発生します。この二硫化メチルは、悪臭防止法で特定悪臭物質として指定されています。

この腐敗した食品を好んで食べる昆虫がいます。それがハエの一種であるアメリカミズアブ(以下ミズアブ)の幼虫です。コンポストやかつてのぼっとん便所で発生するので、見たことがある人もいるのではないでしょうか。

左がアメリカミズアブの幼虫、右がサナギ(写真は農研機構提供)

この子たちを食品廃棄物の中で飼育すると、ミズアブを入れずに放置しただけのときに比べて、悪臭の原因となる二硫化メチルなどが最大7分の1にまで激減します。
農研機構、東京大学、筑波大学の研究グループは、生ゴミや糞尿をエサにできる「アメリカミズアブ」を食品廃棄物に加えることで、腐敗に伴い発生する悪臭が激減する技術を開発しました。

なぜ廃棄された食品が臭くならないの?

アメリカミズアブの幼虫は、初春になると卵から孵化(ふか)し、2週間ほどでサナギになります。卵から孵化した幼虫は、サナギになるまでの2週間、ムシャムシャと生ごみを食べ、その体は2000倍以上にまで増加します。
1キロの幼虫が食品廃棄物を4キロ消化する計算です。しかも、ミズアブ幼虫は、バクテリアよりも数倍から数十倍の分解速度があるため、大量の食品廃棄物を短時間で分解してくれます。

生き物は、食事をしたら体内で消化し、うんちを排泄します。研究グループは「この排泄物に秘密があるに違いない」と考えました。
そして、実験が始まりました。容器に食品廃棄物とミズアブ幼虫を3頭または10頭を入れ、7日間飼育した場合と、食品廃棄物のみを放置してミズアブを飼育しない場合で、臭気の成分を比較しました。

その結果、ミズアブを飼育した食品廃棄物は、悪臭の主原因である二硫化メチルや三硫化メチルが激減しました。そして、食品廃棄物内で増殖する細菌の種数が減少し、ラクトバシラス属とエンテロコッカス属の細菌の割合が大きく変化しました。

さらに、食品廃棄物でミズアブ幼虫を飼育した後に残った、ミズアブの食べ残しやミズアブのうんちなどが含まれる残渣にはミズアブの腸内細菌が大量に含まれていると考えられます。この飼育残渣だけを食品廃棄物に加えても、臭気を抑えることが分かりました。

食品廃棄物に飼育使用後の残渣を加える前処理を行った場合の二硫化メチルの発生量。前処理しない場合と比べて、前処理を行った4回は、発生量が抑制されている。最も効果のあった「前処理あり2」は、「前処理なし」に比べて発生量が1/7に抑制された。(画像出典:農研機構プレスリリース

ミズアブ幼虫の残渣で変化していた細菌は、どちらも乳酸菌の一種で、私たちの体の中にも腸内細菌として多く生息しています。ラクトバシラス属は180種以上の種を含み、ヨーグルト製造にも使われています。エンテロコッカス属の種の中にも食品製造に使われている種が存在します。これらの細菌が悪臭の原因となる物質が増えるのを抑制していると考えられます。

つまり、あらかじめアメリカミズアブ幼虫の腸内細菌叢を含んだ飼育残渣を食品廃棄物に加えれば、腐敗する際に発生する臭気を大きく抑制できるのです。

大きくなった成虫のミズアブが世界を救う

画像出典:農研機構プレスリリース

途上国を中心に8億人以上(約9人に1人)が十分な量の食べ物を食べられず、栄養不足で苦しんでいます。世界人口が増加する中で、ごみの削減やCO2削減、食料不足など解決すべきさまざまな課題があります。
これらを解決するカギを握るのがアメリカミズアブです。育ったミズアブは、乾燥・脱脂・粉砕され、魚粉に変わるタンパク質源として、ニワトリや養殖魚のエサに利用することができます。

研究グループは、現在ムーショット型農林水産研究開発事業において、優良系統の育成や飼育技術の改良等を進めています。昆虫をタンパク質源とすることで、地球規模のタンパク質危機を回避し、温暖化ガスの放出の縮減など、SDGs17の目標達成に向けて大きく前進する可能性を秘めている益虫がアメリカミズアブなのです。もしも自宅のコンポストにアメリカミズアプ幼虫が発生したら、「やったー、ラッキー!」です。

アメリカミズアブは、生ごみやふん尿などの有機廃棄物をよく食べて育ちます。今、アメリカミズアプを利用した有機廃棄物の分解・再資源化方法の開発が進められています。この研究によって、食品廃棄物処理において最大の問題だった臭気の問題が解決し、化石燃料をほとんど必要しない処理プラントの設置が促進する可能性があります。

さらに、第三の昆虫産業としての期待も高まります。これまでの昆虫産業といえば、絹を産出する「蚕」(かいこ)や甘い蜂蜜を作る「ミツバチ」でした。これからは「アメリカミズアブ」がニワトリや養殖魚のタンパク質源として需要が拡大する可能性を秘めています。

農研機構では、アメリカミズアブによる有機廃棄物処理を目指す企業に向けて、技術提供や共同研究を実施しています。問い合わせは農研機構へ。
E-mail:www@naro.affrc.go.jp