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漫画家・冬野梅子さんに聞く「女性の抱える生きづらさ」前編 描かれる“ネガティブな女性”の裏にある普遍性とは

漫画家・冬野梅子さんに聞く「女性の抱える生きづらさ」前編 描かれる“ネガティブな女性”の裏にある普遍性とは

#RADIO
  • ジェンダー平等を実現しよう

パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送の『SDGs MAGAZINE』。3月3日の放送では、リアルな自意識描写が話題となった『普通の人でいいのに』などの作品で知られる漫画家、冬野梅子さんをゲストに迎え、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にも繋がる、「女性の抱える生きづらさ」について話を聞いた。

今回のテーマは、日本の女性の生き方、生きづらさについて。3月8日の国際女性デーを5日後に控えた放送回。漫画家の冬野梅子さんの言葉には、新内さんも共感するところが多かった様子だ。

新内 「今日はこの方にお話をお伺いします。漫画家の冬野梅子さんです。よろしくお願いします」

冬野 「よろしくお願いします」

新内 「ニッポン放送のラジオに出るのは…」

冬野 「初めてですね。ちょっと来てみたくて。ミーハー心(笑)」

新内 「いやー、全然です。よろしくお願いします」

冬野 「よろしくお願いします」

【冬野梅子さんプロフィール】
2019年、『マッチングアプリで会った人だろ!』で「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。2020年に『普通の人でいいのに!』がモーニング月例賞奨励賞を受賞し、リアルな自意識描写がX(旧ツイッター)を中心に話題となるなど一大論争を巻き起こす。2022年 7月に契約社員・菊池あみ子の“生き地獄”を描いた『まじめな会社員』全4巻が完結。現在は、講談社の漫画WEB「コミックDAYS」にて『スルーロマンス』を連載中。

新内 「冬野さんの作品を読んでいくと、『まじめな会社員』という漫画の中でSDGsについて主人公、あみ子の心の声として『まぁ正直、こんなものは東京で暮らす人の、東京で生きる人の悩み、私には遠い国のお話の一つ』と描かれていました。こういう作品の登場人物の言葉って、どれくらい冬野先生の心の声だったりするんでしょうか」

冬野 「私自身は、割とSDGsとかルッキズムとか、そういうものについて考えることに対して、結構ポジティブな気持ちでいるんです」

新内 「はい」

冬野 「自分自身の生活に満足感があって、初めて真剣に考えられるものだなとも思って、もし自分が今、親の介護とかで実家に帰ったりしたら、そこに対して何かすごく嫌な気持ちになるだろうなっていうのが分かったんです。自分が何もできない時に、他人がすごく立派なことをしているっていうのを見た時のつらさっていうか、そんなことを考えている暇がないっていう自分の気持ちからスタートして、それを考えることはくだらないっていう方に持っていかないと苦しいみたいな、そういう気持ちになるだろうなって思ったので、かなりここはネガティブに(笑)、書いていますね」

新内 「まあ、でもすごくその気持ちは分かります。私もこういう番組をやっているからこそ呼び掛けることとか、お話ししていくっていうことを諦めてはいけないなとは思うんですけども、受け取り方はそれぞれだと思っているので、正直なものを今目の当たりにしていますし、気持ちもすごく分かるんですよ」

冬野 「うんうん」

新内 「確かに、自分に余裕がない時に、あれこれ言われても聞く気にならなかったりする」

冬野 「あと、周りの人があまりにも、特にルッキズムとかって知らない人も多いから、言った時の虚しさっていうか、『何? 何ズム?』とか言われたら…」

新内 「(笑)」

冬野 「もうやっていけないな、みたいな。結構だから、周りの理解度がないと口に出せないなって思いましたね」

新内 「確かに。もう、本当に何かSDGsの番組にお呼びして申し訳ないんですけども」

冬野 「いえいえ、とんでもございません(笑)」

新内 「今日はよろしくお願いします」

冬野 「はい、よろしくお願いします」

会社員として働いていた経験が糧に?

新内 「実は、漫画家になる前は会社員で、正社員として働いていたとか」

冬野 「そうですね。最初の会社は金融機関だったんですけど、5年くらい働いて、その後は結構短期間で転職して、5社はやっていますね」

新内 「えー! 最初の金融が長くて、他はいろんなものを見ようみたいな感じだったんですか」

冬野 「いや、結構適当に転職しているから続かないんですよね、どうしても。だから会社でよく起こるような、ちょっとした揉め事、大なり小なりありますけど、例えば会社の誰かがセクハラしていたらしいとかがあると、何かやる気がなくなっちゃったなと思ってしまう。しかも、その社員は辞めないんだとか思うと、すごくやる気がなくなって、辞めますみたいな感じで転職したりとか」

新内 「はい」

冬野 「次、入った会社もブラック企業だったりすると、ここも適当すぎるから辞めちゃおうとか(笑)。ほんと、そんな感じです。とにかく続かなかったっていう感じです」

新内 「でも、いろんな会社を見たからこそ、こういう作品とかに還元されているみたいな側面もあったりするんですかね」

冬野 「あっ、そうですね。結果、活かしているっていう感じはしますけど、だからといって、転職することが何か糧になるんだぞとは、やっぱ言えないなっていう」

新内 「(笑)」

冬野 「結構、行き当たりばったりで転職しているから、その確証はないっていう感じですね」

新内 「冬野さんと言えば、作品の中でリアルな女性の生きづらさについて描かれていると思うんです。月に何回かくるネガティブな自分を意識して描かれているとも記事で読んだんですけど、結構そういうタイミングとかあったりしますか」

冬野 「そうですね。理由なくすごく暗い気持ちになるっていうのってあるじゃないですか」

新内 「分かるーっ! あっ、分かるとか言ってごめんなさい(笑)」

冬野 「別に支払いとかが遅れているものもないし、仕事のトラブルもないんだけど、妙に全部が嫌な気持ちっていうか、みんなは素晴らしい、自分は最低みたいな、そういう気持ちになることがあって、一時それを可視化してみようと思って、スケジュール帳にネガティブな日を、何の理由でネガティブだったかを書き留めていたんです」

新内 「えーっ!」

冬野 「3カ月くらいで終わっちゃって、それも。でも、漫画を描く前というか、会社勤めをしている時って、割にこういう日が多かったなと。全てに恨みつらみがあるみたいな」

新内 「うんうんうん」

冬野 「あの時期をもっと掘り下げようみたいな感じで描いていましたね」

新内 「確かに、そのネガティブな自分がある瞬間って、私も一回、なんでこうなるんだろうって思って考えてみた時はあるんですけど、自分の中ではタスクが溜まっているのに面白いことがない時なんですね」

冬野 「あーーーっ」

新内 「(笑)」

冬野 「分かりますね」

新内 「それこそ公共料金の支払いとか、いろいろなアンケートを書かなきゃいけないみたいな、タスクが溜まっているけど、それをやりたくない。けど、面白いこともないみたいな時が一番、今何やっているんだろう私みたいな(笑)」

冬野 「そのタスクも外から与えられているもので」

新内 「そうなんです」

冬野 「決して自分の中にあるやつじゃないんですよね」

新内 「そうなんですよ! 誰も悪くないし、まだ期限も全然あるのに、追われている感じが」

冬野 「自分の仕事だって分かってはいるんですけど、あれもこれもやらなきゃいけないし、私ばっかり…みたいな気持ちになっちゃうんですよね」

新内 「そういうタイミングは結構あったりしますね」

“女性の生きづらさ”の根本にあるもの

新内 「作品の中で何か“生きづら”さみたいなのも題材にあると思うんですけども、冬野さんはどういう“生きづらさ”を感じたりしますか」

冬野 「そんなに“生きづらさ”をテーマにっていう気持ちで最初は描いてはいなかったんですけ ど、でも多分、時代的にちょうど2、3年前って生きづらさって言葉がすごく広がったのかなとは思いますね。生きづらさってかなり広くあって、社会の仕組みが原因のものと、風潮からくるものと、あとはすごく個人的なもの、その3つが全部合体して切り分けができないみたいなものが、いちばん苦しいような気がしますね」

新内 「確かに」

冬野 「自分が改善しなきゃいけない部分もあれば、自分じゃない部分しかもう改善はできないっていうものもあるけど、それが全部一緒くたに自分のせいって思っている時が一番苦しいっていうか。自分の性格の部分もあるけど、プラスこれもあるよっていうのが全然見えない時が一番、気持ちが塞ぐんじゃないかなと思いますね」

新内 「いやぁ」

冬野 「特に会社勤めしていて事務職って補佐的な立場なので、気の利く女性をやらなきゃって思うわけですね。でも、別に気が利かないんですわ」

新内 「(笑)」

冬野 「でも、気の利く女性をやらなきゃって思って、すごく先回りしていろいろやったら、しごく当然のように『これ、違う』とか『これ、いらない』とか言われた時の、 『えっ? 気の利く女性の設定でやっているんですけど、こっちは』みたいな。そういう気持ちになるんですよね」

新内 「(笑)」

冬野 「やっぱり、それが個人的に先回りしたっていう個人の部分と、やっぱり女性たるもの、特に事務の女性たるもの、補佐的なことに気が回る存在であれっていうイメージもあるし、個人の部分と社会の部分とが一緒にくっついているところだなと思いましたね」

新内 「こういったエピソードとかって、自分自身の経験みたいなものもあると思うんですけど、(登場人物に)モデルがいたりもするんですか」

冬野 「服装が被って『これって私?』って聞かれることとかたまにあるんですけど、服装だけは実際の人を参考にして、自分の実際に経験した時に伴って湧いた実感みたいなものはベースにしています。経験した出来事は描かないんですけど、良いことにせよ悪いことにせよ、実感があるものというか、なるほどなって思った時のものは作品に落とし込んでいますね」

新内 「経験とか実感したものを言語化するっていうのが、やっぱりすごいなって思うんです 。そういった時は、対話の中で落とし込むのか、メモで落とし込むのか」

冬野 「日記を昔から書いていたんですけど、その延長でストレスが溜まったら日記に書くみたいな。だから、もう一般的な社会の目を入れずに書くので、自分が100%悪いことでも、あいつが悪いみたいに書くわけですよ」

新内 「(笑)」

冬野 「日記なので、そこは。でも、それを書いていくことで、自分はこういう感情を優先した かったんだけど、社会のルール上では、それが許されないっていうことに対するフラストレーションが攻撃性として今、出ているんだなあとか、そういうのが分かると落ち着く。自分がほっとするっていうか」

新内 「うんうんうん」

冬野 「分からない時が、やっぱり一番怖いんですよね。自分が悪い人なのかな、いい人なのか なってなった時に、自分は性格がまあ悪いんだけど、でも、これに対してむかつく事は割と普遍的であるみたいなのが分かると納得がいくっていう感じですね」

“生きづらさ”を描くからこその難しさ

新内 「結構、このテーマとかで漫画を描くにあたって、難しさみたいなものを感じたりすることとかあるんですか」

冬野 「ありますね。私は、よくテレビドラマとかに出てくる女性、特に若い女性っていい子ばっかりでっていうことを思って、そこが出発点だったんですよね。特に『まじめな会社員』とかは。すぐ反省するんですよ、ドラマの主人公って」

新内 「(笑)」

冬野 「『私、友達の失敗を願っちゃった。私って最低』っていうのが秒でくる感じとか。『いや、それ一年ぐらいあるだろ』って思うんですけど、そういういい女性はもう絶対に描きたくないと思って。なるべく嫌な女性を描きたいんです。でも、そうするとその作品に出てくる属性の女性が悪いイメージになっちゃうっていうのが、すごく嫌なんですね」

新内 「はい」

冬野 「事務職をやっている女性っていうのは、何か努力もしないで文句だけ言っている人だって絶対に受け取る人いるわけですよ、この作品を読んだら」

新内 「あー、はい」

冬野 「だから、そこをキャラクターの性格の部分として、どうにか属性を貶める伝え方にはしたくないっていうところが結構苦労しますね。どうしても嫌な人を描こうとすると属性を含めて丸ごと嫌なイメージになるのが避けられなくて、そこはもう、その罪はもう背負っていくしかないっていう感じですね」

新内 「確かに発信している方と受け取り手は違いがあって当然だと思うんです。ただ、本当にいろいろな方に読んでいただきたいですし、特に私たち世代の女性にはすごく刺さる気がするので、ぜひ皆さんに読んでいただきたいなと思います」

新内さんは、冬野さんと話していてふと思ったことがあったという。それは「相手の理解度は人によってばらつきがあるから、理解度に合わせてお話をしていくっていうのは、すごく重要なのかもしれない」ということ。「会社とかでもあるじゃないですか。『エビデンスが…』とか、そういう横文字を私は結構分からなかったタイプなので、(そういう言葉が出てくると)やっぱり話題の本質から意識が外れてしまう。そういう瞬間ってあるじゃないですか。そういうことも、ちゃんと念頭に入れながらお話しをするのはすごく大事ですし、ハッとしましたね」と相手の立場や理解度を踏まえた言葉の選び方の大切さに、改めて思いを巡らせた。さらに「ネガティブな自分に関しても、今回はすごく喋ってしまったんですけども、大丈夫でしたかね(笑)」と、冬野さんの言葉や作品の題材を通して自らを見つめる機会にもなった様子。「結構、私はお気楽に見られたりとか、楽天的に見られたりするタイプの人間なんですけども、月に何度かネガティブなこともあるんです。それも認めて、楽しくお仕事をやっていますし、日々生きているので、皆さんも一人じゃないなって思っていただけたら嬉しいです」と前向きに捉え、リスナーに寄り添っていた。

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