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“知的財産制度の伝道師”澤井智毅さんと考える「働く」ということ ~前編~目標8「働きがいも 経済成長も」にもつながる「今ない仕事」の可能性とは


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8 働きがいも経済成長も
“知的財産制度の伝道師”澤井智毅さんと考える「働く」ということ ~前編~目標8「働きがいも 経済成長も」にもつながる「今ない仕事」の可能性とは

パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送の『SDGs MAGAZINE』。5月19日の放送では、「大人は知らない、今ない仕事図鑑 100」(講談社)を監修している世界知的所有権機関(WIPO)日本事務所長の澤井智毅さんをゲストに迎え、目標8「働きがいも 経済成長も」につながる「どう働くのか」について考えた。

今回のテーマは、目標8「働きがいも 経済成長も」。社会の在り方とともに変化する「働くこと」「仕事」について深掘りするべく、澤井さんをスタジオに招いた。

新内 「よろしくお願いします」

澤井 「お願いします」

新内 「パリッとしたスーツを着ていらっしゃって、でも、表情は穏やかな方です。今日はよろしくお願いいたします」

【澤井智毅さんプロフィール】
1987年特許庁入庁。特許や意匠の審査部門の部長や調整課長、国際課長、知的財産研究所ワシントン事務所長などさまざまなポストを歴任し、2019年に現在の世界知的所有権機関(WIPO)日本事務所長に就任。特許庁では特許制度改正、意匠制度改革、国際制度調和などを推進し、現職では知財制度の普及啓発や日本政府、産業界、大学などとの連携に注力している。「大人は知らない、今ない仕事図鑑 100」「SDGsでわかる今ない仕事図鑑ハイパー 自分の才能発見ブック」など「今ない仕事」をテーマにした書籍を監修し、「米国発明法とその背景〜19世紀以来の特許制度改革〜」などの著書がある。

新内 「具体的に本職が『知的財産権』の専門家ということで、普段はどういったお仕事をされているのでしょう」

澤井 「『知的財産制度』の啓発、普及に努めているのですが、この間調べましたら、日本っえて世界の50の調査対象となった国々の中で、最も『知財』の意識、『知財』の認識度が低い国なんですよ。ですから、この『知的財産』というものが、こんなに大事なんだよということを伝える伝道師を日々やっています」

新内 「知的財産権って確かに文字は見たことがあるんです。なんとなくニュースで流れていたりとか、社会で学んだりとかすると思うんですけども、実際に知的財産権っていうのをいざ説明しろと言われたら、えっと〜ってなっちゃいます。分かりやすくいうと、どういった権利なんでしょうか」

澤井 「例えば、このラジオ番組も知的財産の塊だと思いますけども、日々常に人が頭の中で考えたものが全て知的財産です。人が頭の中で考えたものって、形がないじゃないですか」

新内 「はい」

澤井 「形がないものって、形があるものと違って、誰でも、いつでも、どこからでも勝手に使うことができてしまう。でも、勝手に使ってもらったら困る」

新内 「そうですね」

澤井 「それをちゃんと守っていきましょうねっていうのが『知的財産制度』というものです」

新内 「知的財産権と言われると、ちょっと重い気がして…。自分の発想なんて、ありふれている気がするし、どこからその権利を主張していいのかって難しくないですか」

澤井 「たとえば、ここに台本がありますけれども、この台本も、台本を書かれた人が書いた瞬間に『著作権』というものが生まれています」

新内 「はい」

澤井 「あと、研究者とか大学の先生が日々研究をして、そこからアイデアが生まれますよね。それが新しいものであったり、同じような仕事をしている人が考えても簡単には実現できなかったりするような発明や発見をしたら、それは『特許権』という権利になります」

新内 「はい」

澤井 「あるいは、マスカットとかいちごとか。それが新しい品種であれば『育成者権※』という農家の人たちが持つ知的財産権になります」
※植物の新たな品種に対して与えられる知的財産権。 新たな品種の育成をした者は、それを登録することで業として利用する権利を専有できる。

新内 「育成するのにも知的財産権があるってことですか」

澤井 「あります。日本のおいしい果物とか、おいしいお米って、あれも知的財産権になりうるんですよ」

新内 「それなのに、何で意識が低くなったんですか? それとも、他の国の意識が高くなったということですか?」

澤井 「基本的に他の国の意識は昔から高いですけど、特にアメリカですね。1980年代に日本と西ドイツがすごく元気が良かったんですよ。その日本や西ドイツが急激にアメリカを超えちゃうんじゃないかっていう思いで、何が問題なんだろうか、となってアメリカがもっともっと知的財産の意識を高めて、日本やドイツに対して知的財産権を大事にしてくれと訴えるようになったんです。『それはアメリカの技術じゃないか』『アメリカのものじゃないか』と」

新内 「はい」

澤井 「それを見て、新興国が知的財産って大事だな、新しいアイデアとかすごく大事なんだなっていうことをアメリカから学んで、みんなの意識がすごく高まったっていうところです」

新内 「知的財産権って、自分が発想して世間に出した一番乗りの人が持てるっていうことなんですか」

澤井 「はい、そうです。頑張って一番乗りでやった人たちって、すごく苦労しているんですよ。汗もかいているし、薬なんかつくろうと思ったらお金もかかる」

新内 「そうですね」

澤井 「たとえば自動車のエンジンに関わる人たちは、もう日夜研究しているわけじゃないですか。すごく苦労はするのに、一番乗りの人はすごいよって言ってあげないと、誰も一番になろうとしない」

新内 「なるほど。でも、何で日本は低いままになっちゃったんですかね」

澤井 「多分、出る杭は打たれるからだと思います」

新内 「それは確かに、ちょっと感じますね。何か意識として、基本的に自分の発想に権利を主張できるものって思っていないじゃないですか、そもそも」

澤井 「はいはい」

新内 「私とかも、あんまりピンときていない。それを変えていかなきゃいけないということですよね」

澤井 「ええ、その通りです。ピンとくるように気付いてほしい。まあ、感覚的に言うと日本のトップテンの大学とアメリカのトップテンの大学って、学んでいる人も先生たちも大体同じぐらい優秀じゃないですか。そして、同じように一生懸命に研究する。だから、アメリカも日本もトップテン大学から出てくる特許権の数はあまり変わらないんです」

新内 「はい」

澤井 「じゃあ、それをいくらで売っているかというと、大体100倍くらい違います」

新内 「そんなに?」

澤井 「ですから、日本の大学の先生が100万円でも『すごい』『売れたよ』って思っているのは、アメリカの先生たちからすれば、本来1億円の価値があるものを100万円で喜んでいると思われている」

新内 「何で、そんなに低く見積もってしまうんですか」

澤井 「先ほど言ったように、知的財産への意識が低いからです」

新内 「そっかぁ」

澤井 「まさにこれからの仕事って、すごく専門性とか付加価値とかが大事じゃないですか。そうしたものも含めて、日本人はその尖った部分に対する評価っていうものを大事にしていないなっていう気がしますね」

新内 「確かに、相場が分からなかったりすると、どうやって提案していいんだろうみたいな」

澤井 「その通り! そう、(大事なのは)相場観なんですよ。相場感が違いすぎる。100倍ですよ。日本の小判が、どんどんアメリカに流れていた時代が江戸時代の末期。あの時に、金の価値が大体アメリカ人が考えているよりも、日本人は3分の1ぐらいだったわけじゃないですか。その3分の1の違いで一気に日本の小判は…」

新内 「流れてしまった」

澤井 「さっき言ったように、大学の先生でいうと100対1ですからね」

新内 「それ、どうやったら変えていけるんですか」

澤井 「それは、もう私たち伝道師が」

新内 「ああ、今日聞いている方も、ぜひ知的財産権っていうのを改めてちゃんと見直した方がいいかもしれないですね」

澤井 「えぇ、そうですね。ありがとうございます」

澤井さんが尽力する「知的財産」への理解を深めたところで、次なる話題はそうした「知的財産」が生み出すものの一つでもある「仕事」について。「今ない仕事図鑑」という書籍も監修している澤井さんに、SDGs的な観点から「仕事」について聞いた。

新内 「SDGs的にも『仕事』についてのお話は、目標8の『働がいも 経済成長も』につながります。お仕事に関する本の監修もされているとのことで、まず『今ない仕事図鑑』というのは、どういった内容の本なのか教えていただけますか」

澤井 「今から12、3年前、ニューヨークタイムズにニューヨーク市立大学の先生が、ある言葉を書いているんです。『今の小学生の65%は、まだ発明されていない仕事をすることになるかもしれませんね』と。これが、すごく分かりやすい」

新内 「結構な割合ですけど」

澤井 「そうです。もう、ほとんどの小学生は『今ない仕事』に将来、高校や大学を出た後に就くわけです」

新内 「私が小学生の時って、もう20年ぐらい前ですけど、当時なかったであろう、それこそインフルエンサーのお仕事だったりとかがあったりする。今では想像できないけど、それがお仕事になったりするっていうことですよね」

澤井 「ええ、その通りです。こんな仕事があるんじゃないですかっていうヒントを伝えている本です」

新内 「想像力って大切なのかもしれないですね」

澤井 「ええ」

新内 「今考えても、仕事としてなくなってしまったなというものもある。切符を切る人とか…」

澤井 「あっ、ほんとだ」

新内 「まあ、駅員さんはいますけど、改札はもう完全に自動化されていますよね。AIとかロボットによって人がやらなくてもいい仕事とかが出てくるっていうことは、昔から言われていたと思うんです。これについてはどう思いますか」

澤井 「今の切符の話、すごく分かりやすいですね。私たちが子供の頃は、改札で切符をたくさんの人たちが切っていらっしゃいましたけど、その人たちはいらなくなっちゃったんですよね。だけど、じゃあその人たちは今、何を駅でしているかっていうと、たとえば外国人から道を聞かれて英語で答える駅員さんとか、いろいろなサービスをしてくださっている」

新内 「そうですね」

澤井 「自動販売機そのものが、すごく分かりにくいですから、その自販機の使い方を優しく伝えている人もいます。ですから、ある仕事がなくなっても、その時代のニーズによって仕事が生まれてくる」

新内 「はい」

澤井 「ニーズに対して、このテクノロジーがあるんだったら、どういうサービスが提供できるかなとか、どんな製品がつくれるかなって考えていくと、新しい仕事が生まれてくる。たとえば、私たちは今当たり前のようにネット検索するじゃないですか」 

新内 「はい」

澤井 「ラリー・ペイジさんという人が、検索技術の新たな発明をしたのは1998年です」

新内 「最近に感じちゃう」

澤井 「そうです。ラリー・ペイジさんが、まだスタンフォード大学の大学院生の時に、検索技術を発明しました。それが今、Googleの検索になっている。もうそれで、いろいろな仕事ができたわけじゃないですか」

新内 「そうですね」

澤井 「もっと後でいうと、スマートフォン。アップルのiPhoneが生まれたのは2007年です」

新内 「2000年代!?」

澤井 「2007年です」

新内 「高校生なんですけど、私。最近じゃないですか」

澤井 「そうです。さっき仰ったYouTuberって、スマホがあるから広がったわけですよね」

新内 「そうですね。ガラケーだったら動画も、なかなか自分で撮って、自分が一個の媒体になれるっていうのは難しかったと思います」

澤井 「ええ」

新内 「確かにスマートフォンの登場によって、YouTuberっていうのは広まったのかもしれないですね」

澤井 「その通りです。だから、ニーズがあって、テクノロジーがあったら、新しい仕事ができてくるんですよね」

新内 「ほんと、10年後20年後って分からないですね」

澤井 「分からないです」

新内 「でも、なくなるっていうと、ちょっと消極的に感じてしまうじゃないですか。“なくなってしまう仕事”っていうと」

澤井 「はい」

新内 「でも、それをポジティブに考えた方がいいっていうことなんですかね」

澤井 「そう! もう、ポジティブに考えることだらけですよね。先ほどの改札の話のように違う仕事がいっぱい生まれてきて、今や鉄道会社の人たちは昔より忙しいんじゃないですか」

新内 「コンビニのバイトとかもそう言いますよね。私もコンビニで働いたことがあるんですけど、昔って自分でやるのはレジ打ちと、おでんをつくるのと、肉まんを入れるのと、品出し、掃除くらいだったんですよ」

澤井 「はい」

新内 「それが、今は宅急便の受け付けもあるし、決済の方法もすごく増えたから、今の店員さんの方が忙しいみたいなことを聞いたことがあります」

澤井 「はい」

新内 「お話が盛り上がっちゃったんですけども、今週はいったんここまでということで、次週も『今ない仕事』『働く』について伺っていきたいと思います。よろしくお願いします」

澤井 「はい よろしくお願いします」

今回、澤井さんに「知的財産」について学び、「今ない仕事」をテーマに「働く」ことについて考えた新内さんは「10年後、20年後にどういうお仕事があるかっていうのは、まだ私たちには分からないけれど、ここから先、また違う仕事が増えていくのかなってポジティブに考えるきっかけになりました」と、「今ある仕事」がなくなるという一面だけを捉えた否定的な見方ではなく、「今ない仕事」が生まれるという側面が同時にあることに気付きを得た様子。さらに「仕事が細分化されていると思うので、自分の得意分野を見つけたりしつつ、何か自分に向きあういい機会になったらいいなと思っています」と、“未来の仕事”のあり方に可能性の広がりを見出していた。

(後編に続く)