“知的財産制度の伝道師”澤井智毅さんと考える「働く」ということ ~後編~「得意分野」が繋ぐ新しい時代の働き方
パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送の『SDGs MAGAZINE』。5月26日の放送では、前週に続いて「大人は知らない、今ない仕事図鑑 100」(講談社)を監修している世界知的所有権機関(WIPO)日本事務所長の澤井智毅さんをゲストに迎え、「働く」ということについて深く掘り下げた。
今回、新内さんが澤井さんに聞いたのが「新しい時代の働き方」について。
新内 「先週は『知的財産権』についてお話を伺ったりとか、『今ない仕事』についてお話を伺ったりしてきましたが、引き続き『今ない仕事』と『働く』についてお話を伺っていきたいと思います。まず、『働く』っていう形が大きく変わってきているらしいっていうことをお聞きしたのですが、これはどういったことなのでしょう」
澤井 「たとえば、デジタル技術。すごく進んでいるじゃないですか」
新内 「はい」
澤井 「あるいは、ちょっと前まで、コロナで仕事自体、働く場所さえも変わったわけじゃないですか」
新内 「はい」
澤井 「そういうDX時代に通じる新しいデジタル技術の発達やコロナのような感染症の流行によって、社会がまず大きく変わった。いつでもどこでも働けるっていう文化が、あっという間にできました。あと、『SDGs』っていう言葉が浸透して、この番組もそれがテーマだと思うのですが、それによって環境問題とか、みんなのために働く、みんなのために仕事をすることの価値が、かつてよりずっと高くなってきたんです」
新内 「はい」
澤井 「世界の企業の経営者に『今一番大事なのは何ですか』って聞くと、自分の会社の得意な業務じゃなくて、『オープンイノベーションですよ』と言われる。みんなで手を繋いで得意なところをお互い協力していきましょうねっていう、そういう働き方に大きく変わってきています」
新内 「そうなんですね。オープンイノベーション…競争じゃなくなって」
澤井 「はい」
新内 「各自分の得意分野だったりとか、企業によっての得意分野だったりを繋げてってことなんですね」
澤井 「その通りです」
新内 「は〜」
澤井 「『競争』というのが、徒競走の『競走』から、共につくる『共創』になってきていますね」
新内 「これは、やっぱりコロナの期間が大きかったんですか」
澤井 「コロナに限らないんです、実は。必ず協力し合った人たちは、両方とも伸びていくって、難しい数学の方程式を解くと出てくるんですよ」
新内 「え〜っ!? 何で今まで気づかなかったんだろう」
澤井 「ただ、この難しい方程式を解くときに一つだけ条件がある。それは『お互いに尊重すること』です」
新内 「まあ、そうですよね。やっぱり一緒にお仕事をしていくにあたって、尊重しないと、ひずみが生まれます」
澤井 「はい」
新内 「やっぱり、すれ違いが起こってしまうというのは一番よくない結果だと思うので、尊重しつつやっていこうじゃないかと」
澤井 「それに2000年くらいに、多くの企業が気づき始めた。日本も当時の経済産業省が、国会で『自前主義』はやめていきましょうねって答弁されています。『自前主義』というのは、なんでも自分でやろうということですが、自分の会社で1から100まで全部やるんだっていうのではなくて、『一緒にみんなでオープンイノベーションしていきましょう』『自前主義から脱却しましょう』と言い始めたのが、ちょうど2000年ぐらいです。ただ、今でも、言われています。」
新内 「確かに、業務が最近は特に細分化されているって思うんです。だからこそ、自分だけでやるって、結構物理的にも厳しくなってきているっていうのもありますし、助け合った方が、意外とスムーズにいったりもするんですよね」
澤井 「その通りです! 得意なことは、得意な人と手を組む。尊重し合いながら」
「得意分野」「強み」を探すことが「働く」に繋がる
そこで、新内さんがふと考えたのが「自分の得意分野」について。「自分の得意って、分からなかったりしませんか」と切り出すと、澤井さんも「そうですね」と呼応した。
新内 「私、就職活動をしていて思ったんです。基本的に、私は自己分析をしていたんですけど、そこで『じゃあ今、自分がやりたいことって何ですか』とか、『自分の得意なこと何ですか』ってなった時に、『得意なこと?』って、すごく考えちゃったんです」
澤井 「えぇ」
新内 「澤井さん自身はどうだったんですか。自分の才能といいますか、得意なことについて」
澤井 「自信はなかったかもしれない」
新内 「あっ、そうなんですか!?」
澤井 「はい」
新内 「こういう世界に入ろうみたいなのをざっくり決めていて、みたいな感じなんですか」
澤井 「本当にやりたいこととは違う世界に入ったかもしれません。研究者を目指していたんだけども、最後に国家公務員になろう、日本政府に入ろうと思って、今に至っていますから。もしかしたら、研究者になれなかった人なのかもしれない」
新内 「でも、今は第一人者として、特許とか知的財産権を広める活動をされているわけじゃないですか。それをお仕事にされて、何人もの方を救っているというか、何人もの方を笑顔にしているというのは、やっぱり得意なことを仕事にしていった、一種の正解なんじゃないかな、とすごく思います」
澤井 「ありがとうございます。その通りなんです、本当に。研究者とか発明者が幸せになってもらいたいというのが私の今の目標です」
新内 「わっ、すごい(拍手)」
澤井 「いやっ、本当によく言ってくださいました」
新内 「やっぱり、何かやってみないと分からないみたいなところもありませんか」
澤井 「はい」
新内 「私、ラジオに携わって10年目なんですけど、自分のことをお話するのがすごく苦手な人だったんですよ。すごく人見知りだし。だけど、やってみたら褒めてもらえることが多かったりとか、それこそ声や話し方が好き、中身を知って好きになったって言ってくれたりする人とかが増えていって、楽しくなってきたっていう部分もあります」
澤井 「はい」
新内 「え? 何の話しているんでしょう(笑)。まあ、やってみないと分かんないっていうところからしても、自分の得意分野について間口を広げつつ、見ていくのもいいのかもしれないですね」
澤井 「本当にいろいろなことにチャレンジしていいと思うんですよ。人生100年時代ですからね。一つの仕事に固執する必要はないのかもしれないですね」
新内 「確かに」
澤井 「弱みが強みにというのもあるじゃないですか。そういう『探していく』ことが、すごく大事なんだと思いますね」
新内 「弱みかぁ。弱みとかってちょっと、就活とかしていた時とかって目を背けたくなる、主張したくなくなっちゃう、自信がなくなっちゃうみたいな時があるんですけども、弱みが強みになるって考えると、ちょっと気持ちが楽になるかもしれないですね」
澤井 「ええ」
“おもてなし”=「洞察」こそ日本の強み
新内 「でも、『働く』って、いろいろあると思うんですけども、今の若い人たちの働き方や仕事についてはどう思いますか」
澤井 「今の働き方って、先週も申し上げたように、どうしても日本だと出る杭は打たれてしまいやすいので、それゆえに付加価値だとかサービスだとか、本当は評価されなければいけないところが評価されない。難しい言葉でいうと、日本は今、生産性が低いよねって言っているじゃないですか」
新内 「はい」
澤井 「実際に給料も安くなっていますよね」
新内 「う〜ん」
澤井 「生産性が低いのは、日本人が遊んでいるわけではなくて、本当は世界が評価してくれている、しなければいけない専門性とか付加価値とかサービスとか、それが低く評価されているからです」
新内 「この間、イギリスに旅行に行っていたのですが、日本って、こんなに“おもてなし”があるのにチップ制度がないっていうのは、日本の良い面でもあるとは思うんですけど、それを何かで評価されてもいいのではないかなって思ったんです。やっぱり海外に行くと、日本でだけ当たり前なことは結構たくさんあると思っていて、それに知的財産権といいますか、権利を主張すれば、また何か変わりそうな気がします」
澤井 「そうです! “おもてなし”ってすごく大事で、ここは日本人のすごく強いところなんですよ。“おもてなし”って、どうしたら喜んでくれるかなって考えることじゃないですか。それって『洞察』ですよね」
新内 「はい」
澤井 「『洞察』。『インサイト』っていうんですが、『イノベーション』って言葉、よく聞きますよね」
新内 「はい」
澤井 「日本語だと『技術革新』って訳すんですけど、あれ、アメリカはどういうふうに定義づけているかっていうと、『イノベーション』とは『発明と洞察、すなわちインサイトとの交差点だ』っていうんです」
新内 「ほーっ!」
澤井 「発明、すなわちテクノロジーをどう使うかっていうことを“おもてなし”の気持ちで考えることによってできるもの、それを社会が受け入れたものこそが『イノベーション』ですよって定義づけているんですよね。ですから、日本人の得意な分野なんです、本当は」
新内 「でも、当たり前すぎて、そこに目を向けられていない人が多分すごく多い」
澤井 「そう!」
新内 「その意識改革をしていかないといけないんですね」
澤井 「そうなんですよ! だから『イノベーション』を『技術革新』って訳しちゃうと“おもてなし”の部分が全然出てこないじゃないですか。『洞察』っていうところが大事ですよっていうことは、みんなに伝えていきたいですね」
新内 「もう、いろいろと考えさせられますね。『働く』についてもそうですし、これからいろんなお仕事も増えていく中で、ちゃんと一回、自分と向き合う時間が必要なのかもしれないですね」
澤井 「ええ、仰る通りですね」
そして、新内さんは最後に番組恒例の質問、「今、私たちにできること=未来への提言」を澤井さんに聞いた。
澤井 「新たな時代、先ほども申し上げましたように、『100年時代』とか言われる時代になっていますから、いろんなことにチャレンジしてほしいのですが、その時に出る杭になってほしいんですよね。私、すごく好きな言葉に、スティーブ・ジョブズさんが言った言葉があって、その言葉はアメリカの名言集の表紙にまで書かれているんですよ」
そうして、澤井さんが紹介したのが、次の言葉だ。
Let’s go invent tomorrow instead of worrying about what happened yesterday.
澤井 「『昨日起こったことにくよくよするよりも、明日を発明しようじゃないか!』。そんな思いで進んでほしいなと。もう、今のことでくよくよしないで、明日を発明するっていうポジティブな気持ちでいろいろなことにチャレンジしてほしいなって思います」
新内 「そうですね。この番組でもよく言うんですけど、一歩目って、すごく足が重いじゃないですか」
澤井 「はい」
新内 「だけど、ベイビーフット、ちっちゃい一歩だったらいけるかもしれないっていうのもあるので、昨日にくよくよしているんだったら、ちっちゃ〜い一歩で!」
澤井 「ええ、その通り!」
新内 「ちっちゃい一歩でもいいから、何か変える、変わるといいですし、『出る杭は打たれる』って言いますけど、『出すぎた杭は打たれない』とも言いますし、『出る杭が打たれる』文化が変わることも願いたいですね」
澤井 「願いたいです。そうしたら、起業家がいっぱい生まれます。そうしたら日本、もう一度強くなれます。日本が強かった頃ってたくさんの会社がいっぱい生まれたじゃないですか」
新内 「はい」
澤井 「もう一度そういう時代がくればいいなって思います」
新内 「もうちょっと、『働く』ことに関してお伺いしたんですけども、すごく身が引き締まって、今日はよく寝られそうな回になりました!」
澤井 「(笑)」
新内 「ありがとうございました! 今週のゲスト、澤井智毅さんでした」
澤井 「ありがとうございます!」
知的財産制度の話題から広がり、「働く」ということ自体について深く考えることとなった今回の収録。新内さんは、最後に澤井さんが紹介してくれたITの世界的大手、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏の言葉に、共感するところが多かったようで「本当に、まさしくそうだと思っていて、私自身も実は昨日のことっていうか、過去のことでくよくよしたりとかするタイプなんです。ですけども、未来に向かっていくっていうのが大事かなって思いますし、それこそ過去のことにくよくよしているんだったら、自分のことを一回振り返るっていう習慣をつけるのもいいのではないのでしょうか」とうなずいた。さらに、「忙しかったりとかすると、自分に向き合う時間が取れなかったりするじゃないですか。そういう意味も含めて、『働き方』以前に自分としてどうありたいかっていうところから未来に繋げていくのが大事なんじゃないかなって思いました。本当に、お仕事って多岐に渡るし、いろんな種類があるし、知らないこともたくさんありますけども、自分の得意分野を見つけられたら、そんな幸せなことはないと思うので、ぜひ皆さんもこれをきっかけに、ちょっと自分と向き合う時間を増やしてみてもいいのではないでしょうか」と、リスナーに呼び掛けた。