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トウモロコシから作られるサステナブルな燃料「Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」の最新動向をアメリカの有識者が解説!(後編)


この記事に該当する目標
7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに 9 産業と技術革新の基盤をつくろう 13 気候変動に具体的な対策を
トウモロコシから作られるサステナブルな燃料「Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」の最新動向をアメリカの有識者が解説!(後編)

米国農務省(USDA)とアメリカ穀物協会日本事務所は、植物から作られるバイオ燃料「バイオエタノール」に関するプレスセミナーを開催しました。

植物は成長過程において光合成を行うため、二酸化炭素を吸収します。そのため、植物由来のバイオエタノールは、燃焼時に化学燃料と同様に二酸化炭素を排出しますが、その排出量はプラスマイナスゼロとなる、「カーボンニュートラル」であると考えられています。
セミナーでは、飛行機の燃料として使われる、「Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」(以下、SAF)の主要な原料としてのバイオエタノールの役割と、航空業界における脱炭素化への取り組みなどについて、4名の専門家から語られました。

後編では、ライフ・サイクル評価(LCA)専門家と、米国農務省チーフエコノミストの解説をお伝えしていきます。

バイオエタノールは、低炭素で大容量を共有できるサステナブルな燃料

イリノイ大学シカゴ校主席エコノミストのステフェン・ミューラー氏からは、バイオエタノール生産のライフ・サイクル評価(LCA)の概要と、輸送や航空分野におけるエタノールの持続可能性認証、市場への影響などについて語られました。

アメリカで生産されているバイオエタノール原料の炭素強度(エネルギー当たりの二酸化炭素排出量)は継続的に減少しています。それは多くの農場で新しいテクノロジーが導入され、生産者が活用しているからです。そのため、トウモロコシの炭素強度も減り、結果的にバイオエタノールの炭素強度も減ることに繋がっています。そしてバイオエタノールをサステナブルな航空燃料として変換する技術を、エタノール・トゥ・ジェットと呼びますが、この変換技術も大幅に改善しています。私の行った研究によれば、このような新しいテクノロジーを使うことにより、アメリカのバイオエタノール・プラントのほとんどが国際航空におけるカーボンオフセットで義務付けられている温室効果ガスの削減要件を満たしていることが分かりました。

つまり、アメリカのバイオエタノールは、低炭素で大容量を供給できるサステナブルな燃料だということです。

このバイオエタノールを、必ず持続可能な形で生産していく必要があります。この燃料を生産することにより、追加で土地の開発を行ったり、森林の伐採が行われたり、緑地の削減が行われるようなことがあってはいけません。これについては、2024年の早い段階で出された論文の中で、バイオ燃料を生産するために誘発されたそのような土地利用は、想定されていたよりもかなり少なく抑えることができていると発表されました。

最後に、日本に輸入されるバイオエタノールは、バイオ燃料としてサステナブルな形で生産されているものとしてISCC(International Sustainability & Carbon Certification)の認証を受けています。日本において、陸上の輸送に使われているバイオエタノールはETBE※に変換されています。ETBEの利用でも陸上輸送で発生する炭素の排出を抑えることができるでしょう。しかし、これをさらに改善するならば、バイオエタノールからETBEに変換するステップを省き、直接燃料に10%のバイオエタノールを混合することをおすすめします。こうすることで日本における輸送セクターのエタノール活用が広まり、温室効果ガスの削減を大幅に実現できると考えられます。

※ETBE:エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル
エタノールとイソブチレンを合成して製造する化合物で、エンジンのノッキングを防ぐためにガソリンに添加されるオクタン価向上成分と類似した特性をもつ。

新しい技術導入を介して農家も生産量増加や低炭素化の実現に尽力

USDAチーフエコノミストのセス・マイヤー氏からは、バイオエタノールとSAFの市場モデリングや、航空業界の脱炭素化についての洞察などについての話がされました。

バイオエタノールをよりクリーンにするために、さまざまなプロセスの改善が行われてきました。農家の側でも、農作業の方法を変えることによって、バイオエタノールのCIスコア(炭素強度、エネルギー当たりの二酸化炭素排出量)はますます下がっています。

バイオエタノールの原料となるデントコーンの1エーカー(約1,200坪)あたりの生産量は年々増えています。しかし、肥料などのインプットは増えていません。肥料などの投入がこれまで通りの状況にある中で、新しい技術を導入することにより、トウモロコシの生産量が大幅に増えてきたのです。同時に、環境保全活動にも力を入れており、よりサステナブルな生産を目指す取り組みを進めています。

前年に比べて、2024年はかなり収穫量が伸びました。前年の天候が芳しくなかったのに対し、2024年の天候が非常に良かったからです。新しい技術を導入したことにより、さまざまな農業環境の改善がすすんでいることも大きな要因となっており、10年前と比較すると、大きな収穫量の増加傾向が見て取れます。アメリカの農家はこのような強靭な適応力があります。農家がこのような努力を続けており、CIスコアも改善し続けているのです。

デントコーン一粒から生産できるエタノールの量というものは、技術的な上限に近づきつつあります。アメリカでは、農地の面積を拡大させることなく、トウモロコシの生産量をあげてきたという事実が、さらに重要となっています。アメリカでも土地開発が行われており、森林伐採などの問題も発生しています。しかし、バイオエタノール生産を増やすために、林地や湿地をトウモロコシ用の農作地に転用するようなことは起こっていないのです。

続いて、アメリカの政策という観点からお伝えしておきたいことがあります。CIスコアの改善という部分では政策として、「パフォーマンス・ベース」という考え方を用いています。これは、CIスコアを減らすことに対して、インセンティブが貰えるというものです。アメリカの農業政策は、CIスコアを単に下げるためだけではなく、農業の底力を高め、その土地での農作業が環境に対して悪影響にならないように設計されています。農家は自然できれいな環境を享受できるのです。

アメリカの農家のみなさんは、日本との貿易関係を非常に重視しています。信頼のおける農作物の供給国でありたいと私たちは考えています。

クリーンな燃料、バイオエタノールを積極的に使うことができる世の中へ

バイオエタノール自体がクリーンな燃料であるのはもちろんですが、そのプラント資設や生産過程においてもクリーンであることを目指し、原料となる農作物の生産者をはじめ携わる人々がテクノロジーや技術開発に尽力していることが伝わってきました。バイオエタノールが日本でも手軽に利用できる燃料となれば、温室効果ガスの排出がもっと抑えられるようになります。その時には、ぜひ積極的に使っていきたいですね。