イリノイ州のトウモロコシ産業が描く持続可能な未来とは
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イリノイ州はアメリカ中西部の豊かな大地を背景に、全米有数のトウモロコシ生産地として知られています。ここで生産されるトウモロコシは、食品や飼料だけでなく、近年注目されるバイオエタノールとしてエネルギー市場にも貢献しています。さらに、炭素削減技術や資源の再利用といった革新的な取り組みを通じて、農業の未来を切り拓こうとしています。イリノイ州で進むこれらの取り組みは、SDGsの「7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」や「13.気候変動に具体的な対策を」に深く関連しています。イリノイ州トウモロコシ委員会のコリン・ワターズ氏にお話を伺い、現地でのトウモロコシ産業の最新事情を取材しました。
イリノイ州の農業基盤とトウモロコシの役割
イリノイ州は、全米第2位のトウモロコシ生産地であり、全米生産量の約15%を占めています。アイオワ州が首位を維持する中、イリノイ州はその規模と効率で他州に劣らない存在感を示しています。この州の農地面積は約2,000万エーカー(約809万ヘクタール)に及び、その多くがトウモロコシと大豆の栽培に利用されています。肥沃な土壌がこの地域の強みであり、少量の肥料で高い生産性を実現しています。また、トウモロコシ生産の効率向上により、収穫量が安定化している点も見逃せません。気候変動による影響を最小限に抑えるために、遺伝子組み換え技術や農業テクノロジーが活用されており、干ばつや洪水といった自然災害にも強い農業体制を構築しています。
生産されたトウモロコシの用途は多岐にわたります。約25%がバイオエタノール製造に使用され、残りは飼料や輸出向けに利用されています。バイオエタノールは、化石燃料に代わる再生可能エネルギーとして世界的に注目されており、イリノイ州はその供給拠点として重要な役割を果たしています。
エタノール生産の鍵を握るトウモロコシ
トウモロコシは、バイオエタノール生産において欠かせない原料として広く活用されています。エタノールは再生可能エネルギーとして注目を集めており、地球温暖化の緩和や化石燃料の代替エネルギーとしての期待が高まっています。その中で、トウモロコシは効率的かつ安定的なエタノール生産を可能にする作物として、世界中で重要な役割を果たしています。
トウモロコシがエタノール生産の原料として選ばれる主な理由は、その高い生産性、多用途性、そして副産物の有効活用にあります。
- 高い生産量と効率性
トウモロコシは、世界中で広く栽培されている主要穀物のひとつであり、特に高い収量を誇ります。1ヘクタールあたりの生産量が多く、バイオエタノールへの加工に適した特性を持っているため、安定的な供給が可能です。これにより、コストを抑えながら効率的にエネルギーを生産することができます。
- デンプン含有量の多さ
トウモロコシには豊富なデンプンが含まれています。このデンプンを糖に変換し、発酵させることでエタノールを生成するプロセスは非常に効率的です。他の原料と比較してもコストパフォーマンスが高く、特にバイオエタノールの大量生産に適しています。
- 副産物の有効活用
トウモロコシを原料とするバイオエタノール生産の過程では、DDGS(Distiller’s Dried Grains with Solublesの略)と呼ばれる副産物が生成されます。これらは家畜飼料として利用されるため、資源を無駄なく活用することができます。この仕組みは、エタノール生産の経済的・環境的効率をさらに高める要素となっています。
そのため、アメリカのエタノール産業では、英語の「ついでにできるもの(副産物)」という意味の「byproduct」ではなく、「同様に重要な生産物(併産物)」という意味の「coproduct」と呼んでいます。


バイオエタノール生産と最新技術
トウモロコシを原料としたバイオエタノール製造では、ドライミリングとウェットミリングの2種類の加工法が採用されています。ドライミリングは燃料エタノールの製造に主に用いられ、ウェットミリングは食品や製薬産業向けの多様な製品製造に適しています。
エタノール製造の過程ではCO2も発生しますが、そのCO2は炭酸飲料や食品冷却用のドライアイスとして再利用されています。また、そのCO2を地下に貯蔵する技術であるCCS(Carbon Capture and Storage)を導入し、大気中への排出を抑える取り組みが進められています。この技術は、気候変動対策を強化すると同時に、トウモロコシ産業が持続可能性を高めるための重要な鍵となっています。
CCS技術は、エタノール製造時に発生するCO2を地下深くの岩層に注入・貯留する仕組みで、大気中の炭素濃度の上昇を抑えることができます。こうした技術革新により、イリノイ州のトウモロコシ産業は環境負荷を軽減しつつ、エネルギー供給の安定性を確保しています。
バイオエタノール燃料の普及と意義
米国では、バイオエタノールを混合したガソリンが一般的に使用されています。特に、ガソリンに10%のバイオエタノールを混合した「E10ガソリン」は、米国内のほぼすべてのガソリンとして普及しています。これに加え、混合率を15%に高めた「E15」や、最大85%のバイオエタノールを含む「E85」なども存在し、地域や用途に応じて利用されています。
E10ガソリンは、エンジン性能を維持しながら化石燃料の使用を削減できるため、環境負荷低減に寄与します。一方、E15やE85は混合率が高くなるほど環境への配慮が強調される一方で、専用のエンジンや車両が必要となる場合があります。このように、バイオエタノール燃料の普及は、持続可能なエネルギー供給の実現に向けた重要な一歩となっています。
経済的インパクトと地域社会への貢献
イリノイ州のトウモロコシ産業は、環境だけでなく経済にも大きな影響を与えています。トウモロコシ生産とエタノール製造を通じて雇用が生まれ、地域経済が活性化しています。また、農家にとってもバイオエタノールは収益性が高く、農産物の量に応じた生産農家からの拠出金であるチェックオフ・プログラムなどの支援により、持続可能な農業への取り組みが促進されています。さらに、イリノイ州から輸出されるトウモロコシは、ミシシッピ川を経由してメキシコ湾を通じ、世界市場へと届けられています。これにより、グローバルな食料供給とエネルギー市場においても重要な位置を占めています。
持続可能な未来への道筋
イリノイ州のトウモロコシ産業は、SDGsの達成に向けた先進的なモデルケースとして、多くの示唆を与えています。肥沃な土壌と最新技術を活用することで、収益性と環境保護の両立を実現しており、この取り組みは他の農業地域にも適用可能な指針となるでしょう。
バイオエタノール燃料の価格面でのメリットや環境負荷削減効果が認知されることで、より多くの人々が持続可能な社会づくりに貢献することが期待されます。
イリノイ州のトウモロコシ産業が示す未来は、イリノイ州のトウモロコシ産業は、持続可能性と経済成長を同時に実現する先進的なモデルです。肥沃な土壌、最新技術の導入、エタノール生産、そしてCCS技術など、多角的な取り組みにより、地域の農業はSDGsの達成に大きく貢献しています。これらの取り組みは、気候変動対策やエネルギー問題解決の一助となるだけでなく、他の農業地域への貴重な教訓を提供します。イリノイ州が描く未来への挑戦は、私たちが目指すべき持続可能な社会の一つの理想形と言えるでしょう。
アイキャッチ画像 コリン・ワターズ氏