「こだわり漁師」の魅力を発信!広島県「瀬戸内さかな」流通強化プロジェクト
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広島県の美味しいものといえば、皆さんは何を思い浮かべますか。今が旬の牡蠣や、生産量日本一のレモンなどがありますよね。海の幸、山の幸、ブランド牛や野菜・柑橘類など、たくさんの魅力的な県産品食材を有する広島県では今、“新たな競り”を通じた「瀬戸内さかな」流通強化プロジェクトに取り組んでいます。今回は、水産業の持続可能性の向上にもつながる取り組みを詳しくみていきましょう。
「瀬戸内さかな」とは
「瀬戸内さかな」とは、瀬戸内海で獲れるさまざまな魚介類を表す総称です。
広島県の海は、瀬戸内海の中でも比較的浅く、干潟や藻場も多いため、いろいろな魚の産卵場所となっており、多くの魚を育む“ゆりかご”とも言われています。
また、複雑な潮の流れや地形・季節によって水温が大きく変わるため、一年を通して四季折々の旬の美味しい魚が豊富に獲れる海域でもあります。寒い今の時期の旬は、牡蠣や寒ヒラメ、コノシロ、シャコなどです。


広島県では2023年5月の「G7広島サミット」の開催をきっかけに「おいしい!広島」プロジェクトが発足しました。広島の食の魅力を国内外に発信し、広島の食のシーンを盛り上げるための本プロジェクトは、「広島が美味しさの宝庫である」というブランドイメージの向上を目指して推進中です。


「瀬戸内さかな」流通強化プロジェクトは、この「おいしい!広島」プロジェクトの一環として実施されている取り組みです。「瀬戸内さかな」のシンボルマークは、魚のフォルムが海流をイメージした12本の線でデザインされていて、1年間12カ月を通して豊かな魚が味わえることを表現しています。
広島の「こだわり漁師」の魅力発信


広島県ならではの食資産「瀬戸内さかな」のブランド化には、ユニークな取り組みがあります。それが「こだわり漁師」の魅力発信です。「こだわり漁師」とは、瀬戸内さかなを獲るために情熱を注ぐ漁師さんのことをいいます。
実は瀬戸内海の魚は、味に定評はあるものの少量多品種の漁場であることや、日々の漁獲量も一定ではないために決まった数量を確保することが難しいことから、水産物のブランド化に苦労してきました。そこで「魚」ではなく、“こだわり漁師”という「人」に焦点を当ててブランド価値を上げようという動きが出てきました。
おいしさの源である漁師のクラフトマンシップ(職人気質)にフォーカスしたこの取り組みは、「新しい競り」の形への挑戦にもつながっています。2023年10月22日には、こだわり漁師を軸とした競りの実証実験の発表や、実証実験の競りに参加するこだわり漁師が獲る「瀬戸内さかな」×県内の熟練料理人による調理プレゼンが実施されました。


10月29日早朝には、広島市中央卸売市場において、魚に「こだわり漁師」の名前や顔が見える特別なブランド札を添える、新たな競りの実証実験が行われました。札内に記載されたQRコードをカメラで読み取ると、“餌が豊富であり良質で美味しい魚が獲れる”などの漁場のこだわりや、“網を曳く時間を短くし魚を傷つけない工夫をしている”などの漁法のこだわり、“魚を新鮮に保つための血抜きや神経締めを行っている”といった取り扱いのこだわりを見ることができる試みも導入しました。
この日は、“内藤さんのサワラ、野村さんのハモ・スズキ・フグ、岡野さんのカワハギ・ウマヅラハギ”などが競りにかけられ、通常相場のおよそ2倍以上の価格で取引されています。


また同日夕方には、広島市内の和食店「かき船 かなわ」で、料理体験会が行われました。早朝に競り落とされた「瀬戸内さかな」は、戸田豊総料理長の手によって調理され、洗練されたコース料理として振る舞われました。そして、カワハギやハモを使った調理デモンストレーションも行われました。


新しい競りの形がもたらす可能性に期待
私は以前、広島県福山市鞆の浦を訪れた際に、お刺身の種類の豊富さと美味しさに感動した思い出があります。見たことも聞いたこともない地の魚を旅先でいただくことは、その土地でしか味わえない贅沢な食体験ですよね。


道の駅などで見る農産物の“生産者の顔”のように、魚介類にも、それを獲った漁師さんの顔が見える取り組みはとてもユニークです。この新たな競りモデルは、瀬戸内の美味しい海の幸がさらに広く飲食店へと流通し、広島県を訪れる国内外の旅行者などが「こだわり漁師の瀬戸内さかな」の魅力に気づくきっかけになるのではないでしょうか。
執筆/フリーライター こだまゆき