私たちが住んでいる家屋をはじめ、日本が誇る歴史的な建築物や文化財の多くは、木で作られています。日本の文化や伝統を支えてきたのは木だと言えるほど、その関係性は密接です。しかしながら、木造建築には常にシロアリ被害に遭うリスクがあることは、忘れてはいけない部分でしょう。定期的なメンテナ ンスが必要とされる中、株式会社アサンテは、「木の文化継承プロジェクト」を発足。果たしてその内容や目的とは?SDGsの視点で、アサンテの「木の文化継承プロジェクト」発足記者発表会の様子などをご紹介していきます。
アサンテってどんな会社?
まずは、今回のプロジェクトを打ち出したアサンテを改めてチェックしていきましょう。この会社は、1970年に三洋消毒社として東京都府中市にて創業しました。以降半世紀以上にわたり、シロアリ対策をはじめとした総合ハウスメンテナンスサービスを提供しています。経営理念である「人と技術を育て、人と家と森を守る」の通り、人々の安全や安心を守りながら、木造家屋の長寿命化を実現。環境保全はもちろん、日本における「木の文化」 を未来へつなぐため、60万軒を超える数多くの実績を残してきました。

丁寧な施工後は、定期的なメンテナンスも行っているとのことです。人にも住まいにも配慮された作業は、SDGsの11つ目の目標である「住み続けられるまちづくりを」と共鳴しているように感じられるのではないでしょうか。
1300年以上の歴史を持つ神田明神で発足し「木の文化継承プロジェクト」
ここからは今回の大きなテーマといえる「木の文化継承プロジェクト」に焦点を当てていきましょう。このプロジェクトは、シロアリが活発に動き出すスウォーム(=群飛)の季節が近づく3月12日に、1300年以上の歴史を持つ神田明神にて、発表会が実施されました。

プロジェクトの成功を願って、神田明神の祈祷からスタート。

その後は、プロジェクトの第1弾として神田明神 隨神門にて、シロアリ探知犬による調査が行われました。この“シロアリ探知犬”という言葉は、あまり聞き馴染みがないかもしれませんが、中古物件を売買する際にシロアリがいるかどうかの検査証明が必要なアメリカでは、数百頭が活躍しているのだとか。
人間が目視でシロアリを見つけようとすると、実際に建物の床下に入らなければいけないところ、彼らは嗅覚だけを武器に、建物を壊さず、建物の外周や床上から被害の有無を探知することができるのが特徴です。なお、アサンテでは、4頭のシロアリ・トコジラミ探知犬が、日々活躍中。この日の実演調査も、ハンドラーとの息がぴったり揃いながら、見事成功させていました。
なぜ今このプロジェクトが必要なのか?
発表会の模様をピックアップしたところで、今一度、実施目的をおさらいしてみたいと思います。それは、アサンテが50年以上培ってきた技術やノウハウを活かして、日本各地の歴史的木造建築や昔から愛される景観を守っていこう、というもの。先ほどお伝えした企業理念とも響き合っていますよね。
さらに、伝統や文化、景観を守ると同時に、シロアリ被害のリスクと対策の重要性を広く啓発していきたいという狙いも秘められているそう。巨大地震発生時の家屋倒壊抑制による減災や、家屋の長寿命化による森林資源伐採の抑制、廃棄物削減で地球環境保護に貢献することを目指しています。


上記の写真は、シロアリ被害を受けた木材の実物です。シロアリの存在自体は理解しつつも、自分事として捉えられる人の割合は、少ないのが実情でしょう。しかし、このような被害の例を目の当たりにすることで、シロアリの話題が身近になる気がします。プロジェクトの認知度が上がっていくとともに、シロアリ防除への関心が芽生えていきそうですね。

また、発表会でアサンテ代表取締役社長・宮内 征氏が語った言葉も印象的でした。誰でも一度は名前を聞いたことがある、京都の桂離宮や、清水寺、奈良の薬師寺の塔などもシロアリの被害に遭い、修復を余儀なくされた過去があるのだそうです。また、本プロジェクトではシロアリ以外の虫による被害についても「木の文化を守る」ことからその対象としています。春の風物詩である「お花見」の名所が、近年生息域を広めている特定外来生物のクビアカツヤカミキリによって被害を受けており、その駆除にも一役買っているそう。
持続可能な社会に向けて不可欠なこと

本プロジェクト発表会の会場や、調査第1弾として今回選ばれた神田明神にも過去の震災・戦争による焼失の被害から再建してきた過去があります。その背景も相まって、持続可能な社会の実現には、文化財や伝統的建造物の保護が不可欠であることが、ひしひしと感じられるはず。
なお、4月6日は「シロアリの日」だそうです。家屋のシロアリ被害のリスクとその対策を、早い段階で知っておくのが重要です。この機会に皆さんも意識してみてはいかがでしょうか?
執筆/フリーライター 黒川すい