TYPICAがコーヒー業界に新たな市場を創出、ダイレクトトレードが守るコーヒーの未来とは?
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皆さんは「コーヒー2050年問題」をご存知でしょうか。この問題は、地球温暖化がもたらす気候変動の影響やコーヒー生産農家の経営難により、2050年までにコーヒーの生産量が大きく減少するかもしれないことを危惧しています。そんな状況を打破するべく、3月26日に開催された「日・ブラジル経済フォーラム」にて締結されたのが、⻑期固定価格によるコーヒー⽣⾖のダイレクトトレードを推進する第一号案件に関する覚書。今回は、2019年に創業したグローバルベンチャー企業、TYPICA Holdings 株式会社(以下、ティピカ)が行う、高品質なコーヒーのサステナビリティを追求するための取り組みについて、チェックしていきましょう。
コーヒー生豆のダイレクトトレードプラットフォーム「ティピカ」
ティピカとは、コーヒー産業を⾰新する「新たな国際コーヒー市場づくり」を主題に展開されているコーヒー生豆のダイレクトトレードプラットフォームのことを指しています。日本、韓国、台湾、オランダ、米国の5カ国に拠点を置きながら、世界95カ国・地域にまたがる約17万軒のコーヒー生産者とロースターのネットワークを構築しているそう。そんなティピカが、コーヒー産業を根本的に革新し、コーヒーのサステナビリティ向上を目指すために行っているのが、今回取り上げるダイレクトトレードの推進です。これにより、先物市場の影響を受けにくい独自の価格決定や取引モデルを追求することが可能に。これを踏まえた上で、続いてはコーヒー業界を取り巻く現状を紹介していきます。
激しく変動するコーヒー生豆の価格
なぜダイレクトトレードを推し進めていく必要があるのか?それは、コーヒー業界を取り巻く現状を見てみると、より深く理解できるでしょう。


まず、これまでの国際的なコーヒー生豆の価格は、先物市場の国際相場に基づいて決められていました。そこには多くの投機マネーが流入していたそうで、過去1年間で見てみると約112%(2倍以上)もの激しい変動に晒されているそう。こうした価格変動の不安定さは、生産者の収入をはじめ、バイヤー側の調達コストの予測や、経営の不確実性にも大きく関わっていくことに。生産者・バイヤーそれぞれの立場で、短期視点で価格の変動に適応することが優先されてしまい、中⻑期的な視点で安定した品質と量のコーヒーを⽣産することが極めて困難な状況に陥ってしまうのです。その結果、消費者向けのコーヒー価格の値上げが各社で続き、コーヒー供給の不安視が引き起こされます。
コーヒー取引の品質と経済性を高め、永続的発展的なコーヒー取引を追求


そこで「日・ブラジル経済フォーラム」にて両国首脳臨席のもとで締結された第一号案件の覚書に改めてご注目です。この第一号案件の覚書には、日本の大手カフェチェーンであるドトールコーヒー、ブラジルでコーヒーの倉庫・品質管理を手がけるACAUA社、同じくブラジルで持続可能な農業向け土壌ソリューションを提供するFertinutri 社がパートナーとして参画しました。今回の覚書締結を起点にしながら、コーヒー取引の品質と経済性を高めることで、永続的発展的なコーヒー取引の追求を目指していくとのこと。
本事業を通じて、バイヤーは品質と調達コストを安定させながら原材料の付加価値を高め、生活者に対して高品質で安定した価格のコーヒーを提供することが期待されています。また、生産者は不安定な市場に依存せず⻑期的に安定した収益を見込むことが可能に。併せて、気候変動対策や品質向上への中⻑期的な投資を計画的に実施できるようになっていくのです。
様々な面で「コーヒー2050年問題」の解決に近づくと同時に、発展途上国の生産者に安定した収入をもたらすことで、国際的な経済格差の是正にも貢献するでしょう。さらに、中間業者を減らし、生産者と消費者を直接つなぐことで公平な利益配分を実現していきます。国や地域を超えた対等なパートナーシップづくりが、不平等の解消に働きかけていくのです。この効果はまさに、「貧困をなくそう」、「人や国の不平等をなくそう」、「パートナーシップで目標を達成しよう」といったSDGsの目標にも関係してきますね。
⽇・ブラジル間で総額1,000億円規模の市場形成を⽬指す
さて、本覚書は約80億円規模で締結されたそうですが、これを皮切りに今後は独⾃のプライシングモデルと新たなエコシステムの構築を目指していく姿勢を見せるティピカ。2030 年までに日本・ブラジル間で10案件を展開し、ダイレクトトレード市場を総額約1,000億円規模にまで拡大していきたいということで、グローバル市場におけるコーヒー取引のサステナビリティの高まりが今後一層期待されるでしょう。これからも今飲んでいるコーヒーを安心して飲める世の中であるように。この業界の動向にアンテナを張っておきたいところです。
執筆/フリーライター・黒川すい