駅近・住宅地にあるオープン・シェア型物流施設「Landport横浜杉田」が“地域と未来を育てる場所”に
この記事に該当する目標


2025年4月、地域協創型物流施設「Landport(ランドポート)※1横浜杉田」が神奈川県横浜市に誕生しました。IHI×野村不動産共同開発※2によって実現した、業界でも類を見ない次世代型の物流施設です。
屋上には物流施設では国内初となるスマート農園が設置され “人と地域の未来を育てる場所”となります。
物流業界の課題である「ポスト2024年問題」※3への最適解を込めた施設であると同時に、歴史文化の継承や防災への備え、地域とのつながり、そして子どもたちの未来を育てるしくみが構築されています。SDGsの視点から、この物流施設の取り組みを紐解きます。
地域に開かれた物流施設が“防災”や“つながり”を育む場へ


物流施設といえば、これまで地域への配慮があまり行き届いていなかったことから、施設周辺での渋滞や事故、24時間稼働による騒音と光害といったトラブルが発生しやすく、「嫌悪施設イメージ」を持つ人も少なくありませんでした。
また、近年、多くのデベロッパーが人手不足や震災国日本の物流網が滞った経験を踏まえ、地域社会との共生を図る「地域共生型の施設開発」に目を向け始めてはいますが、まだカモフラージュ的な地域連携に留まっており、その成功例はごく少数です。


そんな中で竣工した「Landport横浜杉田」は、単なる「物流拠点(輸配送・保管機能)」から、「地域社会のインフラ機能(経済基盤・防災・コミュニティなど)」へと位置づけがアップデートされ、地域に開かれた“オープン・シェア型”の物流施設として設計されました。
施設内には地域住民も利用できるコミュニティスペースが設けられ、2024年12月には横浜市金沢区と防災協定を締結し、地域の防災力向上に貢献する存在へと進化しました。自治体と連携した防災イベントの開催や災害時の津波避難場所としての機能など、物流施設の枠を超えた役割を担っています。
「Landport横浜杉田」が解決する主な6つのSDGs課題


1 都市近郊立地で配送距離の短縮


首都高湾岸線「杉田IC」から約680メートル、横浜港まで約16分という好立地により、神奈川県方面と都内配送にも適した立地で、配送時間や走行距離を削減。
2 マルチテナント型で複数企業が共同利用
繁忙期/閑散期に対応した高効率な倉庫運営。必要最低限の固定賃借坪数を設定し、不足分は立体自動倉庫「オープン・シェア」を活用(最大4,020パレットの保管が可能)。波動に伴う倉庫面積の最適化によるコスト圧縮、作業減によるコスト圧縮、自動倉庫導入に伴う高額投資も不要に。
3 BCP(事業継続計画)に対応した設計
耐震設計や非常用発電機の設置など、災害時も安定して事業継続できる構造・設備を導入。津波避難施設として収容人数1,000名想定。非常用発電機は停電時72時間稼働。防災備蓄倉庫には450名3日分の食料品、生理用品を準備。
4 雇用創出と地域連携
J R駅からも徒歩圏内で、雇用確保に有意な立地。地元雇用の促進、周辺地域との連携による地域活性化を実現。
5 環境配慮型の建物仕様


太陽光発電やLED照明、節水機器を導入。顧客にグリーン電力を提供し、CO2排出実質ゼロを可能に。
6 多様な人材が働きやすい環境整備


施設内にはカフェテリアや広場、無人販売スペース、屋上テラスなど、ワーカーの利便性や快適性を高める設備を整備。また、地域住民が自由に利用できる広場や休憩室が設置され、地域との共生を重視。
梅のまちの誇りを未来へつなぎ、杉田梅の復活と文化保全


この施設のもう一つの特徴は、地域の歴史的シンボルである「杉田梅」を守り、未来へつなげる取り組みです。江戸時代には約3万6千本の梅が咲き誇っていた杉田地域ですが、塩害や宅地化の影響でその数は激減しました。


そこで施設の竣工とともに「杉田梅」の植樹を実施し、文化継承の一歩を踏み出しました。地域の子どもたちが地元の歴史に誇りを持ち、未来の環境保全に関心を持つきっかけとなるこの取り組みは、SDGsのゴール15「陸の豊かさも守ろう」に通じる活動です。
国内初! 物流施設屋上でのスマート農園で野菜を育て、人、未来を育てる


注目したいのは2025年6月に完成予定の屋上スマートコミュニティ農園「Vegestic Farm Yokohama Sugita by grow」です。AIやIoTを活用したスマート農業「growシステム」を活用しながら、都市部での農体験を可能にするこの農園で、企業のワーカー同士の交流や食育ワークショップが行われる予定です。
この菜園は、施設利用者同士がみんなで創りあげていく、共同栽培型です。「所有・専有」という旧来の価値観ではなく、ファーム全体をみんなでシェアし、農的活動の喜びや楽しさを共有できるサードプレイスとなります。
働く人々のワークライフバランスの向上はもちろん、将来的には地域住民も参加可能な場として、世代を超えた交流の場となることが期待されています。ここでもゴール12「つくる責任 つかう責任」やゴール4「質の高い教育をみんなに」など、SDGsの理念が実践されています。
【まとめ】私たちの“暮らしのそば”にあるSDGsのヒント


「物流施設」というと、私たちの生活とは少し離れた場所にあるもの、と思われるかもしれません。
でも、「Landport横浜杉田」が示すように、地域とつながり、自然や文化を守り、人の未来を育てる拠点は、まさにこれからの社会が必要とする新しいかたちです。
防災や環境配慮、雇用創出、そして野菜を育て食育につながる学びの場——すべてがSDGsのゴールにつながり、私たちの“すぐそば”にある未来への希望となります。物流が運ぶのはモノだけではなく、人や地域の想い。それが、次世代型物流施設の新しい価値なのかもしれません。


※1 Landportブランド
2025年時点で、全国各地に34物件を展開。新しい選択を創造する「人と物流の未来をつなぐロジスティクス拠点」。環境配慮・働きやすさ・地域共生を追求し、次世代のサステナブルな物流インフラを提案する、野村不動産の先進的物流施設ブランド。
※2 IHI×野村不動産共同開発
総合物流機器メーカーである株式会社IHI物流産業システムをはじめとしたIHIグループの技術力と、野村不動産が培ってきたカテゴリーマルチ®型物流施設の開発・施設運営によって得られたノウハウおよび最適な物流オペレーションの検証を行う企業間共創プログラム「Techrum(テクラム)」の取り組みの融合により、労働力不足や物流コストの増大を含むサプライチェーン機能の停滞等への課題解決を図る。
※3 ポスト2024年問題
2024年4月の「働き方改革関連法」により、トラックドライバーの時間外労働の上限(年960時間)が適用。ドライバーの健康を守る一方で、運べる荷物の量や距離が制限され、物流の供給力低下やドライバー不足の深刻化、地方の物流崩壊リスク、ネットショッピングや日用品の流通への深刻な影響などから、「物流の効率化」「共同配送の推進」「物流DX」などが進められは、地域と共存する物流拠点の整備や、持続可能な輸送モデルの構築が、SDGsの視点からも重要視されている。
取材・執筆/脇谷美佳子