1日1組限定の一棟宿が兵庫県丹波篠山市にオープン、黒豆の老舗が地域文化の面白さを魅せる
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京都・大阪・神戸の各都市からアクセスしやすい兵庫県丹波篠山市。昔ながらの農村風景や城下町も残るこちらは、観光資源・歴史・文化・自然どれをとっても豊かな街として、近年注目を集めています。
そんな土地で享保19年(1734年)に創業した老舗黒豆専門店が、小田垣商店です。
さて今回取り上げるのは、小田垣商店が2025年5月17日(土)に開業する1日1組限定の一棟宿、
「豆家(まめや)」。黒豆文化の未来への継承、そして地方創生を実現するために作られたというこの
一棟宿を、SDGsの視点で紹介していきます。
様々な取り組みを展開する小田垣商店
まずは改めて、小田垣商店について見ていきましょう。


黒豆専門店として長い歴史を誇る小田垣商店は、特に、大玉丹波黒大豆と丹波大納言小豆にこだわりを持っているそうです。古くから栽培されてきた黒豆や小豆を先人の努力により幾多の選技を繰り返し、今日の大粒で美味な豆に育てあげたのだとか。また、この小田垣商店本店敷地内には、歴史が長いからこそ存在する建築物も。江戸時代後期から大正時代初期の間に建てられた10件もの建物が国の登録有形文化財として登録されているとのこと。


これら建造物の大規模改修を、杉本博司と榊田倫之が主宰する新素材研究所を迎えて2018年より開始。2021年4月には本店ショップがリニューアルオープン。優れた黒豆や小豆の素材をはじめ、こだわりの素材を使用したオリジナル商品や丹波篠山地方で受け継がれる工芸品を展開するショップです。


さらには、黒豆茶や丹波ならではの食材を使ったメニューを提供する「カフェ小田垣豆堂」をオープン。有形文化財を感じながら、くつろぎのひと時が過ごせます。このようにショップやカフェを通して、黒豆の魅力を五感で味わえる小田垣商店ですが、次なる挑戦こそ、1日1組限定の一棟宿、「豆家」と言えるでしょう。
10件の文化財と灯る石庭に包まれ過ごす、一棟宿
本店敷地内にある国の登録有形文化財10件のうち、最後の2件を改修してオープンするのが一棟宿「豆家」。改修された全10件からは、SDGsの11個目の目標である「住み続けられるまちづくりを」が感じられますね。世界の文化遺産や自然遺産を保護し、保っていくための努力として、7棟には共通して過去に戻るような形で修復がほどこされています。“新しいものを足す”という発想ではなく、建築様式に倣った方法で耐震補強を進めているのです。そんな「豆家」のポイントをより詳しく掘り下げていきましょう。


例えば杉本氏が再構築したこちら。陽が落ちた後に姿を現す、灯りに包まれた石庭です。
敷地内中央に存在するここは、黒豆を模した真黒石を敷き詰めた豆道(まめどう)と呼ばれる道と、枯山水、苔庭で形成されています。寝室である2階からは、波を打ったような瓦の連なる美しい眺めが味わえるそう。宿泊者だけが観られる風景に注目です。


また、茶室から石庭を眺めながら楽しめる朝食もポイントの一つ。朝食付きプランの場合、丹波篠山産の黒豆や、山の芋、黒豆味噌といった地元食材を使用した料理を堪能できるんです。器にも気を配っているようで、丹波焼のものが用意されています。黒豆の魅力だけでなく、地域らしさがふんだんに散りばめられていることに気づかされます。さらに洋間を改修したラウンジには、ミニバーも備えられているのだとか。地元産のクラフトビールや、日本酒、ソフトドリンクなどが備えられており、丹波篠山の食文化が常に身近にあることが感じられそうです。


ここまでで見てきたようにこの空間では、ゆっくりとくつろぎながら、黒豆栽培が盛んな丹波篠山の文化を全身で堪能できるよう作り込まれています。客室や石庭、提供される料理だけでなく、黒豆茶づくりや丹波焼陶芸体験といった「マメに暮らす」体験オプションまで用意されているので、能動的に地域の魅力に浸れることはず。この一棟宿をはじめ、ショップ、カフェと様々な取り組みを展開し続ける小田垣商店の姿勢は、地域文化の継承と観光業の持続可能な発展にも大きく繋がることでしょう。老朽化によって全国の登録有形文化財が相次ぎ解体される中、有形文化財を改修し再活用するこれらの試みは、SDGsの8つ目の目標が掲げる「働きがいも経済成長も」の実践でもあります。
多彩な資源を発信して持続可能な観光モデルを確立する
小田垣商店のほかにも、豊かな自然や歴史的な街並み、伝統文化に食文化というように丹波篠山市の魅力を知る機会はまだまだたくさん。


2025年大阪・関西万博をきっかけに、オール市民参加で行われる「丹波篠山国際博―日本の美しい農村、未来へ―」など、全員で持続可能なまちづくりの推進を意識しているようです。今回ピックアップした小田垣商店の取り組みはもちろん、街一丸となって地域の魅力を発信することで、訪れる観光客の数が増加しているという丹波篠山エリア。この成功例が、他の自治体や地域企業にも波及していくことで、全国各地の地域資源が新たな形で息を吹き返し、持続可能な地域創生のヒントとなっていくかもしれません。
執筆/フリーライター・黒川すい