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創業160年の企業の女性初のCEOに。母になってもキャリアを積める働き方を。


この記事に該当する目標
5 ジェンダー平等を実現しよう
創業160年の企業の女性初のCEOに。母になってもキャリアを積める働き方を。

フランスのシュレンヌに本社を構え、現在130以上の国と地域で愛される「キリ」、「ベルキューブ」、「ブルサン」のチーズブランドを手がけるベル社。セシル・ベリオ=ジンドは、160年の歴史を持つ家族経営の会社での初めて女性CEOであり、創業家以外から任命された2人目の経営者です。彼女は一体どのようにキャリアを築いてきたのでしょう?仕事への思い、女性CEOになるまでの経緯、女性ならではの働き方など、いろんな話を伺ってきました。

働く女性やマイノリティのロールモデルに

私のキャリアのスタートは、アメリカのクラフト・フーズ(現在のモンデリーズ・インターナショナル)からスタートし、その後、フランス・パリに本社を置き、ヨーグルトやシリアル食品などを製造販売するダノンで17年間勤務していました。なぜ食品会社を選んだかというと、私が若い頃から社会学や心理学といった人文学が大好きなことと関係しています。マーケティングの勉強もしていたのですが、マーケティングは人々の日々の暮らしや行動とも関わっていて、食べることとも繋がっていると感じたからです。
私は自分の仕事にとても生きがいを感じました。人々の健康に役立つ商品を世の中に送り出すこと、そして食品を通じて水不足の問題など地球の健康を守ることに意義を感じたからです。

ダノンを辞めてベルで働くことにしたのは、「世界中のすべての消費者に、より多くの場所で、より多くの瞬間に、より健康的で責任あるアクセス可能な食品を促進したい」という思いに共感したからです。また、家族経営で160年間やってきた会社ですが、長期的なビジョンをきちんと持ち、戦略を決めるときには「次の世代に対して良いことをしていこう」と、サスティナビリティを考えながら実行に移していく。そんな理念にも魅かれて、最初は副CEOとなり、戦略立案、グローバル市場、改革の推進などいろんなカテゴリーの業務を担当しました。フランスだけでなくベルギー、ロシアなど海外のいろいろな文化に触れることができました。また、5代目会長であるアントワーヌ・フィエヴェと、会社をより持続可能かつ責任ある経営モデルへと変革する取り組みを主導しました。このような取り組みをしっかりとおこなったことが評価され、CEOに選ばれたのだと思います。

CEOになって驚いたのは、世界中の女性からメッセージが届いたこと。「女性初のCEOを誇りに思います」、「女性として家族を持ちながらリーダーとして責任を果たすことを示してくれている」など、その多くが、ロールモデルになってくれてありがとうという内容です。意外なことに、メッセージはベトナムやモロッコ籍の男性からも届きました。フランスでは大企業120社のうち、女性のCEOはたった10%しかいないので、私はマイノリティな存在です。でも、「マイノリティでも企業のトップポジションに就くことができる」、「家族経営の会社で、女性で、しかも家族以外の人がCEOになれるなら、自分もエグゼクティブコミュニティに入るチャンスがあるのではないか」そんな風に思ってくれる人がいることにもビックリしました。

母親になってもキャリアは積める

ベル ジャポンでは、2024年から日本女性のウェルビーイングを支援する活動を始めていますが、多くの女性たちに愛されてきたブランドとして、女性にやさしい社会を作りたい。そんな思いで、「ウーマンエンパワーメント」にも力を入れて取り組んでいます。私たちが大切にしたいのは、みんなが良い状態を保ちながら成長できる職場。日本でも出生率が下がって大きな問題ですが、出産すると仕事から身を引かなければいけない、キャリアを諦めなければいけない風潮になっています。でも、それは正しくない。
母親もキャリアを積むことができるし、それが女性のエンパワーメントとなり、個人や会社の成長、仕事の効率やクリエイティビティの向上にも繋がるはずです。そのために、家族と向き合う時間を増やすためにフレキシブルに勤務時間が選べる仕組みや、交渉力を鍛え、自己肯定感を上げるためのトレーニングプログラムを提供しています。
例えば新しい仕事の募集があったとき、男性だと要項が60%くらいしか自分にフィットしていなくても応募するのですが、女性の場合は90%くらいでないと不安で応募しないのだそうです。でも、完璧である必要はなく、自分が充分だと思えたらいい。交渉することも苦手と感じる女性が多いけれど、プログラムを体験することで自信をつけてくれるよう願っています。私自身、4人の子どもの母親ですし、仕事以外に家事や育児を抱えています。でも、どれも完璧にやり遂げる必要はありません。完全な母、完全な妻、完全な仕事でなくてもいいのだと伝えたいですね。

私はダノン時代に、女性のエンパワーメントプログラムを受けて、「PINが大事」という非常に良いアドバイスをもらいました。携帯電話のPINコードのPINですが、Pはパフォーマンス、Iはイメージ、Nはネットワークを指しています。女性はPのパフォーマンスに集中しがちで、がんばってすごい成果を出したら上司にも認められて昇進できると考えてしまう。でも、現実はそうじゃないんです。Pだけ秀でていてもダメで、ディレクターやマネージャーレベルになると、自分が会社やほかの人たちにもしっかり認知されているかが大事になる。そして、ネットワークも必要になってくるので、男性は仕事帰りにバーでお酒を楽しむなど、社外でネットワークを築くことも多いでしょう。でも、私はそういう場には行くことがなく、仕事が終わると早く家に帰って、子ども達と過ごす時間を持つようにしています。
ネットワークを築く方法もたくさんあって、朝食やランチを共に楽しむことで、チーム外の人々と交流を深めることができます。自分がどこに時間を使いたいか、何をすべきかを意識して、自分なりのTO DOリストを作る。そうすることで、家事や育児などいろんなものを背負いながらも、仕事のキャリアも築けると思います。


取材・執筆/西村円香