• トップ
  • 記事一覧
  • 高専生の技術がSDGsを実現――DCON2026で示された、インフラ・防災・介護などの社会課題を変革するディープラーニングの可能性
SHOW CASE

高専生の技術がSDGsを実現――DCON2026で示された、インフラ・防災・介護などの社会課題を変革するディープラーニングの可能性


この記事に該当する目標
4 質の高い教育をみんなに 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
高専生の技術がSDGsを実現――DCON2026で示された、インフラ・防災・介護などの社会課題を変革するディープラーニングの可能性

SDGsが掲げる誰一人取り残さない持続可能な社会を実現するためには、さまざまな社会課題の解決が必須。全国の高専生たちのみずみずしい視点が、東京・渋谷に集いました。

2026年5月8日(金)から9日(土)にかけて、「第7回 全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2026(DCON2026)」の本選が東京・渋谷ヒカリエにて開催されました。今回は全国から91チーム/119作品という過去最多の応募が寄せられ、本選には10チームが出場。学生と侮れない視点のさまざまなプロジェクトが一堂に会し、大きな盛り上がりを見せました。

「企業評価額」で測る、高専生の技術とビジネスの可能性

DCONは、高等専門学校(高専)で培った「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を掛け合わせ、社会課題を解決する事業アイデアの価値を競うコンテストです。ディープラーニングとは、人間の脳の神経回路を模したネットワークを多層に重ねて、膨大なデータから特徴を自動的に学習する機械学習手法で、生成AIの基盤技術として高い精度で複雑なパターンを認識することができます。

コンテストの最大の特徴は、審査員であるベンチャーキャピタリスト(VC)が、各チームの提案を「企業評価額」として算出する点です。学生のアイデアを教育的な視点だけで評価するのではなく、実際の市場における「事業性」という尺度で測る、極めて実践的なビジネスコンテストとなっています。本選は8日に技術審査、9日にプレゼン審査が実施され、技術の新規性や信頼性などから審査員が企業評価額を算定し、最優秀賞や大臣賞などの各賞が決定されます。

わずか10分の真剣勝負。技術の深掘りとプレゼン審査を経て決定した栄冠

8日の技術審査では、技術審査員3名が技術力にフォーカスした審査が行われました。審査員ひとりずつに対し、「実機デモ・技術説明5分」「質疑5分」のわずか10分間で、技術について伝え、容赦ない質問に正面から向き合います。審査開始前、各チームの学生らは技術説明の練習をしたり、デモの練習をしたりする声が聞こえ、にぎやかながらも会場には緊張感が漂っていました。

それいけ!運搬マン/Nego Delivery(仙台高等専門学校 広瀬キャンパス)の技術審査の様子

学生らは、スライド資料を使った技術説明や、実際の機器を使ったデモンストレーションで、審査員にプロジェクトの意義や特性を提示します。学生らは社会にどんな課題があり、提案するプロジェクトによってその課題がどのように解決されるのか、どのような技術を用いているのかなどを、短い時間の中で必死に伝えていました。

mAIzuru/ことの葉(舞鶴工業高等専門学校)の技術審査の様子

審査員からは、競合他社との差別化はどこにあるのか、選択しているAI技術についてなぜそれを選んだのか、考えうるトラブルについてどのように対処できるのかなど、厳しい質問が飛びます。時には思いがけない質問に口ごもってしまう場面もありましたが、どの学生も真摯に回答している姿が印象的でした。

9日には、音楽クリエイターのヒャダインさん、フリーアナウンサーで高専卒業生の佐竹美希さんをMCに、プレゼンテーション審査が行われました。審査をするのは、日本のスタートアップシーンを牽引する5人の審査員。この審査の模様は会場だけでなくライブストリーミング中継。多くの人がリアルタイムでプレゼンテーションを見守りました。

最優秀賞に輝いたのは、豊田工業高等専門学校「Kanro AI」が手掛けた、下水道自動点検ロボット「Pipe Eye」です。企業評価額は5億6000万円でした。

豊田工業高等専門学校「Kanro AI」によるプレゼンテーション

現在、日本の下水道管は老朽化が進んでいます。道路陥没事故なども記憶に新しいところですが、10年後には21%、30年後には70%の下水道管が劣化下水道管になってしまう見込みです。しかしながら、9割の下水道管は人が入れる大きさではなく、小型ロボットを手動で何時間も操作して点検を行っています。さらに、紙での報告書作成、映像のDVD保存など事務処理も煩雑で、保存された資料を検索することもままならない状態だといいます。「Pipe Eye」はAIと専門技術により、完全自動走行で異常をリアルタイム検知。異常があった部分だけ徐行して3Dモデル映像を記録します。さらに、報告書の作成までを自動化することができるため、省人化、省力化が見込めます。豊田市や発注・点検企業などと共同開発し、実証実験も行いました。また、下水道管の点検は距離に応じて売り上げが積みあがる仕組みのため、省人省力化によってコスト削減した部分を売り上げとすることで、点検距離を稼げば稼ぐほど利益を得られる仕組みだとし、ビジネスにおける利潤追求についても明確にしました。また競合他社との比較、大手民間委託業者との協業、市場予測などについても言及。日本の水インフラを守る、という力強い言葉でプレゼンを締めくくりました。

審査員からの「海外にも同様の技術はあるが、差別化は?」との質問には、「リアルタイム画像認識は世界初。また、報告書作成もワンクリックで行えるのは最速だと考えています」と回答し、優位性をアピール。このほか、対応する下水管のサイズや、ハードウェアについてなど、活発な質問が寄せられました。

沖縄工業高等専門学校「Rewave」(左)と「Seesar Labs」によるプレゼンテーション

2位の沖縄工業高等専門学校「Rewave」が獲得。災害時の通信途絶を防ぐ「通信の空白地帯を消す!AIで被災地を可視化する災害デバイス『アドフォン』」を開発。既存のスマホを親機とし、AIが電波状況を判断してメッシュネットワークを自動構築します。基地局がダウンした過酷な環境下でも、避難者の位置特定や安否確認を可能にする「命に直結する技術」に、高い期待が寄せられました。

3位も沖縄勢で、沖縄工業高等専門学校「Seesar Labs」は、初期消火プラットフォーム「HIKES」を提案。首里城焼失の悲劇を繰り返さないという強い決意から、AIカメラによる炎の検知と自動放水銃を連動させ、消防到着前の「空白の5分」を埋めるロボットを提案しました。文化財保護のみならず、林野火災などへの展開も見据えた実装力が評価されました。

このほか、大臣賞や企業賞なども発表。舞鶴工業高等専門学校「mAIzuru」の盆栽に感情を与えるAIプロジェクト「ことの葉」が5賞を受賞するなど、上位を逃したチームも大きな注目を集めていました。

コンテストを通過点に社会実装へ。若き才能が拓く未来の産業基盤

また、ホールとホールをつなぐコリドーエリアでは、惜しくも本選を逃したチームなどによる特別展示が行われました。今回からは、二次審査を通過できなかったチームを対象に、新たに「特別展示賞」「オーディエンス賞」を新設。特別展示賞は6チーム、オーディエンス賞は4チームが受賞し、惜しくも本選を逃したチームの中にも素晴らしいプロジェクトがたくさんあることがうかがえます。コリドーでは多くの人が学生たちのアイデアに感心しながら展示を見ており、また、学生たちも他チームの発想に大きな刺激を受けている様子でした。

コリドーでの特別展示の様子

審査を終えた松尾豊DCON実行委員長は「技術もプレゼンも大変すばらしいものでした。スタートアップというのは実際にプロダクトを作り、それが初めて社会で成功して価値になる。ぜひ実際の社会でチャレンジしていただければ」と述べ、若者たちの大きな飛躍に期待を寄せました。

松尾豊DCON実行委員長

高専生たちが示したのは、高度な技術力だけでなく、社会課題を解決したいという強い意志。社会実装まで見込んだその新しい技術やアイデアは、持続可能な都市づくりや未来の産業基盤構築に直結しています。その歩みは、SDGsの理念を具現化する確かな礎となってくれるはずです。

本選出場チームと順位、各賞の受賞詳細

【順位、賞】
■チーム名/プロジェクト名(学校名)

【最優秀賞】企業評価額:5億6000万円、【フソウ賞】
■Kanro AI/Pipe Eye(豊田工業高等専門学校)
カメラとリアルタイム画像認識により臨機応変な対応とフィードバックが可能な下水道自動点検ロボット

【2位】企業評価額:4億円、【経済産業大臣賞】【セブン銀行賞】
■Rewave/通信の空白地帯を消す!AIで被災地を可視化するデバイス「アドフォン」(沖縄工業高等専門学校)
4G/5G圏外でもスマホを使ってアドホックネットワークを構築する次世代防災通信システム

【3位】企業評価額:3億円、【トピー工業賞】【アイング賞】【千代田化工建設賞】【ビズリーチ賞】
■Seesar Labs/HIKES(沖縄工業高等専門学校)
AIカメラと地上走行型ロボットを用いた、初期消火特化型の次世代消防プラットフォーム

【4位】企業評価額:2億4000万円、【文部科学大臣賞】【トヨタ自動車賞】
■codell/KiDUKi(神山まるごと高等専門学校)
ARグラスとAI技術を活用し、介護現場で必要となる情報を職員に提示する情報支援ツール

【5位】企業評価額:3000万円、【NECソリューションイノベータ賞】【三菱電機エンジニアリング賞】
■SOUTA/Gourmeet(沼津工業高等専門学校)
AIカメラを活用して飲食店の空席状況や客層、滞在時間をリアルタイムで可視化、店舗経営の時間を削減

【6位】企業評価額:2700万円、【農林水産大臣賞】【アクセスネット賞】【ポーラメディカル賞】【ソフトバンク賞】【ミダスキャピタル賞】
■mAIzuru/ことの葉(舞鶴工業高等専門学校)
リアルタイム環境監視とAIによる会話で盆栽に感情を与えるAI搭載の次世代IoTデバイス

【7位】企業評価額:1500万円、【Quick賞】
■それいけ!運搬マン/Nego Delivery(仙台高等専門学校 広瀬キャンパス)
AIと自動配送ロボットによるマンション配送に着目した次世代配達システム

【8位】企業評価額:1000万円、【日本電技賞】
■Atelier-I/あゆみ(久留米工業高等専門学校)
視野狭窄で外出に不安を抱える高齢者の歩行を支えるAI搭載のシルバーカー

【9位】企業評価額:-、【NGK賞】【村田製作所賞】
■Omoide.lab/VocaSense~声の揺らぎが知らせる認知症のサイン~(沖縄工業高等専門学校)
AIが言語と音響を分析し、日常会話から認知症の進行度を可視化するデバイス

【10位】企業評価額:-、■超音サンマ/Pulsar(釧路工業高等専門学校)
超音波フェーズドアレイとAIを融合し、指向性スピーカー、音響ジャミングなど多様な応用を実現する音響プラットフォーム

※以下の賞は本選出場を逃したチームから選出

【特別展示賞】
NeuroLogic/IntelliTorque(釧路工業高等専門学校)
Innodroid/Vetra(一関工業高等専門学校)
アニマルセーフAI/びみとん(沼津工業高等専門学校)
NAKAHI.lab/RelaNeck(沖縄工業高等専門学校)
th.ai/EfficientCool(タイ高等専門学校 KOSEN-KMITL)
DEEPression/サインゴ(SignGo)(タイ高等専門学校 KOSEN-KMITL)

【オーディエンス賞】
NeuroLogic/IntelliTorque(釧路工業高等専門学校)
ぐんまちゃん/Dr.Cube -思考を止めない、発想支援ツール-(群馬工業高等専門学校)
アニマルセーフAI/びみとん(沼津工業高等専門学校)
KAUELU/Shoppy(神山まるごと高等専門学校)


執筆/ライター:宮崎新之