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インバウンド格差と地方衰退を救う、戸狩温泉スキー場が挑む「地域共生モデル」


この記事に該当する目標
8 働きがいも経済成長も 11 住み続けられるまちづくりを
インバウンド格差と地方衰退を救う、戸狩温泉スキー場が挑む「地域共生モデル」

長野県飯山市に位置する戸狩温泉スキー場が、インバウンド格差と地方衰退という課題に対し、「地域共生モデル」という新たな解決策を打ち出そうとしています。
日本のスノーリゾートは、高品質なパウダースノーを求める訪日外国人により活況を呈しています。しかしその一方で、一部のリゾート地では地価や物価が高騰し、地元住民の生活を圧迫するなどの「バブル化の歪み」が顕在化しています。このような状況下で、同スキー場はあえて大規模なホテルを建設せず、地域全体に経済効果をもたらす持続可能なリゾートのあり方を模索しています。

戸狩温泉スキー場のゲレンデで滑走するスキーヤー

なぜ今、このような新しいリゾートモデルが必要なのでしょうか。近年、スキーやスノーボード人口が減少する中で、日本の雪は“Japow”と称され、世界中から注目を集めています。ニセコや白馬では、莫大な資本を投じた外資系ホテルがインバウンド需要を取り込み多くのリゾートが賑わいを取り戻す一方で、大型リゾート施設内で利益が完結してしまい、周辺地域に経済的な恩恵が行き渡らない構造的な問題が生じています。

戸狩温泉スキー場がある飯山市も、かつては民宿の集合体で成り立っていた歴史あるスキー場ですが、観光客の減少や建物の老朽化などにより、現在では民宿の数が大幅に減少しています。このような地域の宿泊施設が減少傾向にある状況を打開するために同スキー場が選んだのは、地域と競合するのではなく、支え合う関係性を築くことでした。

具体的な施策として、スキー場内に自社ホテルをあえて新設しないという選択をしています。ゲレンデの大規模なリニューアルや、長野県初上陸となる有名飲食ブランドの誘致によって来場者を増やし、宿泊は周辺の既存の民宿や、古くなった施設をリニューアルし、利用してもらうという循環をつくり出しています。これにより、地域の宿泊施設や飲食店に利益が還元され、事業者自身が再投資を行える環境の構築を目指しています。

さらに、2026年12月には、アジア初となる完全会員制ゲレンデ「The CLUB TOGARI」のオープンが予定されています。富裕層向けの会員制ビジネスによって強固な収益基盤を確立し、その利益を地域に還元することで、一般ゲレンデのリフト料金を据え置き、地域住民やこれまで足を運んでいた人々が手軽にスキーを楽しめる環境を維持する方針です。これらの取り組みは、単なるスキー場の再生にとどまらず、地域全体を持続可能な観光地へと変えるための挑戦と言えます。

「The CLUB TOGARI」の会員のみが利用可能な「クラブハウスラウンジ」のイメージ

このプロジェクトで特筆すべき点は、すべてを自社施設内で完結させる開発手法とは異なり、地域の文化やアイデンティティを尊重していることです。特定の施設のみに利益が集中する構造は、地域経済全体への波及効果が限定的になるケースも見受けられます。しかし、戸狩温泉スキー場の取り組みは、地域の民宿を一つの大きなリゾートの宿泊施設と見立て、スキー場をハブとして街全体で来場者をもてなすという、地域全体を巻き込んだ共創的なアプローチをとっています。

また、スキー目的以外の来場者を呼び込むために、人気焼肉店などを誘致したことも重要なポイントです。地産地消を取り入れたメニュー展開は、地域の食の魅力を伝える発信源にもなります。外資主導型の開発が拡大する中で、地元資本と外部の知見が融合し、地域主導で誇りを持って育てていくスノーリゾートの形は、全国の同じような課題を抱える地方都市にとって、希望の光となるはずです。

「焼肉ドラゴン」で提供されている「信州プレミアム牛 赤身のグリル」

インバウンドの増加という好機を、一部の企業だけでなく地域全体で分かち合う戸狩温泉スキー場の挑戦は、これからの資本主義やリゾートビジネスのあり方に新たな選択肢を提示しています。合理的な会員制ビジネスと、地域に寄り添う「地域共生」という哲学の融合は、オーバーツーリズムや地方衰退といった課題に対する一つの答えとなるかもしれません。この雪山から始まる変革が、持続可能で豊かな地域社会を築くためのモデルケースとなることが期待されます。