インティマシーコーディネーター浅田智穂さんに聞く 作品づくりにおける「新たな仕事」の意義と重要性 ~後編~
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パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。6月9日の放送では前回に続き、日本では数少ないインティマシーコーディネーターとして活躍する浅田智穂さんに話を聞いた。今回のテーマは「映画業界とジェンダー」。日本の映画業界の現状と未来に迫る内容となった。
圧倒的に少ない女性監督
前回の放送では、インティマシーコーディネーターという仕事そのものについて浅田さんに話を聞いたが、今回のテーマは「映画業界とジェンダー」の問題について。新内さんが「『国際女性デー』の時に私自身、知って衝撃的だった」と明かしたのが「日本の映画業界のジェンダーギャップ」だった。
新内 「Yahoo!で、さまざまなジェンダーに関する記事をクイズで紹介する中で『映画業界とジェンダーのクイズ』というものがありまして、『興行収入10億円以上の実写邦画で女性監督の割合は?』という問題で、なんと3%ということを知ったんです」
浅田 「数字で聞くと本当にびっくりしますよね。3%って、本当に0みたいなものですよね(笑)」
新内 「100人いて、やっと3人ってことですもんね。『ジャパニーズ・フィルム・プロジェクト(JFP)』の調査によると、2000年から2020年に劇場公開された796本のうち、女性監督による映画は、のべ25本で、3.1%なんです。2021年の興行収入10億円以上の実写映画16本のうち、女性監督の作品は何と0!」
浅田 「はい」
新内 「2022年当時、過去4年間で大手4社の劇場公開作品の女性監督は20人に1人ということなので極めて低い数字だと思うんですけども、これが単純に50%になればいいというお話では全然なくて、このジェンダーギャップというものが、たぶん問題だと思うんです」
浅田 「そうですね、はい」
新内 「この辺りは実際に現場に行って感じたりとかしますか。『女性監督、少ないな』みたいな」
浅田 「そうですね。私も今まで4年間、インティマシーコーディネートをさせていただいた作品に、やっぱり女性監督のものは圧倒的に少ないので、もうそれはすごく顕著だというのは、数字にも表れているんですけれども、じゃあそこに私が何をできるかっていうと、インティマシーコーディネーターという立場でいけば、やはり作品を良くしていく、キャスト、スタッフの人権を守り、いい作品をつくっていくっていうところなんですけれども、私が女性で結婚していて、子供がいて、子育てをしているという立場でいくと、やはり映像業界はとても女性にとって働きづらいところだと思うんですね」
新内 「はい」
浅田 「女性監督の少なさっていうのは、正直スタッフよりも少ないと私は思っているので、映像業界がいかに男性社会なのかなっていうところが、まずあるなと思います」
新内 「確かに男性社会っていうのは、すごく感じるからこそ、変えていかないといけないなっていう動きも世間的にあるじゃないですか」
浅田 「はい」
新内 「でも、何か変わらないんじゃないかなって思ってしまう部分もあるんですよ」
浅田 「いや、変えていきましょう! 変えていきましょう!」
新内 「かっこいい!」
浅田 「いや、本当に、やっぱり少しずつでも変えていかなければいけない中、私はインティマシーコーディネーターという仕事でできることしかできないんですけれども、ちょっとずつ、みんなが頑張って変えていければいいなって思っているんです。『ジェンダーギャップ』はもちろん、映画業界は、そもそもの労働環境というのが良くないんです」
新内 「はい」
浅田 「長時間労働であったり、休みがなかったり、低賃金であったり、本当に労働環境としては全然良くないので、そこもやっぱり女性が少ないことにつながるのかなと思います」
新内 「いろんな問題が複雑に絡み合って成り立っているふうに見えている、とは思うんですけども、その複雑に絡み合っているものを一個ずつ紐解いていけば不可能なものではないということですものね
浅田 「そうですね。そう思います」
インティマシーコーディネーターの養成も
新内 「でも、インティマシーコーディネーターという職業は今まで注目されていなかったというか、何かおざなりになっていたところを整えてくれているということじゃないですか」
浅田 「そうですね」
新内 「それは結構大きな一歩だと私は思っていて、どうにか増えないものですかね」
浅田 「現状、私が知っている限り、資格を保持しているインティマシーコーディネーターは日本に2名なんですけれども、私が資格を取ったインティマシー・プロフェッショナルズ・アソシエーションという団体とライセンス契約をして今、日本で教えているんです。今、2名の方のトレーニングをしていて、その方々のトレーニングが終わって、秋ぐらいからお仕事を一緒にできるんじゃないかなと思っています」
新内 「すごい! じゃあ、これから増えていくということですよね」
浅田 「そうですね。少しずつ増やしていけたらなと思っています」
新内 「実際に、講師もされているんですか」
浅田 「そうなんです。私が教えているんです(笑)」
新内 「忙しすぎません!? だって現場にも出て、インティマシーコーディネーターのお仕事もしていて、講師として生徒を教えている」
浅田 「今、頑張って少しずつ増やして、と思っています」
新内 「すごい! トレーニングっていうと、どういったことをされているんですか」
浅田 「ちょうど先週ぐらいから台本を読み解くというのをやっているんですけど」
新内 「そうか、その力も必要ですもんね」
浅田 「そうですね。その前は同意であったり、LGBTQ、セクシャリティ、ハラスメント、トラウマ、そういった基本的な知識をまずつけて、そこが今大体終わってきて実践に入ってきました」
新内 「着実に、本当に育成が進んでいる」
浅田 「そうです!」
新内 「この業界に私もいるので、こういうお仕事って増えていくと思いますし、今まで整っていなかった部分がどんどん整っていくのかなっていう期待も込めて、すごく応援しています!」
浅田 「ありがとうございます!」
新内 「結構、こういう世界って労働時間が長かったりとかっていうのはあったりするじゃないですか。でも、そこもきっと昔よりは整ってきている…そうでもなさそう?」
浅田 「どうかな〜」
新内 「(笑)そうでもなさそう!」
2人 「(笑)」
新内 「でも、コンプライアンスとか叫ばれているじゃないですか」
浅田 「そうですね」
新内 「なのに、変えられないというか変わっていかないみたいな原因みないなものを感じたりしますか」
浅田 「そうですね。本当に、それはいろいろな要因があると思うんです。フリーランスの人が多かったりとか、現実として低予算でいい作品ができてしまったりしているので、それができるとまたそれでもできるって」
新内 「あ〜、そうか」
浅田 「別に、低予算が悪いとかそういうことを言っているんじゃないんですけども、やはり苦労がある中でいい作品ができると、それがモデルになってしまって、その状況がなかなか改善されないとか…」
新内 「確かに、この場が円滑に進むんだったら、ちょっと頑張れちゃうみたいな時、ありますもんね
浅田 「そうなんです。そこがやはり日本人の美徳といいますか、まあ頑張ってしまうんですよね、皆さん」
新内 「何でそんなにこの業界といいますか、男性が多いんですかね」
浅田 「女性のスタッフでいきますと、そもそもいろいろな形で、いろいろな理由で皆さん、男女関係なく辞めていかれる中、技師と呼ばれる照明技師や撮影監督、それぞれの部署のトップの方々に女性で活躍している方がすごく少ないんですね。そうすると、そもそも目指すロールモデルみたいなものが少なくて、自分がキャリア形成をしていく中で、先があまり見えないというのが一つある気がしています。それプラス、先程も申し上げた通り労働環境がすごく悪いので、特に女性はライフステージのことを考えると、自分が出産、育児などで、少し休んで戻った時には、後輩だった人たちが自分より上にいたりとか、そういうのってやっぱりやりづらいと思うんですよね」
新内 「うーん」
浅田 「そもそも自分が戻れるかどうかも分からない。そうなってくると、すごく続けにくい職業なのかなと思います」
新内 「そうなんですね。確かにロールモデルがいないっていうのは、目指し方が分からない」
浅田 「そうですね。自分と似た環境とか、そういうのがすごく見つけづらいのかなと思います」
大事なのは相手の立場に立って考えること
新内 「ちょっとの我慢とか、ちょっとのアレが絡み合って成り立っているっていうのをすごく感じるんですけども、こういう状況、それこそジェンダーの問題とかもそうですけども、海外では日本と違ったりするんですか」
浅田 「ちょっと私も勉強不足で何とも言えないところもあるのですが、日本は極端に女性スタッフが少ないと思うんですね。それは、もう単純に日本そのもののジェンダーギャップと映像業界のジェンダーギャップというところがすごく遅れているんだと思うんですね。そもそもの考え方の差もありますし、まだまだ気づけていないことが多いのかなと思います」
新内 「そもそもインティマシーコーディネーターに就いている人は、男性と女性でどちらが多いというのはあるんですか」
浅田 「それは、やっぱり女性が多いです」
新内 「そうなんですね」
浅田 「ただ、それは私たちインティマシーコーディネーターが考えるヌードというのが、水着で隠れているところを露出する時にヌードなんですね」
新内 「ほう!」
浅田 「そうすると、男性の場合、上半身はヌードとされないんですよ」
新内 「そうなんですね」
浅田 「はい。そうなると、少しケアが多いのが女性なので、女性のインティマシーコーディネーターが多いというのは、まあ必然というか、自然なことだなとは思うんです。でも、男性もいますし、今、私がトレーニングしている2人の中の1人も男性です」
新内 「そうなんですね。お話し合いの中で、私は女性も言いにくいことを言えたりする安心な存在だと思うんですけども、男性も実は…」
浅田 「もう、まさにその通りです」
新内 「僕、実はそんなに肌の露出をしたくないんだけどっていう方も、たぶんいらっしゃると思うんですよ」
浅田 「はい」
新内 「って考えると、やっぱり男性も必要になってくるのかなと思います」
浅田 「もちろんです」
新内 「そういうのを汲み取れる人が増えていくっていうのはすごく素敵ですよね」
浅田 「そうですね。ありがとうございます。インティマシーコーディネーターって、どうしても女優を守るというふうに思われがちなんですけども、そこは本当にジェンダー関係なく、男性の俳優も女性の俳優もきちんと守っていくということは、大事にしています」
新内さんは番組の最後に恒例の質問「今私たちにできること=未来への提言」を聞いた。
浅田 「私は相手の立場になって考えるということをとても大切にしています。このインティマシーコーディネーターという立場で作品に入る時、やっぱり監督の思いというのがあって、俳優の皆さんもさまざまな想いを抱えられていると思うので、それを本当に一人一人の相手の立場になって考えることで出てくる答えもありますし、それこそ監督も俳優の立場、俳優も監督の立場を考えれば、私はいろいろなことが解決するんじゃないかなと思っています」
新内 「確かに、これができないから違う人ってなるのって結構悲しいし、寂しいことなんですよね」
浅田 「寂しいと思います。うん」
新内 「だから、この人とこのチームでやりたいってなったら、その中で考えを巡らせるっていうのが、すごく素敵だなと思うので、そうしたプラスのエネルギーといいますか、いい雰囲気で作品をつくれる環境というのが整っていくと、より素敵になっていくんじゃないかなと思います」
浅田 「そうですね」
新内 「今週のゲスト、浅田智穂さんでした。ありがとうございます」
浅田 「ありがとうございました」
映画業界とジェンダー問題について、新内さんは「すごくネガティブな言い方をすると、『変えられるの』って、結構解決までが途方もない遠距離に感じてしまうんです。普通にパッて考えたら、すごく遠距離に感じて、一種の絶望すら感じたりするんです」と率直な思いを吐露。今回浅田さんに話を聞き「それこそ最後に言っていたように、ちょっとみんなが気にかけるというか、歩み寄りがあったら、その遠距離がだんだんと中距離、近距離になっていって問題が解決していくことだとは思うんで」と“光”を見出したことを明かした。
「そこで諦めちゃいけないというのは、まさに私がこの番組をやっている存在意義とも思っているので、本当に歩み寄りましょう、皆さん! 半歩でいいし、ベイビーフットでいいので、歩み寄るっていうことが大事ですし、この番組をやっていて全部に通じて言えるのが、やっぱり愛を持って動いていくということはすごく大事だということなんですよね。忙しいとか、自分が我慢すればとかいうよりも、自分で消化して歩み寄る努力をした方が、すごく世の中って円滑にまわるんじゃないかなって感じるので、できるところから愛を持って動いていく。絶対、ここにつながるんだよなぁと思います。それが、きっと真理なんだと思うんです。本当に、皆さんもこの番組を聴いているからこそ、ちょっとでもアクションを起こしていただけたらうれしいなと思います」
そう呼び掛ける新内さんの言葉は、確かな熱を帯びていた。