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腸内環境次第で持久力がアップ! 腸内細菌が体に及ぼす驚きの仕組みとは


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3 すべての人に健康と福祉を
腸内環境次第で持久力がアップ! 腸内細菌が体に及ぼす驚きの仕組みとは

今夏は国際的なスポーツの祭典が行われたこともあり、さまざまなスポーツやアスリートに注目が集まりました。試合や大会に向けてハードなトレーニングを日々続けているアスリートたちの持久力に驚かされた人も多くいるのではないでしょうか。実は近年、アスリートの腸内環境が一般の人に比べて多様性に富み、腸内環境によって持久力がアップすることが、研究によって明らかになりました。

腸内環境の違いが10㎞走のタイムにも影響

「腸内細菌が持久力を高める」とする研究成果が発表されたのは2023年。慶應義塾大学の福田真嗣特任教授らとアサヒクオリティーアンドイノベーションズ株式会社、青山学院大学陸上競技部による共同研究で、青山学院大学陸上競技部長距離ブロックの男子選手48名の腸内フローラ(腸内に⽣息する細菌の群集。別名・腸内細菌叢)を検査したところ、同年代男性に比べて腸内細菌の「バクテロイデス・ユニフォルミス」が多くいることが明らかになりました。この腸内細菌のエサとなるオリゴ糖「α-シクロデキストリン」の摂取を8週間続けると、摂取しなかったグループと比べて10㎞走るエクササイズ・バイクのタイムが約10%も短縮。さらに、運動後の疲労感も軽くなったと報告されています。

図1 アスリート群と一般男性群の腸内B.uniformis菌数
図2 アスリート群の腸内B.uniformis菌数と3,000m走行タイムの相関

カギは「短鎖脂肪酸」、持久力向上のほか肥満抑制などたくさんの健康効果も

この持久力に影響をおよぼす「バクテロイデス・ユニフォルミス」が、オリゴ糖「α-シクロデキストリン」を食べると、腸内で「短鎖脂肪酸」のひとつ「プロピオン酸」が産生されます。産生された「プロピオン酸」が肝臓に届くと、運動時の主要なエネルギー源となるブドウ糖の生成が促進され、結果的に筋肉の持久運動を継続させることができるようになると考えられています。

「短鎖脂肪酸」は、大腸内の腸内細菌が、食物などに含まれるエサを取り込み、分解してつくられる代謝物質のひとつ。そのエサは主にオリゴ糖や食物繊維を含む食材です。短鎖脂肪酸を生み出す腸内細菌のうち、日本人の腸内に多く棲んでいるとされる主なものは「バクテロイデス」「ルミノコッカス」「プレボテラ」「ビフィドバクテリウム」、「フィーカリバクテリウム」「ブラウティア」の6種類と言われています。短鎖脂肪酸は、持久力向上だけでなく、肌荒れなどの炎症抑制、太りにくくなる肥満抑制、花粉症などのアレルギー抑制など、さまざまな効果が報告されており、最新の腸内環境研究においても非常に注目されています。

腸内細菌のバランスは千差万別、自分に合った腸活が大切

人の腸内には約1,000種類、約40兆個もの腸内細菌がいるとされており、腸内にいる最近の種類やバランスは人それぞれで違っています。腸内細菌と言えば、有名なビフィズス菌を思い浮かべる方も多くいるかもしれませんが、実は同じ日本人でも腸内にビフィズス菌が多い人もいれば、ほぼゼロという人もいます。

今回の研究を行った、慶應義塾大学先端生命科学研究所の特任教授を務める福田真嗣氏は「トップアスリートの腸内フローラが一般の人々よりも多様性に富んでいることは以前から報告されていましたが、それらの腸内細菌が持久力にどのように影響を与えるのか、そのメカニズムはわかっていませんでした。今回の研究で初めてアスリート群の腸内には主要な腸内細菌のひとつであるバクテロイデス・ユニフォルミスが多く存在していること、その菌の数が多いほど 3,000m タイムが速いという相関関係が明らかになりました。さらに、この菌が好むオリゴ糖(α-シクロデキストリン)を摂取することで、短鎖脂肪酸を産み出し、持久力を高めることができることがわかりました」と解説。

そして、「アスリートだけでなく、運動習慣のある人にとっても腸内環境は大切であると言えるでしょう。同じものを食べたり同じ行動をしても、人によってその効果が十分にあったりなかったりしますが、それは腸内フローラが人によって異なるためです」と話し、一般の人も自分の腸内フローラに合った食事を摂ることで、短鎖脂肪酸の産生を促進してパフォーマンスを上げることが可能になると考えられるとしています。

福田真嗣氏

運動習慣のある人の中には、タンパク質を積極的に摂取するように意識している一方で、果物の摂取はさほど意識していないという人も少なくないのではないでしょうか。果物の摂取量の目安は1日に200g程度とされていますが、20代~40代の果物の摂取量は60gにも達していません(厚生労働省 「食事バランスガイド」について/令和元年国民健康・栄養調査の概要より)。

果物は、運動時のエネルギー補給に優れているだけでなく、ビタミンやミネラルなど運動によって消費されてしまう栄養をたくさん含むものが多く、オリゴ糖や食物繊維など短鎖脂肪酸の産生につながる栄養素も豊富な食材です。バナナやプルーン、キウイフルーツ、オレンジ、リンゴなど、取り入れやすい果物から普段の食習慣に取り入れることも腸活につながり、運動パフォーマンスの向上を図ることができます。

最近では、検査などによって自身の腸内フローラをチェックすることもできるので、興味のある方は自分に合う食習慣を考えるためにも調べてみてはいかがでしょうか。