洋上で水素を生産する「ウインドハンター」、船は運ぶ時代からエネルギーを創る時代へ――商船三井が大阪・関西万博 未来社会ショーケース事業「フューチャーライフ万博・未来の都市」パビリオンに展示
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2025年4月から10月にかけて開催される、EXPO 2025 大阪・関西万博。会期中は、多くのイベントや催しなどが開催されるほか、国内外のパビリオンではさまざまな展示が行われます。そんなパビリオンのひとつ、未来社会ショーケース事業「フューチャーライフ万博・未来の都市」(以下、「未来の都市」)のパビリオンは、2025年日本国際博覧会協会と12者の企業・団体による共同出展で、「幸せの都市へ」をテーマにした経済発展と社会課題の解決を両立することを目指し、未来の都市の姿を描いていきます。
商船三井は、この「未来の都市」に協賛し、個者展示では同社が手掛ける低・脱炭素事業のひとつ「ウインドハンタープロジェクト」を中心とした展示を行います。このプロジェクトは、船の帆の技術と新しい高度な技術を掛け合わせ、洋上の風で航行しながらグリーン水素をつくり、貯蔵して運ぶことができる画期的な次世代水素生産船「ウインドハンター号」を活用し、カーボンゼロを目指すというものです。
商船三井は「未来の都市」の場でどのような未来を創造するのか、大阪・関西国際博覧会推進プロジェクトチーム プロジェクトリーダーの森 裕紀さん、技術ユニット 術研究所 所長の島 健太郎さんにお話しいただきました。
風の力で水素を生産、貯蔵、運搬まで実現する「ウインドハンター」
商船三井は、海運業を中心とした社会インフラ企業として、海洋事業、物流事業、港湾事業、洋上風力発電関連事業、クリーンエネルギー事業、不動産事業などを展開しています。特に外航海運でドライバルク船やLNG船、自動車船など、さまざまな種類の船を所有しているのは非常に稀なこと。周囲を海に囲まれた日本ならではの特徴で、日本のみならず世界の海運業をけん引しています。
今回、「未来の都市」への出展のきっかけとなったのは、広報や宣伝といった部署ではなく、技術ユニットからの希望で実現したそうです。
「本来は広報などが主導してスタートするものかもしれませんが、今回は技術ユニット(当時技術部)から大阪・関西万博協会側へ出展可否照会、打ち合わせ、最終的に出展に至りました。ウインドハンターの実証実験がだんだんと軌道に乗ってきた中で、184日間という長い会期、そして幅広い客層の方々にご覧いただける場で、未来のための技術開発をしている我々も何かできることが無いだろうかというのがきっかけだったと思います(島さん)」
「我々はBtoB企業ですから、実はこういう形で名前を出して知っていただくような活動をこれまであまり積極的にやってこなかったんです。万博のような大きなイベントでの展示は、我々にとってかなりチャレンジングなことでした(森さん)」
もともと商船三井では、硬翼帆式(布のような軟翼ではなく、形が変形しない翼)の風力補助推進システム「ウインドチャレンジャー」を以前から開発しており、再生可能エネルギーである風の力を船の推進力に活用する取り組みをおこなってきました。大型貨物船の多くは、重油などの化石燃料が主な動力源となっており、貨物の運搬には温室効果ガスが排出されてしまいます。もし、私たちが環境に良いアイテムを選んで購入したとしても、それを運ぶ際にはCO2をはじめとする温室効果ガスを排出してしまうというのが現状です。ウインドチャレンジャーは風力を船の推進力に使うことで化石燃料の使用量を減らし、温室効果ガスの排出を抑えることができる技術です。
「未来の都市」で展示されるウインドハンターは、ウインドチャレンジャーで培った技術を活用し、さらに発展させたもので、まったく燃料補給することなく、究極のゼロ・エミッションを実現する船をつくる共に水素サプライチェーンを構築する事を目的としたプロジェクトです。このウインドハンターの目的は、「未来の都市」が描く「Society 5.0」を目指した社会、SDGs達成への貢献といったビジョンと大きく共鳴しており、パビリオンへの協賛への大きな動機付けとなりました。
ウインドハンターは、帆で風を受けて船が推進することで水中のタービンを回し、発電した電力で水素を生産させています。生産した水素はトルエンと反応させてMCH(メチルシクロヘキサン)という物質に転換して貯蔵されます。風が弱いときには、貯蔵したMCHから水素を放出し燃料電池に反応させて発電、水中のプロペラを回転させて推進していきます。小型のプロトタイプはすでに完成しており、東京湾で実証実験などを重ねています。
「机上の論理だけでなく、40フィート、約12メートルと小型ですが、リアルの船がプロトタイプとしてありますので、大型化が実現できる技術だと確信しています。直近でも実験を予定していますが、大型船にしっかりと技術的なフィードバックしてけるように実証実験を重ねていきたいと思います。最終的には200数十メートル規模の商用船になるようにしていきたいですね(島さん)」
風を受けた帆の動きを間近で観察できる体験型ブース
「未来の都市」では、「交通・モビリティ」ゾーンとして、川崎重工業と関西電力送配電も展示。商船三井では、ウインドハンターのスケールモックを展示し、ウインドハンターの特徴的な動きを現実的に捉えてもらえるようにしてあります。
「実際のウインドハンターは、何十キロ、何百キロもの沖合に出てしまうので、帆がどのように動いているのかを生でご覧いただくことは難しいんですが、このような展示だからこそ帆の動きの精密さや緻密さを本物に近い形で体験していただけるようになっています。みなさまに参加していただく体験型の展示として、楽しんでいただきたいです。堅苦しくならず、ワクワクするようなものをお見せしたいですね(森さん)」
模型の大きさは、全長約4メートル、全高2メートル以上にもなります。来場者には実際に風を起こし、その風でウインドハンターが水素を生産して運んでいく様子を体験してもらう狙いだ。水素が出来ていく様子は、大型スクリーンに投影。映像でウインドハンターの仕組みをしってもらうとともに、海運業が将来どのようなことを実現し、発展させていこうとしているのかを示していく予定です。
商船三井グループでは、2050年ネットゼロ・エミッションの達成に向けて、LNGやアンモニア、合成メタンといった代替燃料船の開発、導入など温室効果ガスの排出を減らすべくさまざまな取り組みをおこなっており、ウインドハンターもその一環です。
ウインドハンターはクリーンなエネルギー源となるグリーン水素を風の力で生産し、その水素を自らの動力源とすることができることも画期的な部分ですが、さらにその水素をMCHにて貯蔵・運搬し、水素を陸上で取り出すことによりその水素エネルギーを他のエネルギーに転用させることができるところも、大きな可能性を感じられます。
「ウインドハンターで生産した水素はトルエンと結合させてMCHの形で貯蔵されます。このMCHは再び水素とトルエンに分けることができますし、MCHは非常に安定した物質なんですね。例えば液体水素はマイナス253度でかなり冷たくしないといけません。その点、MCHは常温常圧で、現在実証で行っている小さな船でも貯蔵できます。ウインドハンターがどんどん風の強いところに行って水素を作り、港に戻ってきてMCHを陸揚げするという点では、ガソリンのインフラが使えるという観点から普及しやすいのではと考えています(島さん)」
ウインドハンターの技術が進めば、巨大な水素プラントを洋上に作り、そこで作った水素を運搬してさまざまなもののエネルギー源として活用するような未来もやってくるかもしれません。今後は、まるで魚群探知機のように風の強い地域を探索する風群探知センサーなど、周辺技術の研究も進めていくそうです。
「日本は貿易業の99.6%が船で運ばれています。脱炭素は当然いろいろな業界が取り組んでいますが、物流の大きな部分を担う海運業が先んじて環境に対応していくことは非常に大切なこと。その業界の中でも私たちがリードしていけるよう、スピード感と責任感をもって取り組んでいきたいです(森さん)」
「船はこれまで、人や物を運ぶのが主でしたが、ウインドハンターは、自分で荷物を作り出していくというパラダイムシフトの中でも非常に大きなインパクトのあるもので、船の定義を変えるようなものではないかと、個人的には感じています。これからも船の可能性を広げるような研究や開発をしていきたいですね(島さん)」
日本は四方を海に囲まれ、海洋資源に恵まれた環境にありました。古来は風の力を使っていた船も、やがて化石燃料による動力が中心になるよう変化していきました。それが今、再び風の力で水素というクリーンなエネルギーを船で作れるようになりつつあります。「未来の都市」では、そのほんの少しだけ先の未来を体感することができるはず。ぜひ、未来を駆け抜けていく風を感じてみてください。
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株式会社 商船三井
技術ユニット 技術研究所 所長 島 健太郎さん
コーポレートコミュニケーション部 大阪・関西国際博覧会推進プロジェクトチーム プロジェクトリーダー 森 裕紀さん