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ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞 20年の軌跡に見るジェンダード・イノベーション


この記事に該当する目標
4 質の高い教育をみんなに 5 ジェンダー平等を実現しよう 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞 20年の軌跡に見るジェンダード・イノベーション

日本の女性科学者の割合は、全世界平均の33.3%に比べ、わずか18.5%にとどまっています。この背景の一つには、理系分野への進学をためらわせる“アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)”が、いまも根強く残っていることが挙げられます。こうした社会課題のアプローチの一つとして、日本ロレアルでは、物質科学や生命科学の分野で活躍する女性研究者を対象に、研究活動の継続支援や成果をたたえる「ロレアル─ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」というプログラムを2005年から継続しています。
創設から20年、支援してきた女性研究者は75名にものぼります。科学におけるジェンダー平等を目指し、SDGsの理念を体現するこの取り組みは、いま新たなフェーズへと進化しています。2025年10月、大阪・関西万博「EXPO2025」で開催された20回目の授賞式を通して見えてきた、“科学と多様性の未来”を探りました。

「世界は科学を必要とし、科学は女性を必要としている」ロレアルグループの世界的な女性科学者支援プログラム。「日本奨励賞」は今年で20周年!

「世界は科学を必要とし、科学は女性を必要としている」を理念に、ロレアルとユネスコは1998年、世界的な女性科学者支援プログラム「For Women in Science(フォー・ウーマン・イン・サイエンス)」を立ち上げました。科学の進歩において「多様な視点が欠かせない」という考えのもと、これまで140か国以上で4,700人を超える女性科学者を顕彰・支援してきました。これまで歴代の受賞者から、7名ものノーベル賞受賞者を輩出しています。

その日本版として2005年に始まったのが、「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」です。女性研究者比率は、総務省統計局2024年(令和6年)科学技術研究調査よると、本奨励賞設立時の11.9%から2024年に18.5%と緩やかに増加しています。

2005 年の創設以来、本賞は、物質科学および生命科学分野で活躍する日本の若手女性科学者を発掘し、その研究成果を称え、さらなる発展を奨励することを使命としてきました。これまでに支援した 75 名の受賞者は、それぞれの専門分野において研究を推進され、科学界に貢献され、日本の科学界に新しい風を吹き込んでいます。

この20年の間に、本賞に応募される研究の質も年々高まっており、選考委員会では毎年多くの極めて質の高い研究応募の中から受賞者を選定する形となっています。

女性科学者が少ないことで社会にもたらす影響は深刻。“ジェンダード・イノベーション”の重要性とは

これまで見過ごされていた「性差」が、実は医療の場や日常生活の中で影響を及ぼしている可能性もあります。例えば以下のような例です。

・創薬研究:女性治験者数が少ない。
・メスのマウスを実験に使用:従来とは違う結果が表れることが多く、 性差により痛みの閾値や回路が違う可能性が示唆されている。
・化学薬品への耐性:女性のほうが低い傾向があるが、男子と一律の基準の場合が多い。
・外科手術用ロボットのサイズや硬さ:男性を基準としており、女性医師には使いこなすことが困難なこと。
・車の衝突実験:男性ダミーが使用されており、女性の事故死亡率は男性の1.45倍。

女性科学者が少ないことにより、女性が不利な状況に置かれる可能性もあるため、日常に潜む「性差の科学的な理解」を深めることが重要となっています。性差を科学的に分析し、研究や技術開発に反映させることで、より包括的で持続可能な社会を築く。これが“ジェンダード・イノベーション”の考え方です。

なぜ日本では女性科学者の比率が低水準のままなのか?

日本における「科学界と女性」の現状を見てみると、P I S A(OECDが実施する、15歳を対象とした国際的な学力調査)における数学・科学の学習到達度は、日本は先進国の中でも男女ともに1位です。ところがOECD諸国における理工系分野への大学等入学者に占める女性割合を見ると、低水準にあるのが現状です。この理由として、日本ロレアルのバイスプレジデントコーポレートレスポンシビリティ本部長の楠田倫子さんは、「女子は理系科目が苦手」 や「女子が理系に進学すると就職先がない」などのアンコンシャス・バイアスの影響や、ロールモデルの不在による理系職のキャリアイメージの難しさを指摘しています。女性科学者育成の課題を改善していくためには、教育機関や民間企業、行政が一体となって、社会の仕組みや風土を変えていくことから取り組んでいく必要があるといえます。

大阪万博「EXPO2025テーマウィーク“ SDGs+Beyondいのち輝く未来社会”」プログラムの一環として今年度の授賞式を実施

10月2日(木)、大阪万博テーマウィーク内会場にて、2025年度 第20回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」の授賞式とトークセッションが行われました。EXPO2025のSDGsテーマウィークの中で開催された今回の授賞式は、科学・教育・社会の交差点として、より多様な地域・世代への発信を意識した意義深いイベントとなりました。

2025年度は、物質科学と生命科学の両分野を合わせて52名の応募があり、両分野から計6名の研究者が選ばれました。例年は合計4名の受賞のところ、20周年を記念して本年度は枠を6名に拡大しました。

物質科学分野の審査を担当した東京大学名誉教授の川合眞紀氏は、「発見や開発の過程で研究者自身がどのように現象を考察し、独自の解釈を導き出したか、そして技術的な工夫をどのように行ったかを評価基準とした」と話しました。

生命科学分野の審査員を務めた京都大学名誉教授で京都産業大学名誉教授の永田和宏氏は、「世の中の潮流や注目を集めやすい研究だけではなく、研究者自身の興味や関心、新しい発見にも目を向け、その重要性を見逃さないよう審査した」と話しました。

■「物質科学」分野受賞者
木野 量子(28)
髙田 咲良(26)
仲里 佑利奈(26) 
■「生命科学」分野受賞者
上野山 怜子(28)
沖田 ひかり(28)
吉本 愛梨(29)
※年齢はいずれも2025年10月2日時点のものです

【まとめ】未来を拓く“女性科学者の時代”へ──「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」20年の軌跡が示す希望

授賞式後、「女性科学者支援の20年─その軌跡と未来への展望」をテーマにトークセッションが行われ、科学界におけるジェンダーギャップや女性研究者の役割について活発な議論が交わされました。本奨励賞の歴代の受賞者たちは、それぞれの分野で目覚ましい成果を上げ、科学の発展に大きく貢献しています。理系分野への進路選択は依然としてハードルが高いとされる中、受賞者の方々が体現する「科学のおもしろさ」や「研究のやりがい」は、次世代の女性たちが臆することなく理系分野へと踏み出す大きなきっかけとなります。「ロレアルーユネスコ女性科学者日本奨励賞」を通じて、彼女たちの輝かしい功績と情熱が、次世代へどのように継承されていくのか、今後も注目をしていきましょう。