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「青切符」で変わる日本の自転車社会|デンマークに学ぶ“持続可能な移動”のかたち


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11 住み続けられるまちづくりを 12 つくる責任つかう責任 13 気候変動に具体的な対策を
「青切符」で変わる日本の自転車社会|デンマークに学ぶ“持続可能な移動”のかたち

2026年4月1日、自転車の交通違反に対して反則金を科す「青切符」(交通反則通告制度)が導入されました。これにより自転車はこれまで以上に「責任ある車両」としての位置づけが明確になります。

制度開始に先立ち、デンマーク発のe-BIKEブランドMATE.BIKEが3月31日(火)に「MATE.BIKE記者発表会 デンマークに学ぶ交通安全」を開催しました。

イベントでは、MATE.のジャパンアンバサダーを務める窪塚洋介さんとデンマーク大使館の岡崎氏、MATE.のマーケティング部の金田氏が登壇し、自転車先進国デンマークの事例をもとに、安全で持続可能な移動のあり方が共有されました。本稿では、発表内容をもとに日本の自転車社会の現在地と課題を整理します。

自転車は「持続可能な移動手段」となり得るか

MATE.の本拠地があるデンマークは、人口約600万人の小さな国でありながら、SDGs達成度や幸福度で常に世界上位に入る“持続可能性の先進国”です。

福祉や教育が整い、社会への信頼が高いことで、人々は安心して暮らしています。さらに、自転車を中心とした都市設計や環境政策により、「日常生活そのものがサステナブル」という点が特徴です。

デンマークでは、個人の努力だけに依存するのではなく、社会の仕組みとしてサステナブルが成立しています。

本発表会では、自転車の価値を「単なる移動手段を超えた存在」として再定義する必要性が示されました。MATE.BIKE JAPANは、ブランドのビジョンとして「100年後の未来のために」を掲げています。移動という日常行為を通じて、環境や社会にポジティブな影響を与えるという考え方です。

電動アシスト自転車(e-BIKE)は、走行時にCO2を排出せず、都市部における移動手段の分散化にも寄与します。発表では、交通渋滞や満員電車といった都市課題に対し、自転車の活用が有効な選択肢となり得る点が示されました。

一方で、普及の拡大とともにマナー違反やルール未理解といった課題も顕在化しています。こうした背景から、「自転車を責任ある車両として捉える文化を育てる必要がある」との認識が共有されました。

MATE.のマーケティング部の金田氏は「ルールがあるからこそ、より自由で快適な移動が実現する」と語り、自転車を“責任ある車両”として捉える必要性を強調しました。

デンマークに見る、自転車社会を支える仕組み

デンマークは世界有数の自転車大国としても知られています。首都コペンハーゲンでは、66%の人が自転車を所有し、車と自転車の所有比率は5:1。日常的に自転車を利用し、通勤や通学の主要な移動手段となっています。

その背景には、1970年代のエネルギー危機を契機とした政策転換があります。政府は自動車依存からの脱却を目指し、自転車専用レーンの整備や交通ルールの明確化を進めてきました。

さらに重要なのは、市民の意識です。ルール遵守が当たり前という文化が根付いているため、安全で快適な移動環境が維持されています。インフラ・制度・意識が一体となることで、「自由に走れる社会」が実現しているのです。

その背景には、インフラ整備と教育の両面からのアプローチがあります。道路は「車道・自転車道・歩道」の三層構造で整備され、自転車専用レーンが広く確保されています。また、幼少期から自転車教育が行われ、交通ルールを自然に身につける仕組みが構築されています。

登壇したデンマーク大使館の岡崎氏は、「ルールを守ることが、結果としてよりスムーズで快適な移動につながるという共通認識が社会に浸透している」と説明しました。こうした環境整備と意識の蓄積が、自転車を中心とした持続可能な都市交通の実現を支えています。

窪塚氏もコペンハーゲンで実際に自転車に乗り、「自転車専用の道路が整備され、車よりも早く移動できる場面があることに驚いた。何より、誰もが気持ちよさそうに乗っていた」と語りました。

日本における課題と「青切符」の意味

一方、日本では自転車利用者は多いものの、ルールの理解や順守に関しては課題が残っています。窪塚洋介さんも、「ルールがあるからこそ自由が成り立つ。お互いが安心して動けることで、より自由に移動できる」と述べ、制度を前向きに捉える姿勢を示しました。

発表内で紹介された調査によると、「青切符制度の内容を詳細まで理解している」と回答した人は2割未満にとどまり、「自転車ルールが浸透している」と感じている人も1割程度に過ぎません。

こうした状況の中で導入される青切符制度は、違反への抑止だけでなく、自転車に対する社会的認識を変える契機と位置づけられています。また、窪塚氏は「信号無視やながら運転、並列運転、 無灯火など100種類以上の違反行為が対象ですが、すぐにすべてを理解するのは難しい。少しずつ意識を高めていくことが重要」と語り、個々の行動変容の必要性にも言及しました。

【まとめ】持続可能な自転車社会に必要な3つの要素――インフラ・教育・意識

今回の発表を通じて示されたのは、自転車をめぐる課題が単なる交通ルールの問題にとどまらず、都市のあり方や社会の持続可能性に関わるテーマであるという点です。

デンマークの事例が示すように、安全で快適な自転車社会は、インフラ整備、教育、そして市民の意識が相互に作用することで成立します。特に「ルールは制限ではなく、より良い移動を実現するための前提である」という考え方は、日本においても重要な示唆を持ちます。

窪塚さんが語った「ルールがあるからこそ自由が成り立つ」という言葉は、自転車との向き合い方を見直す重要な視点を示しています。

青切符制度の導入は、こうした意識転換を促す契機となります。自転車を「自由な乗り物」として享受するためには、それを支えるルールと社会的合意が不可欠です。

自転車は環境負荷の低減や都市交通の効率化に寄与する持続可能な移動手段として注目されています。その普及を支えるには、インフラ整備だけでなく、利用者一人ひとりの意識改革が不可欠です。

青切符制度は、自転車を社会の中で再定義する契機となります。デンマークのように、ルールと自由が両立する交通環境を実現できるかどうかが、日本の次の課題といえるでしょう。

毎日の通勤や買い物といった私たちの身近な移動が、社会を変える起点になります。自転車との向き合い方が変われば、街のあり方も変わっていくはずです。


執筆/脇谷美佳子